なぜ地方創生はうまく行かないのか?

昨日おとといと2日間、大宮の鉄道博物館でイベントを開催しました。

その時のことです。

2日間ボランティアでお手伝いに来てくれていた高校3年生のボンホー君(ニックネーム)が、お客様が途切れたころ合いを見計らって私に話しかけてきました。

「社長さん、ちょっとお聞きしたいのですが、地産地消ってどういうことでしょうか?」

ボンホー君は東京の高校生ですが、お父さんが高田で仕事をしていた関係で2年ほど前からちょくちょくトキめき鉄道にやってきて、観光急行に乗ったり、レールパークに来たりと、上越地域に足しげく通ってくるようになりました。
沿線に友達もできていろいろな交流をしていく中で、地域に興味を持ってきたようで、今回は大井川鐵道のイベントにも来てくれて、島田市や川根本町のことをいろいろ気になったのでしょう。

そんな彼ですから、もちろん地産地消という言葉を知らないはずはありません。地方のことをある程度勉強している高校3年生が私に「地産地消ってどういうことでしょうか?」と聞いてくるからには、こちらもそれなりの返答をしなければなりません。

私はこう答えました。

・まずは、地域で取れたものをその地域で消費すること。これは経済的な効果が大きいと考えられています。例えば農産物や海産物をその地域で消費するためにはそのままではいけません。何らかの形で加工します。
簡単に言えば調理することです。
そうするといわゆる6次産業化ができますから、経済効果が大きい。
これが地産地消です。

・千葉県では千産千消といって、千葉県で取れたものを千葉県で消費するという活動も森田健作知事の時代から進められていますが、私が伊勢海老列車をやったのもこれと同じ理由で、取れた伊勢海老を東京へ出荷するだけではなくて、それを調理して地元でお客様に召し上がっていただければ、それだけ地域経済が活性化するわけですから、この経済を作り出すことがすなわち地産地消の目的だとされています。

・でも、それだけではありません。
土地には波動というものがあって、その土地で取れた食べ物はその土地の波動がある。その土地に住んでいる人間にはその土地の波動を持っている。だから、その土地で取れた食べ物をその土地で消費することは波動が一致するから体に良い。そのために地産地消を奨励するという考え方がある。
これは久司さんという日本人の先生がアメリカで提唱した食と健康の考え方の一つなので、ちょっと難しいかもしれないけど、もし興味があったら勉強してごらん。

・その他にも「フードマイレージ」という考え方があって、その食べ物を収穫した産地から消費地まで運んでくるためにはエネルギーが必要です。地球の反対側から飛行機や船で運んでくると大量のエネルギーが必要になる。つまり多くの二酸化炭素を排出することになるから、できるだけ消費地の近くの産地の物を食べるのが地球環境に良いという考え方があります。これも地産地消です。

と、まあ、その場でこたえなければならなかったので、頭の中を整理してこんな話をしたのですが、じっと私の話を聞いていたボンホー君が次にこう言いました。

「社長さん、どうして地方創生ってうまく行かないのでしょうか?」

私は思わず笑ってしまいました。

なぜなら、ボンホー君は今、大学受験を目前に控えていて、たぶん論文などのためにこうして地域のことを勉強しているのでしょうけど、彼が自分で言ってたのです。

「とりあえず大学に入れば、あとはゆっくりできる。」って。

「ゆっくりできるって、どういうこと?」

「まぁ、4年間自分の時間ができるということでしょうか。」

「つまり、遊べるってこと?」

彼はにやにや笑っていましたが、私は「勉強した方が良いよ。」と伝えました。

でも、彼は受験が終わってしまえばたぶん勉強はしないでしょう。
なぜわかるかというと、実は私がそうだったからです。

私もいつのころからか学校の勉強というのをほとんどしなくなりました。
反抗期というヤツですかね。
親が「勉強しなさい。」と言っても、先生に「勉強しなさい。」と言われても言うことを聞かなかったのです。

だから、いっぱい失敗しました。

その私が親になったら、子供に「ちゃんと勉強しろ」って言ってることに気が付いた。

どうしてでしょうか?

それは、自分の子供には失敗してほしくないから。
親はそういう経験をしてきているから、「ちゃんと勉強した方がいいよ。」って言うんですよ。
自分のことを棚に上げてね。
これ、人類共通。

でも、子供は言うことを聞かない。

中には親に言われて素直に勉強する子もいれば、言われなくてもちゃんと勉強する子もいる。でも、そういう子はほんの一握りで、たいていの子供たちは親の言うことを聞かず、先生の言うことも聞かず、思ったような結果が出ないのです。

これも人類共通。
世の常ですね。

地方創生もこれと同じです。

皆さん、自分の住んでいる地域がだんだんと廃れていくのにはうすうす気が付いています。
なんとかしなければならないという気持ちもあります。
でも、どうしたらよいのか、やり方がわからない状態でしょうね。

私は20代のころから、もう40年も日本全国の鉄道路線に乗って地域を歩いています。
中には廃線になってしまったところもあって、あとになってから行ってみると荒廃が進んでいます。
これ、全国共通の状況です。
中には「もったいないなあ。まだまだ使えるのに。」というところを廃止にしてしまって、せっかくの財産を捨ててしまったところもある。

そういう状況を長年見てきているので、「私にやらせてください。」と言ってローカル線の再生を請け負ったのですが、かれこれ15年やってきて今は3社目ですから、ある意味方法が確立されていて、つまり、私の言うとおりにすれば必ず鉄道も地域も良くなるのです。

これは、自分の経験から来ることで、成功談ばかりではなくて失敗談もある。
失敗したことは自分なりにもう2度と同じ失敗はしないつもりですから、経験値として積み上げられているのです。

でも、地元の人たちはそんなこと経験したことがありませんから、私の言うことに半信半疑なのです。

つまり、受験未経験の子供が、今までさんざんいろいろな経験をしてきた親の言うことを聞かないのと同じ状況が、地方創生のシーンでも見られるのです。
まして、皆さん10代の若者ではありません。
地方都市の中心者は皆さん60代、70代ですから、それなりの知見と経験を積んでいらっしゃる。
でも実はこれが余計なお荷物になっていて、これがあるから素直になれないのです。
まして税金使うような仕事だとなおさら。

いやいや、税金使うんだから失敗できないでしょう?
結果出さなきゃいけないでしょう?

私はそう思うのですが、地域の皆様方は目新しいことをやって結果が出ないことが一番恐ろしいことですから、皆さん横並び意識が強くて、つまり、親の言うことも先生の言うことも聞かない。
あるいは聞くかもしれないけど、「ふ~ん」というだけで行動しないのです。

中には、「うるさいからもうあっちへ行ってくれ!」と言うのも受験生の子供と同じね。

でもって受験生ならすぐに結果が出るから、反省して改善して来年もう一度挑戦できるけど、地域活性化はすぐには結果が出ないもんだから、親や先生を追い出して「うるさいのがいなくなった。」と清々してるんです。
そして後はゆでガエルでしょうね。

自分のことを振り返ると、親も先生も「言うことを聞いていればよいのに」と思ったはずです。
そして、言うことを聞かない私を見て「もったいないなあ。」と思いつつも、どうしようもできなかったはずです。
なぜなら、私の人生ですからね。

地方創生もローカル鉄道も全く同じです。

日本全国を見てきた私から見たら、「あぁ、もったいないなあ。」と思うのですが、こればかりは地域の皆様方が自分で考えて行動しなければなりません。
一番近道なのが経験者の話を聞くことなんですが、老年性反抗期でしょうかね。
だから、私はある程度時間をかけますが、それでも言うことを聞かない人たちがいるところは、もったいないなあと思いつつもお暇(いとま)させていただくことにしています。

なぜなら、この国は人口が減っていくのですから、全部の地域、全部のローカル鉄道が残れるわけではありません。
当然、消えていくところもたぶん3割強ぐらいはあると思いますが、これも受験と同じなのかな。
結局はそういうことだと思うのです。

そして、そういうところで自分の人生の残り時間を無駄遣いすることはできないからです。

ということで、ボンホー君ばかりでなく、全国の若者の皆様。
うるさいとは思いますが、親や先生の言うことをよく聞いて素直に従うのが、人生の中で一番近道だと、私は思うのです。

地方創生も全く同じですが、ある意味、若者たちよりも手に負えないということになりますでしょうか。

私の言うことに同感していただける地域の皆様、お仕事のご依頼をお待ちいたしております。
大井川鐵道がお引き受けさせていただきます。

▲ボランティアで子供たちと缶バッジを作るお手伝いをしているボンホー君。