おかげさまでえちごトキめき鉄道は、コロナ禍にもかかわらず順調にお客様の数が伸びておりまして、事業計画の数字も上振れする状況です。
公共交通機関としての鉄道の使命は安全正確な輸送を提供することにありますが、全国共通の課題として、地域鉄道では地域の足としての使命をしっかり行っているだけでは経営が成り立ちませんから、観光客にいらしていただけるような列車を走らせたり、駅構内でグッズを販売したり、あるいは地方のイベントに出稼ぎに行ったりして、何とか経営を向上させようと努力しています。
これは、トキめき鉄道ばかりでなく、全国の地方鉄道共通の課題でありますが、そういう努力をしてお客様の数が増えてくると、今まで起きなかったような問題が起き始めます。
どういう問題かというと、「招かれざる客」が来るということです。
テレビや雑誌で紹介されると、広く世間に知られることになります。
そうなると、いろいろなお客さんが来ることになりますが、その中には招かれざる客も居るということです。
皆様ご存じの筒石駅です。
防犯カメラに記録された映像です。
集団でやってきて、線路に降りていますね。
無人駅をいいことに、こういうことをする連中もいるんです。
筒石駅の防犯カメラはここだけではありません。
階段や地上の駅舎にも設置してありますから、この連中の顔や乗ってきた車の車種までしっかりと記録されています。
トキめき鉄道では各駅に複数個所の防犯カメラを設置していて、すべて記録しています。
悪質なものは公開しようと考えております。
「カスハラ」という言葉をご存じですか?
カスタマーハラスメントの略ですが、お客の立場をいいことに会社や従業員に対して不当な要求を突き付けて、その要求が聞き入れられないとなると、関係各所に吹聴したり、手を変え品を変え、執拗に要求を繰り返すことです。
クレームとの違いは、クレームというのは商品やサービスの提供について、自分が期待していた質との違いを指摘して、何らかの形で、その質の差を補うように要求するものですが、カスハラというのは、きっかけはそうだとしても、その矛先が会社の経営方針に向かってきたり、あるいは特定の従業員を名指しして「あいつに直接謝罪させろ」とか「あいつを辞めさせろ」というような要求を突き付けてくるものです。
地方鉄道は田舎の会社ですから、従業員も都会のように荒波にもまれているわけではありません。
ぼくとつで純真な人たちがほとんどです。
そこに都会の海千山千のお客がやってきて、ああでもないこうでもないと無理難題を突き付ける。
観光鉄道化をして、観光客が増え始めると、全国共通のテーマとして、そういう人間が出て来て、その度に会社の中はてんやわんやになるのです。
また、地元の人間の中にも、お客が増えて賑やかになることを面白く思わない人たちが出てきます。
「列車が混んで座れなくなった。」とか、「今まで日曜日は静かだったのに、うるさくなった。」など、いろいろ言い始める人間も出てきます。
中には市役所にクレームをする人間も出て来る。
田舎の行政はそういうクレームに弱い部分がありますから、まともに取り上げる。
いわゆる田舎あるあるで、大ごとになるのです。
前職の時にもありましたが、会社とは直接関係のない地元の応援団の活動に対しても「あいつらは何だ。」という話が地元の人間から出る。
たぶんですけど、仲間に入れてもらいたいんでしょうね。
でも、誰からも相手にされていなかったり、過去に地域の問題児になっていたりしたのでしょう。
だから相手にされないし、仲間に入れない。
そうして会社や市役所にクレームを入れるんです。
よっぽど暇なんでしょうね。
田舎あるあるですね。
田舎の鉄道会社の職員は皆さんぼくとつで純真と申し上げましたが、会社のトップに立つ私はぼくとつでも純真でもありません。
成田空港の第一線で20代のころから働いてきた人間ですから、いろいろなクレームを受けてきましたし、お客の悪態も見てきました。
そしてそういう時に会社がどういう態度をとるべきなのかということを何度も経験してきました。
20代の頃の会社はスパイが飛行機を爆破するかも知れないという状況にありましたから、何か変な言動があるとお客と言えども容赦ない。
飛行機から引きずり降ろすんです。
その会社だけではありません。
航空会社というのはどの会社も皆スタッフはニコニコしているけど、ひとたび「あやしい」と思われたら問答無用で飛行機から引きずり降ろす。
そういう世界です。
鉄道会社はおもしろいことに、駅員や乗務員に態度が悪いのが多い。
表情も硬くサービス精神にかけている態度という意味ですが、そういう割には何かあったら及び腰になる。
列車からお客を引きずり降ろすなんてなかなかないかもしれませんが、飛行機会社は地上係員も乗務員も皆さんナイスでニコニコしているけど、ちょっとでも気に障るような言動があったら、問答無用。言い訳など聞かずに飛行機から引きずり降ろす。
私はそういう世界で20代から育ちましたので、実は今、鉄道会社にそのスタイルを導入できないかを考えているのです。
なぜなら、最近はどんどんおかしな奴が増えて来ていて、電車の中で火を点けたり、乗務員に暴力をふるったりという現象が多発しているからで、都会の電車ばかりでなく、地方鉄道でもそういう対策が必要だと考えているのです。
航空会社では英語で「Banned Passenger」と言います。
いわゆる出禁というヤツです。
予約が入ってもコンピューターが見つけ出して、空港に連絡が入ります。
空港では職員が待っている。
そこに出禁客がやってくると、「お客様、ちょっとこちらへ。」となる。
そして、「前回も申し上げましたが、お客様のご搭乗はお受けできないんですよ。」とお帰りいただくのです。
そのお仕事を私がやっていたんですから。
そりゃあ、怒りますよ。
揉めます。
揉めに揉めて、そうこうしているうちに飛行機は出てしまいます。
会社の方針に対するクレームも受けません。
話を打ち切ります。
どんなことがあるかというと、例えばオーバーブック。
座席以上に予約を取ることです。
自分が予約した飛行機に乗ろうと空港にやってくる。
でも、「お客様のお席はご用意できません。」と言われるんですから、お客様は途方にくれます。
怒りますよ。失礼な話ですから。
でも、オーバーブックは営業方針ですから、そういう時に航空会社は代替便を用意して規定の賠償金を払う、あるいは翌日の便ならホテルを用意する。
それだけです。
なぜなら、世界中のほとんどの航空会社はオーバーブックが会社の経営方針だからです。
その会社に対して、「オーバーブックさせるとはけしからん。責任者を出せ。」と騒いだところで、「あんた、何言ってるの? 会社の経営方針にケチつけるのか?」となるのです。
だから、泣いても笑ってもクレームとして扱いませんし、裁判しても運送約款にオーバーブックのことが書かれていて、航空券を購入する時点でその運送約款を了承していることになっているわけですから、そんなことはクレームにすらならないのです。
そうなるとお客はどうするかというと、「よし、会社の方針としてオーバーブックは理解した。だけど、お前のそういう態度が気に入らない。」と個人攻撃に入ります。
日本人に多いパターンですが、こうなるとカスハラですね。
でも、航空会社はいちいちそんなことは取り合わない。
私など何度も「こいつをクビにしろ!」と言われましたが、そういう時に外人の上司はたった一言、「あなたより、このスタッフの方が会社にとって大切です。お帰り下さい。」
こういう毅然とした態度を田舎の鉄道会社もそろそろスキルとして身に付けないといけない時代になって来たなあ、と思うのが最近気になることなのであります。
身に覚えのあるヤツ、気を付けろよ。
公共交通機関だって、出禁はあるのです。
スタッフと他の多くのお客様の安全の方が、はるかに大切なのですから。
台風接近で輸送の現場は大変なことと思います。
交通機関にお務めの皆様、お仕事頑張ってください。
災害が発生しないことを祈っております。
最近のコメント