黄色い太陽の朝

昨日は夜行列車でした。
先週黒SLが急に故障してご予約いただいていたお客様全員に「急遽代わりのSLで走ります。」とご案内したところ、「じゃあ、乗らない」とキャンセルのお申し出をいただいた方が数名いらっしゃいましたので、昨日の晩は約90名様にご乗車いただきました。

SLが不具合を起こして復帰のめどが立たない中、実は補機に使用する電気機関車も相当な年代物ですし、客車の方もこれまた骨とう品ということで、最近何だか皆さんご機嫌斜め気味。
車両課の若手スタッフがかなり苦労してだましだまし使っているという状態です。

あらゆるリソースがじり貧状態の中では、各種観光列車も安定的な収益源になることは難しく、まして車両ばかりではなくて、悪天候だと落石や倒木、天気がよかったら野生動物の出没などなどの外的要因も田舎の鉄道では発生することから、まぁ、一言で言うと綱渡り状態なのでありますが、ありがたいことに夜行列車のような尖った商品をご購入いただけるお客様というのは、ピラミッドの頂点に位置するいわゆる「信者顧客」の方々でありますから、私たちにとってはありがたい存在で、とても助かるのであります。

何が助かるかと言うと、信者顧客の皆様方は「クレームしない。」

昨晩もSL以外の車両のトラブルで発車時刻の目途が立たない状況にもかかわらず、皆さん静かにお待ちいただいておりましたが、発車時刻の22時を過ぎても発車の目途が立たない。
22時半を過ぎても入換が始められない。
まして外は激しい雨。
そういう状況の中で、静かにお待ちいただいている皆様方を見て、私は「発車のめどは立ちませんが、お客様をホームへ入れるように。」と駅に指示を出してアナウンスを入れてもらいました。

改札を開始すると満を持したようにお客様は皆さん雨のホームへ。
側線で車両点検をしている夜行列車用の編成を思い思いに撮影されています。

やがて、列車は入換を開始してホームへ。
先頭の機関車も代走。
客車も当初予定していた客車が使えず、代走。
後ろの電気機関車も国鉄色から西武色に変更。
そういう中で、皆さん穏やかな表情で列車にご乗車されました。

使用客車の変更って、つまり座席位置が一部の車両で変わるのです。
だから、何名かのお客様には号車変更、座席変更をお願いし、さらに雨漏りする座席もあって座席変更が必要な方も。
最終的には数名キャンセルのお客様が出た関係で何とか皆さんにお座りいただいたという、まさに綱渡りです。

さらに綱渡りなのが深夜に予想される大雨。
事前の天気予報では災害級の大雨になるところもと言われていたので、雨量計の数値が規定値を超えた場合の運転取り扱いについて、「列車がココにいた場合はこうする。列車がこちらにいた場合はこうする。」などとの打ち合わせがなんだかんだで午前3時ごろまで続きました。

でも、まぁ、こういう綱渡りのヒヤヒヤドキドキ感を楽しめるかどうかがこの仕事の向き不向きでありまして、鉄道業界も航空業界も、最小限の設備で最大限の効果を発揮するのがこのビジネスの神髄ですから、ある意味、イヤならこんなこと30年も40年もできないのであります。

そんな状況下でしたが、ピラミッドの頂点に君臨する「信者顧客」の皆様方は終始ニコニコ顔で、嬉しそうにご乗車されていました。

夜行列車のご乗車価格はお一人様19800円です。
駅弁が1つ出るだけで、あとは硬い座席、暗い車内で一晩過ごすだけです。
こういう尖った商品の特徴は、体験型商品であること。
「今だけ、ここだけ、あなただけ」という商品ですから、列車が遅れたりすることも織り込み済みなのでしょうか。
そういう予期せぬ状況の変化も体験として、ご自身でお楽しみいただくことができる、精神的にある意味で解脱されていらっしゃるような、どのような状況に置かれてもニコニコできる皆様方だとお見受けいたしました。

こちらとしてはあらゆる状況を考えると綱渡りですからヒヤヒヤドキドキものでしたが、あらためてお客様を見て気づかされたのは「安売りはしない方が良い。」ということです。

どういうことかと言うと、安売りをするとピラミッドの下の方の需要を取りに行くことになるわけでして、つまり、底をさらうようなビジネスになる。そうすると必然的にクレームが増えるわけで、少人数でビジネスを回しているような田舎の会社としては、「良さがわかるほんの一握りの方」にいらしていただくビジネスをしないと、お客様はクレーム、職員は疲弊ばかりになってしまうということです。

この商売、私はかれこれ16年になりますが、あらためて自分のビジネスに対する考え方が間違っていないということを再確認できた晩でありました。

でも、ピラミッドの頂点に君臨する信者顧客というのは、ほんの一握りの需要でありますから、この夜行列車も毎日、毎週やっても満席になるような商品ではありません。
ひと月に1回程度がせいぜいというのが現状ですが、私の次の課題はこの夜行列車を毎週末運転して、それでも満席にするにはどうしたらよいかということであります。

とは言え、まぁ、次回はおそらく11月後半ぐらいになるのでしょうかね。
なぜなら旧型客車は冷房がついていませんから、夜、窓を開けると虫がたくさん入ってきて大変なことになるからです。

でも、夏の間は近鉄の電車で2両編成の夜行もアリかな。
などと、頭の中を妄想が駆け巡ります。

ということで、一夜明けて雨は上がり、心配されていた混乱もなく、夜行列車は無事に終了いたしましたが、ご参加されたお客様から、「社長、大丈夫ですか? お疲れじゃないですか?」とねぎらいのお言葉をいただきました。

まもなく65歳になるお爺さんですからね。
いくら若いつもりでいても、皆様方から見たらそう見えるということです。

若いころ、夜遊びをしたり夜更かしをしたりすると、翌朝太陽が黄色かったことを思い出しました。
疲労で瞳孔をコントロールする力が衰えると、太陽がまぶしくて、できるだけ早く寝床に入りたくなる、あの感覚です。

もう半世紀も前ですが、あの大垣夜行で朝大垣に到着して、わずか数分間の乗り換え時間で接続する西明石行。
その西明石行に乗り換えるために渡る跨線橋の階段を上る時の足取りの重さ。
あの感覚を久しぶりに味わいました。

ということで、午前中から寝床に入って夕方近くに起きだして、車にガソリンを入れに行ったらガソリンが安くなっていました。

私はガソリン税と消費税の二重課税には昔から異議を唱えて来ていますから乗ってる車はディーゼル車。
アプリの割引を使ったらリッター136円ですから、「おっ」と思いました。

国民の生活が第一ですからね。

夜行列車にご参加いただいた皆様は無事にご自宅へ帰りつきましたでしょうか?

トラブル続きの夜行列車でしたが、Patientで居ていただきましてありがとうございました。