悲しみの五能線

おととい12月16日に青森県の五所川原市で地域鉄道のサミットが開催された話をしました。
せっかく五所川原で開催されるのですから、私は五能線に乗って行くべきだと考えました。

いつも津軽鉄道を訪問するときはレンタカーだったりバスだったり。
時には五能線を使いますけど弘前か新青森方面から川部を通って五所川原までですから、たまには全線乗ってみようと思ったのです。

サミットの開催時刻が13時半というのも、「五能線で来てね」と言われているようなもんですから、私は前日に秋田に入って、秋田から五能線の観光列車「リゾートしらかみ1号」に乗車して五所川原に向かいました。

五能線というのはJRもかなり力を入れている路線です。
大赤字の路線であるにもかかわらず、台風や大雨で被害を受けてもJRはさっさと直します。
その理由は秋田新幹線と東北新幹線を結ぶ路線だからです。

正直申し上げて今の時代には秋田も青森もわざわざ新幹線を建設するほどのビジネス需要はなく、あるとすれば観光需要です。
でも、東北の祭りは基本的には夏だし、弘前城の桜は春。
観光と言ってもガイドブックに載っているような定番観光だけでは新幹線の座席は埋まりません。
新しく観光需要を掘り起こさなければなりません。

そういう時には観光列車を走らせるのが一番手っ取り早く、だいたい祭りなどというものが観光だと思っているようではこれから地方が生きていくための産業としての観光にはなりえません。
でも、乗ってみたくなるような観光列車が走っていれば、四季を問わず観光客は来るわけです。

そのよい例がトキ鉄の雪月花。
これからの季節は冬ですよ。
冬の日本海なんて一昔前までは観光とは無縁の世界でした。
でも、乗ってみたくなるような観光列車を走らせて、きちんとストーリー展開し、心に残るようなおもてなしをすれば真冬だって観光客は来るのです。

現に1月以降の雪月花はすでに満席の便が多く、定期列車以外に毎週1~2本の貸切運行の予約が入っています。

ということで話を五能線に戻しますが、つまりJRとしては五能線があるから秋田新幹線や東北新幹線にお客様が乗っていただけるわけです。

ということで、五能線にはとても素敵なリゾート列車というのを運転していて、正直申し上げて13時半のフォーラムに間に合わせるためには、別に前泊する必要などなかったのですが、この観光列車「リゾートしらかみ1号」に乗るために私は秋田に泊まったのです。
つまり、これが今の時代の産業としてのお金を稼ぐ観光なのですよ。

秋田を出たのが8:19。五所川原着が12:09。
約4時間の旅です。

この列車は快速列車で、こんなに素敵な座席もグリーン車ではなくて普通車の指定席。
ありがたい列車です。
車内には乗車証明書があって、これを持って行くと観光タクシーが無料になるというシステムもきちんとできています。

でもね、この会社はハードを作るのは得意なんですよ。
お金がいくらでもあるから。
だけど心がこもっていないというか、ホスピタリティーがない。

だからこんなに素敵なカウンターがあるのにスタッフが乗っていない。
連結面のドアのわきに半畳ほどのスペースにセルフの売店があって、いくつか商品が置いてあって勝手にとって勝手に払うシステム。
これって観光列車のおもてなしなんでしょうか。

でもまぁ、そんなことはすでにネットいろいろ書かれていますからね。
私も私なりに調べて、昼食難民にならないようにあらかじめ駅弁を予約しました。

秋田の発車は朝8時過ぎ。
その時間にお昼の弁当を買う気にもなれませんから、前もってオーダーすると列車の到着に合わせて駅のホームに持ってきてくれるのです。

ということで秋田を発車した列車は東能代から五能線に入りました。
バスケの町、能代ですから駅のホームにはこんなバスケットのゴールが設置されています。
列車は10分程度停車しますが、特に案内があるわけでもなく、ただ停まっているだけ。
「駅のニューデイズではこの列車の指定券を見せると5%引きになります。」というアナウンスはあったけど。

実は私、お弁当を予約したんですけど、そのお弁当の受取駅がどこの駅だか忘れちゃったんです。
バカでしょう。

でね、スマホを見たんですよ。
確か予約した時にメール来てたから。
そしたらね、

予約した駅弁を引き取る駅がどこの駅だか書いてないんです。
どちらもバカだよね。

で、仕方がないから東能代、能代と停車するたびにホームに降りて確認する羽目になりました。

結局、受け取ったのは深浦駅でした。
車掌さんの車内アナウンスも一切なし。
停車時間は列車交換のための数分間だけ。
うっかり居眠りでもしようものならアウトでしたね。

で、私が頼んだのか雪人参ビーフシチュー。
上越でも雪室人参とか雪下人参とかやっているので気になったんです。

これ、おいしかったです。

熱々じゃないけどほんのり暖かくてね。
たぶん駅前の事業者さんとタイアップしていて、列車の到着に合わせて持ってきてくれているのです。

そしたら今度は五所川原の立佞武多どら焼きを車内に売りにきて、見たところ地元の人のようなので早速買いました。
3個入って500円。
お値段もお手頃。
地元の人が乗ってきて売るっていう、こういうのうれしいですね。

地元の人と言えば鰺ヶ沢から津軽三味線の演奏者が乗ってきて車内で演奏会。
1号車でやってるんで行ってみましたが、ステージが見えないほどでした。
特に台湾の方でしょうか。大好評のようでした。

皆さんそろそろ車窓風景にも飽きてきたころだったかもしれません。
いいタイミングでした。

この1号車での演奏の様子は各号車についているモニターでも見られるようになっていて、メロディーも聞こえてきますから、私はこちらで鑑賞させていただきました。

でもって、いい景色が各所で見られてそれなりに絶景なんでしょうけど、私が一番気になったのが海岸のゴミ。
発泡スチロールや漁船が使うプラスチックのブイ、ペットボトルや機械の一部などが流木に紛れて海岸線に打ち上げられているのです。
それも沿線各所で。
たぶん海岸線や入り江の角度や潮の流れによるのでしょうけど、絶景区間で徐行してくれるのはいいんですが、どうもゴミばかりに目が行ってしまいます。

ましてこの時期、緑がすべて枯れはてていますから余計に目立ちます。

おそらく海の向こうの国から流れてきたものか、その国の漁船や貨物船が洋上で投棄したものなのでしょう。
そういうゴミが大量に流れついていて、そこを絶景区間として徐行しているのです。

地元の皆さんに処理しろと言ったって難しいでしょうし、きれいにしたところでまた流れてくるでしょうから徒労でしょう。

海の向こうからやってくるインバウンドの観光客に、「お前の国のゴミが流れてきてるんだぞ。」と言って啓蒙を促すようなブラックな観光資源にするしかないのでしょうかね。

世界的な観光地としての基準からすると、これって全くいただけませんから、もしかしたらそのうちこういうところには誰も来なくなるかもしれません。
そんなことを思いました。

秋田を出てから約4時間。列車は定刻に五所川原に到着。
私はなんだか悲しい気持ちになって列車を降りました。
唯一救われたのは予約していた暖かなビーフシチューでしたね。

そしてフォーラムの翌日です。
お天気は荒れ模様。
五能線の列車も海岸線区間は運休です。

私の乗る列車は動くようなので切符を買いました。
この日の予定は五能線で川部に出て奥羽本線に乗り換えて浪岡で下車。
浪岡駅近くのバス停から青森空港へ行くバスに乗り換えるというコースです。

でもって、切符を買って待っていると不吉な予感。

いやいや、私の予感は当たるのです。

「今度の弘前行は途中駅を約9分ほど遅れております。」

ほらね。

この弘前行に乗って私は川部で青森行に乗り換えるのですがその接続が3分しかありません。
私の乗る弘前行は9:28発ですが、ここ五所川原には9:21に到着して7分間停車します。
9分の遅れならここで7分取り戻せますから、川部の3分接続は大丈夫でしょう。
もしかしたら向こうの列車も少し遅れてるかもしれませんからね。

で、定刻の5分ほど前に改札が始まったので切符を見せながら駅員さんに聞いたんです。
「川部で接続しますよね。」と。

そしたらお返事が、「さぁ」

「えっ?」でしょう。

「さぁ」って言われちゃったんです。

都会の電車じゃありませんよ。
田舎のローカル線です。

駅員さんは赤シャッポかぶってましたが、この列車が川部で3分で接続する列車だということを知らないのかなあ。

「ちょっと本部に聞いてみないと。」とか言うんですから。

後ろにお客さんが並んでいましたから、私はそれ以上聞くのをやめました。

で、ホームは津軽の地吹雪ではないですが、雪混じりの冷たい風がぴゅーぴゅー吹いています。
9分遅れだっていうのならそろそろ来てもいいのに、待てど暮らせど列車は来ない。
隣のホームにはエンジンかけた車両が止まっています。
どうやらこの後の11時過ぎの弘前行のようです。

お客様にこの寒いホームで待たせるぐらいなら、列車の中に入れてくれてもよさそうなものでしょう。
待合室代わりに。
そう思いませんか?

まして乗務員乗ってるんですから。

でも、知らん顔。

規定にはないかもしれませんし、鰺ヶ沢から先が止まってるんですからダイヤが乱れているのはわかっています。
でも、列車が遅れていて、その遅れが9分どころじゃなくて、もう20分も遅れている。
運転士はベテランっぽかったですけど、50過ぎの人間がそんなことぐらい判断できないのでしょうかね。

で、20分以上遅れてきた列車。

女性のお客様が運転士に聞いています。

「青森方面へ行くんですけど。」

そうしたら、
「あぁ、川部で乗り換えですね。」
という返事。
それだけ。

そうじゃなくてさ、この列車は通常だと川部で青森行に接続するんでしょ?
それがこれだけ遅れてたら接続するんでしょうか?というお客様の問いなんですよ。

こちらの運転士も50過ぎかな。
駅員も含めて何も考えていないというか、考えようともしない。
たぶん自分たちは決められたことを決められたとおりにやってるんだから、何が文句あるのか、という感じでしたね。

じゃなくて、お客様のことを少しは考えましょうよ。

まぁ、余計なことはできない、やらない、考えないというのが鉄道屋のDNAみたいなところがありますから、トキ鉄でもそういう人はいるとは思いますが、ご迷惑をおかけするかもしれませんので、「申し訳ございません。」と最初に誤っておきます。

で、川部の駅につきました。
到着前に接続の案内放送も何もありません。

青森方面乗り換えと思われる川部で降りたお客様は私を含めて7名。

みんな「電車来るのかなあ?」と不安そうな顔。
乗ってきた列車は行っちゃいました。

ホームの待合室に入って待ちましょうかということになって中に入ったらエアコンには故障中使用停止の札。
皆さん寒さに耐えきれずに跨線橋を渡って駅の待合室へ向かいます。

もちろん無人駅。
トイレを探したり、暖を取ろうとしたり。

案内放送も何もない。

私は飛行機の時間があるので、駅前タクシーへ。
ここも無人。
電話番号があったのでかけてみたらものの数分でタクシーが来たので、川部駅を後にして青森空港に向かいました。

結局タクシー代8000円が余計な出費でしたね。

これはこの週末2日間にわたる私の五能線の思い出です。

かなり悲しいでしょう。

「もう乗ってくれなくても結構です。」

そう言われてるみたいですね。

でもね、五能線って500円のお客のように見えて実は東京から往復新幹線に乗ってくれているお客様なんですよ。

東京から秋田まで、あるいは新青森まで。
片道約18000円ですから往復で3万円以上のお客様が五能線のお客様なんですからね。

そういう人たちが「もう二度と来ないな、ここには。」と思って帰っていくことになるとしたら、どうなんでしょうね。

だからせっかく大きなお金をかけて作ったウェスパ椿山の登山モノレールも動かなくなっちゃうんじゃないのかなあ、と、私はそう思いますが、いかがでしょうか。

まぁ、そういうこともあると思って、私は秋田へは飛行機で入りましたし、青森からも飛行機で脱出したのでありますが、つまり、飛行機が飛んでいるところはできるだけ飛行機で行く方が腹が立たないのだと、今回も私の仮説が証明されたのであります。

ということで、悲しみの五能線。

まぁ、多分もう乗ることもないのかなあ、と思います。
津軽鉄道は行くけどね。

昭和の名曲、哀しみの終わるとき(Ça n’arrive qu’aux autres/Michel Polnareff)

▼お好きな方、ご興味のある方はこちらもどうぞ
https://www.youtube.com/watch?v=rNfWtR_Wm68

彼もお爺さんになったなあ。