「外部顧客」と「内部顧客」

鬱陶しい日々が続いておりますが皆様お元気でいらっしゃいますでしょうか?

ちょっと疲れがたまっているようで、なんとなくスランプ。

文章が浮かびません。

こういう時は膨大な過去帳から・・・

先日お話ししました「ボスの条件」の数日前に書いた2011年7月24日の「日記」です。
キハ52が走り始めた直後、こんなことを考えていたのですね。

よろしければどうぞお付き合いください。

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私は日本の会社をよく知らないので、日本企業が従業員に対してどのような教育を行っているかということはわかりませんが、欧米の企業ではマネージメント(管理職)への教育で必ずといって良いほど教えられるのが、この「外部顧客と内部顧客」だと思います。

英語でいうと External Customer と Internal Customer

サービス業や製造業のみならず、組織の中をより効率的に、生産性を上げるための基本的知識として、組織や企業を取り巻く環境全体を顧客の視点から管理するテクニックと言えば解りやすいでしょう。

古い日本では組織というと「タテ割」社会が当然で、上の言うことに逆らわず、下には自分の言うことを聞かせるのが、仕事をスムーズに進める最善の方法であると、今でも信じているような会社や人間を見ることができます。

そうしていればとにかく楽ですし、責任が自分にかかることもありませんから、順調に行っている大きな会社ほど、その傾向があるかもしれません。
でも、大きな会社でも、小さな会社でも、会社が底力を発揮しなければならないような事態に陥った時には、古い日本のやり方では、本来組織が持てる力を発揮することなど不可能なのです。

レストランを例に説明しましょう。
レストランに食事にやってくるお客様。このお客様が外部顧客です。
外からやってくるのですから外部顧客というのはご理解いただけると思います。
では、内部顧客はというと、従業員、料理長、経営者、納入業者など、それぞれが相関関係で成り立っています。

例えば、料理長にとってみればウエイトレスや皿洗いのアルバイトなど、下で働いてくれる人たちが内部顧客としてのお客様です。

料理長は、自分が作った料理を、直接お客様に運ぶのではなく、部下であるウエイトレスに運んでもらいます。
料理を盛りつけるお皿は皿洗いのアルバイトが洗っています。
料理長がどんなに素晴らしい料理を作っても、ふてくされたウエイトレスが「フン」と言ってお客様にお出ししては、お客様にご満足頂くことはできませんし、お皿に汚れが残っていたり、欠けていたりすれば、お客様は不快な思いをされるでしょう。
だから、料理長は自分の部下であるウエイトレスや皿洗いのアルバイトの力を引き出して、より良いサービスをお客様に提供してもらえるように、彼らに気持ち良く働いてもらえる環境作りをしなければなりません。

ウエイトレスに対して、いちいち「お前は使えないから明日から来なくてもよい!」と宣言していては、業務が回らないのです。

この関係を、組織における内部顧客と言います。

同じように、料理長の上に立つレストランの経営者は、料理長に実力をフルに発揮して美味しい料理を作ってもらうための努力をしなければなりません。
また、料理長や経営者は、納入業者に最高の材料を運んできてもらうために、彼らにそうさせるための努力を自らしなければならないのです。

これが私が受けたマネージメント教育で、平社員から主任、係長、課長、部長と上がっても、同じことを終始一貫して教えられました。

ところが、日本の会社では、ともすると、徒弟制度の結果として威張り散らしている料理長の姿が当たり前だったり、上に立つ経営者は料理長に材料コストの削減を高圧的に命じたり、納入業者に対して、「お前のところから買ってやるんだから安くしろ」といった上から目線の態度をとったりしているのではないでしょうか。

だから、納入業者は、「この店は質よりも価格だ」と良い材料を入れてくれなくなるし、料理長は、少しぐらい硬くても安い肉を使って責任逃れをするようになるし、コスト削減のために数を減らされたウエイトレスが、忙しさを理由に冷めた料理を平気で運んでお客様にお出しするお店になっていくのです。

これでは、組織が本来持っている活力など出てくるはずもありません。
結果として、お客様が来なくなり、そのお店は閉店することになるかもしれません。

いすみ鉄道の私の仕事では、組織上私の部下にあたる鉄道部長、総務部長、運輸課長、工務課長などに、私が指示を出して業務を円滑に進めます。これが私の役割ですが、私は、彼らが実力を思う存分発揮できるような環境作りや資金手当て、さらにはムード作りなどをするのが仕事であり、社長だからと言って、決して部下を怒鳴りつけたり、高圧的になったりすることではありません。

日本の会社組織で育ってきた彼らにとってみれば、2年前に私が就任して、そのような自分のスタイルで仕事を始めた時には、おそらく驚きや戸惑いもあったと思いますが、私は、自分が育った欧米企業の環境の中で培ってきたマネージメント方式を実践することで、彼らにプロとしての力を思う存分発揮していただき、結果としていすみ鉄道が活気ある会社になったのだと思います。

だから、私は特別な能力がある人間ではなく、私の部下として仕事をしてくれているプロフェッショナルのスタッフの皆が、いすみ鉄道を活性化してくれたのです。

これが、私のマネージメントです。

だから、私は売店のパートさんとも直接プライベートの相談に乗りますし、駅構内で草刈りをしてくれる皆様にも、友達のように接してもらっているのです。

小さな会社ですから、当然といえば当然ですが、「社長に話すときは、まず自分を通してから」なんてことを言って自分の立場を主張するような部長さんや課長さんたちは、いすみ鉄道にはいないのです。

でも、どこの組織や会社にも必ず1人や2人はいますね。
せっかく主任に抜擢されたのに、偉くなったと勘違いして、預かっているチームのメンバーを上から目線で見下して威張っているチームリーダー。
ひどいのになると、自分は経営や人事に直接関与していないのに、部下に向かって「お前の給料は誰が払っていると思っているのか?」とか、「お前は使えないので降格する」なんて平気で言ったりする。
そういうリーダーに組織を任せると、今までスムーズに行っていたチームがぎくしゃくしだして、人は辞めていくし、ノーチェックで納入された不良品が気づかないうちに店頭に並んでいたりと、だんだんおかしなことになってくる。

主任なんだからそのあたりで気づけばいいと思うけど、そういう人間には100%のことを伝えるのに50か60%を話したのでは、あとは自分で察することができないから禅問答にしか聞こえないし、100%のことを120%にしたり150%にしたりして、かみ砕いて教えようとすると本人のプライドが許さないようで、
「私のどこがいけないのですか?」なんて言ってくるから、いつまでたっても「長」のつく仕事を与えらないどころか、せっかく一生懸命やっているのに、本人にとって不本意な結果に終わることになるのです。

せっかくいい大学出てるのに、いい大学を出たばかりに、自分は偉いと思って威張り散らすのだから、あとから来た者に追い越され、いつまでたってもどうして上に上がれないのか、理解できずに不本意なことになるのであります。

そして、そういうリーダーの力を見極めて、良きにつけ悪しきにつけ、次の手を打つのも、内部顧客の管理なのであります。

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まあ、考えていることは今もまったく変わりありませんね。
私は体育会系ではありませんから、下に威張り散らしたりしないし、「文句を言わずに俺の言うことを聞け。」などと言ったこともありません。

同様に上に対して「よいしょ」もしませんから、日本的企業の上の人たちから見ると腹が立つでしょうね。「あいつはなんて生意気なんだ。」とか、思われることになるのです。

特に田舎になればなるほどなんですが、なぜなら日本企業って基本的にはムラ社会ですから、まあ、田舎と一緒ということなのです。

でも、田舎って良いところなんですけどね。

住んでる爺さんたちをのぞけばですが・・・


▲2011年7月 文化放送にて 弘兼憲史さんと