安全とは何か?
会社を立て直す、あるいは会社の営業を上向きにさせる。
いすみ鉄道、えちごトキめき鉄道、大井川鐵道と、3つの鉄道会社から依頼された私の使命です。
そういう私に対して世間は「あいつは安全をないがしろにする。」とさんざん言われてきました。
なぜなら、安全イコールコストであり、コストイコール利益の消失ですから、営業熱心な経営者は利益に夢中になるばかり、安全に対するコストを削る傾向がある。
だから、あいつのような人間に経営を任せておくと、安全をないがしろにする。
16年前に鉄道会社の社長に就任した時から、そう思われていたのです。
そして、世間の皆様が私に対してそういう思いを持っていることも私は知っていました。
でも、私は航空の現場で20年以上、安全に関して責任を持つ仕事をしていましたから、世間様が思われるほど無知ではありませんでしたし、私なりに安全を最優先に仕事をしてきました。
「私なりに」というのは、安全というのは終わりなき探求が求められるからで、それではいったいどこまで探求すればよいのかという点で答えは出ていないからです。
皆さん、安全ってどういうことだかわかりますか?
電車が脱線したり転覆したり、あるいはぶつかったりしないようにすることが安全だと思っている方も多いかもしれませんね。
それはもちろん安全ではありますが、広い意味で安全とは何かというと、
「安全とは、許容できないリスクを排除すること」
です。
私は現場の職員を対象にした安全教育を社内で行っています。
その中でいつも申し上げている安全の定義はこれです。
「許容できないリスクを排除すること。」
どういうことかというと、100パーセントの安全というのはあり得ないのです。
100パーセント安全というのはどういうことかというと、「電車が走らないこと。」「飛行機が飛ばないこと。」なのです。
電車が走らなければ事故は起こりません。
飛行機は飛ばなければ事故は起こりません。
だから、100パーセントの安全を求めるのであれば、電車を走らなさなければ良くて、飛行機は飛ばさなければ良いのです。
でもそれじゃあ仕事になりませんよね。
ということは、電車を動かす、飛行機を飛ばすということは、何らかのリスクが伴うのです。
そして、問題なのはそのリスクが「許容できる」のか「許容できないのか」ということなのです。
そして安全対策として重要なのは許容できないリスクを排除することです。
そのためにはどのようなリスクがあるかを過去の事例などから分析して、未知を既知とすること。
そして、それに備えていろいろな訓練をすること。
あるいは段取りをつけて必要な安全対策を講じることなのです。
今日のニュースです。
JR九州で運航されていた高速船がトラブルを起こしていたことを会社は隠ぺいしていた。
その隠ぺいの内容が、船体に穴が開いて船が浸水していたことを隠ぺいし、そのまま運航を続けていたということのようです。
それも、知床観光船の事故以来、規定が厳しくなっていたにもかかわらず、です。
そして当時の社長が書類送検されたというニュースです。
社長はこの事件を受けて懲戒解雇されています。
もうその任を解かれているにもかかわらず、警察から書類送検されているのです。
安全性に問題があるということを指摘されていたにもかかわらず、必要な対策を取っていなかったということでしょう。
つまり、これは犯罪に当たるということなのです。
JR九州の船舶会社の社長は2023年夏に社長に就任しましたが、国交省からの勧告を無視して2024年2~5月に運航を継続していたということ。
社長就任して半年足らずですから、おそらくよくわからないまま現場が運航を継続していたということなのでしょう。
でも、安全の総責任者は社長ですから、社長が書類送検されたということです。
こういう事故、事件で悔やまれるのは「わかっていたのに対策を取っていなかった。」ということです。
列車が走る以上、飛行機が飛ぶ以上、船が航行する以上、事故というのはいつ起きるかわかりません。
その事故が未知の原因で発生するのであれば対策の立てようがありませんが、わかっていたのに対策を取らなかったというのは、安全管理上の責任は免れない。
今回の書類送検はそういうことなのでだと思います。
私の周囲にいる職員は私が安全に関して大変厳しい認識を持っているということを知っています。
今週も会社で部門長を集めた安全管理会議を行いましたが、線路のこと、電路のこと、車両のこと、運転のことについて、私が細かく指摘するのを各部門長が驚きの目で見ています。
「なんで社長はそんなことまで知っているのか?」と。
その理由は、私は20代のころから安全について人一倍勉強してきましたから。
その理由は、後悔したくないからです。
何かあった時に後悔したくないから。
やるだけのことをやっておいて事故が起きるのと、勉強もせず知識もなく、何もやらないで事故が起きるのとでは、受け止め方が全く異なるからです。
今日のニュースは就任半年の社長が、現場での隠ぺいを理由に懲戒解雇され、さらに警察から書類送検されるというもので、同業者としては大変気の毒に感じるものですが、安全の総責任者というのはそういう仕事なのだということを、あらためて思い知らされたのであります。
それだけ、社長業というのは厳しいものなのであります。
「クイーンビートル」浸水隠し、JR九州高速船の前社長ら書類送検…安全確保命令違反の疑いで初の立件:地域ニュース : 読売新聞


大井川鐵道では車両の取り扱いや運転について、今、実車訓練が行われています。
ずいぶん厳しい訓練だなあと私は見ていて思いますが、現場の職員としても、もし何かあった場合に、「あの時、きちんとやっておけばよかったな。」と後悔しないように、皆、真剣に対応しています。
ある意味昭和的かもしれませんが、鉄道の安全というのは、日々こうして積み上げられていくものだと、私は考えています。
それでも列車が走る以上、事故はいつ起きるかわかりません。
でも、もし事故が発生してしまった場合、事前にいろいろ考えて対策を取っていたのと、そうでないのとでは、安全管理責任者として全く違うものになってしまいますから、私はできるだけ考えられるリスクを取り除くことが仕事だと考えているのです。
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