山手貨物線の電気機関車

私がいすみ鉄道で展開している観光鉄道ビジネスのターゲットは団塊の世代ではありません。
いつだったか、そう申し上げたところ、各方面から反響をいただきました。
反響というのはバッシングであったり、称賛であったり、様々だったのですが、別に私は団塊の世代の皆様方に恨みがあるわけでもなく、排除しようとしているわけでもないんですが、ただ、大量生産、大量消費、そしてバブルを経験されていらっしゃる方々に、今、いすみ鉄道で行っているローカル線ビジネスは、一般論として受け入れられる要素は少ないんじゃないかと思うからです。
これはあくまでも一般論であって、昨日まで3日にわたって説明した、「必要なものを売る商売」と、「要らないものを売る商売」を良くお読みいただければ、いすみ鉄道は一般論で語られるような商売をしていませんから、昨今、一般論として語られている団塊の世代を相手にしたビジネスは、いすみ鉄道では取り入れていませんよ、ということなのです。
では、一般論ではなくて、「要らないものを売る商売」としての団塊の世代の皆様方はどうかというと、私は、ごく一部の方々に対して、とても感謝しているのです。
それは、私が子供の頃。今から40数年前にさかのぼります。
当時、日本全国、世をあげてSLブームというのが起こりました。
消えゆく蒸気機関車を追い求めて、日本中が湧きあがったのです。
これは、昨今の「何とかブーム」には比べ物にならないほどの大きなブームで、テレビドラマや演歌の歌詞に蒸気機関車が登場するのはもちろん、お菓子からレコードジャケット、はては野菜の段ボール箱にまで蒸気機関車の写真や絵を載せると、とてもよく売れた時代でした。
私は小学生から中学生になるころでしたが、そのころ、SLブームの中心になっていたのは当時の大学生から20代の若者たち。つまり、今思えば団塊の世代の皆様方だったんです。
当時、少ない小遣いを工面して蒸気機関車の撮影に行くと、見ず知らずのお兄さんたちが、いろいろなことを教えてくれました。
私の持っていたカメラはオリンパスの小型カメラで、お兄さんたちの機材と比べるととてもみすぼらしかったんですが、そのカメラでの写真の撮り方なんかも丁寧に教えてくれたり、おそらく自分たちより一回り下の子どもが同じ趣味を持っていたからでしょう。どこへ行っても、誰もがとても面倒見が良い人たちだったことを覚えています。
そんな、団塊の世代のお兄さんたちが、ある時私にこう言いました。
「君ね、今はSLブームで、君は東京からなかなか遠くまで撮影に来れないかもしれないけれど、君の住んでいる東京にだって、撮っておかなければならないものがたくさんあるんだよ。」
私が、どういうことかと尋ねると、彼らは、
「SLだって10年前は東京でふつうに見られたんだ。それが時代と共に、今、貴重になってきている。そう考えると、今東京で走っているものでも、10年後に貴重になるものがあるはずだから、それを今のうちに写しておくんだよ。」
そう、口をそろえて言うんです。
その話を聞いてから、私は塾の行き帰りに、カバンにカメラを入れて、当時、珍しくもなんともなく、ふつうに見られ、いくらでも走っていた山手貨物線をはじめとする貨物列車の先頭に立つ茶色い電気機関車の写真を撮るようになりました。
それからまもなくしてSLは全廃しましたが、10年もしないうちに、鉄道雑誌が山手貨物線をはじめとする旧型電気機関車の特集を組むようになりましたが、その時になって、私は当時のお兄さんたちが言っていたことがわかったわけです。
今、いすみ鉄道でキハ52やキハ28を走らせていると、うれしそうに乗っている団塊の世代のおじさん達を良く見かけます。
彼らは、私の姿を見つけると、「ありがとう。こういう車両を走らせてくれて。」と、異口同音におっしゃいます。
「この列車で高校に通った。」
「上京する時にこれに乗ってきた。」
人それぞれに想い出があると思いますが、キハを走らせていて、一番喜んでくれるのが、団塊の世代の人たちなんです。
そして、私は、そういう、かつてのお兄さんたちが、いすみ鉄道にやってきてくれるのが、一番うれしいんです。
なぜなら、今の私があるのは、彼ら、団塊の世代のお兄さんたちのおかげであり、彼らがここまで導いてくれたからなんです。
でも、これは、一般論では語れないことだから、私は、個人的な話として、かつてのお兄さんたちに感謝しているのです。
いすみ鉄道でキハ52やキハ28が走っているのは、皆様方のおかげです。
私をここまで導いてくれて、本当にありがとうございます。
団塊の世代の皆様方こそ、このキハの世界をお楽しみいただける方々だと思います。
どうぞ、存分にお楽しみください。
そして、若い人たちに、その「心」を引き継がせてあげてください。
これからもご指導をよろしくお願いいたします。

[:up:] EF15とEF13の重連が引く貨物列車。 巣鴨にて

[:up:] 夕暮れの新宿駅で入換をするEF13

[:up:] 朝日を浴びるEF15 新宿

[:up:] 雨の原宿駅を通過するEF15牽引の長~い編成。
皆さんはEF13とEF15の見分け方、わかりますか?

[:up:] 私のホームグラウンド、板橋駅で入換をするDD13 一次形。 
数年前まではこの入換をD51がやっていたことが、当時は信じられませんでしたが、今ではDD13が板橋に出張して来て、貨物の入換をやっていたことすら信じられない遠い昔です。
(すべて昭和47~48年の撮影です。)
こういう写真が残っているのも団塊の世代のお兄さんたちのアドバイスのおかげなんです。