「レジャービジネス」という言葉

皆さん、「レジャービジネス」という言葉をご存知でしょうか?

航空会社で使う言葉ですが、ネズミの王国のようなレジャー産業のことではありません。

「レジャービジネス」とは、ビジネスクラスを観光目的で利用すること。

観光目的のお客様にビジネスクラスを販売することを言います。

 

バブル景気のころは猫も杓子も海外出張で、新入社員でもビジネスクラスが当たり前でしたが、バブルが崩壊すると、ビジネスクラスで出張する人たちはほとんどいなくなりました。その後、少し景気が持ち直してきても、会社の出張規定が改定されてしまったところがほとんどでしたから、ビジネスマンたちは海外出張にビジネスクラスを利用できなくなってしまいました。

航空会社はバブルのころにはウハウハでしたから、例えばB747ジャンボジェットで、ファースト30席、ビジネス120席なんていう機体もあって、それが満席になっていたのですが、バブルが崩壊するとピタッとお客様がいなくなりました。

そこで、当時の航空会社の営業の人たちが考え出したのが「レジャービジネス」。つまり、余裕がある世代の皆様方にビジネスクラスで観光旅行へ行きませんかというプランを作ったのです。

 

当時は旅行のパンフレットに出ている海外団体旅行というのはエコノミークラスで行くのが当たり前だったんですが、例えばヨーロッパ8日間30万円のツアーに「ビジネスクラスで行く」というオプションが付いて、60万円ぐらいの商品が出始めました。

今から20年ちょっと前の話ですから、当時の営業の偉い人たち、つまりこういうことを考え出したのは、私の先輩である当時50代だった団塊の世代の人たちでした。

「これからの時代は、いわゆる富裕層というのが出てくるだろうから、会社の経費を頼りに出張する人たちではなくて、経済的に余裕のある個人旅行客を狙おう」という戦略です。

 

当時、すでにエーゲ海クルーズやカリブ海クルーズなどという豪華クルーズ客船の旅が、昭和ひとけたと言われる世代の皆様方に結構な人気商品になっていましたが、そういうツアーで豪華客船に乗ろうという人たちが、往復の飛行機がエコノミーではなんだかチグハグに感じます。だから、この「レジャービジネス」という企画は当たりまして、なかなかの人気商品となりました。

せっかくヨーロッパやアメリカへ行くのですから、旅行費用が30万、50万高くなっても、出発前にラウンジがあって、隅にも置かない対応をしてくれるサービスを求める声が多かったのです。

 

そして今、20数年前にこういう商品を考え出した当時50代だった先輩世代の方々が、自分たちの番になって、観光旅行という非日常を楽しむ機会にビジネスクラスを利用して飛んでいて、ジャンボジェットの時代から見ると小型化された飛行機の、これまたキャパが少なくなったビジネスクラスがそこそこの搭乗率となっているのです。

 

こういうある程度の富裕層の集客というのは旅行会社が顧客リストを持っていますから、航空会社では自社ではなかなかお客様を集めることができませんでした。だから、旅行会社と航空会社がタッグを組んで商品開発をしてこそ成り立つ商品なのですが、最近はインターネットの発達で、航空会社は旅行会社の力を借りなくても自社である程度集客できるようになりましたし、富裕層と呼ばれるような人たちは、基本的には今後減少傾向にありますから、もしかしたら「レジャービジネス」という考え方も今がピークなのかもしれません。

 

では、ふと、目を鉄道に向けてみるとどうなのかというお話ですが、16両編成が1時間に5本も10本も走っているような路線は供給過剰気味かもしれませんから、グリーン車の乗車率を上げようと思ったら「レジャーグリーン」などというのもありでしょうし、事実、グリーン車の車内には熟年のご夫婦や観光の外人客がたくさん乗っていますから、すでにそういう利用者が当たり前になっていると思われますが、JR北海道の特急列車を見たときに、グリーン車ばかりでなく、普通車指定席にも自由席にも観光客がたくさん乗っていて、もしかしたら地元の人が利用できないような状況が発生しているのではないかと気になっています。

 

鉄道って、地元の人にしてみたら、ふつうに駅へ行って切符を買って、ホームに入ってきた列車に乗るものだと思いますが、その列車に外国人を含む観光客がごった返していて自由席には座れない状態になっているのではないでしょうか。

だからといって、何日も前から予約をして乗るようなものでもないし。

でも、北海道は長距離区間が多いですから、自由席で座れなかったらこれまた一大事。

だったら確実に座れるバスにしましょうか。

これが利用者の心理ではないでしょうかね。

 

私もこの春に東室蘭から札幌へ戻るときに、やっと取った指定席に座りましたが、自由席は立ち席で通路には大型のスーツケースがあちらこちらに点在し、とても快適と言えるものではありませんでした。

つまり、航空会社時代に私が経験したこととは別な商品が必要だと思うようになったのです。

 

それは何かというと、レジャービジネスが、商務客室に観光客を乗せる商観融合型なのに対し、商務客(所用で乗っている地元民、出張客)と観光客を分離するべきではないかということです。

 

そうしないと、不要不急の観光客のために地元民が列車に乗れない状況が発生してしまいますから、そうなると利用者離れが加速するのは間違いないからで、所用で利用する北海道民の人たちが、「自由席でもまず座れる。」「指定席ならバスよりはるかに快適」というような商品にしていかないと、どうしたって高速バスに負けてしまうのです。

 

 

 

この時の車内と切符です。

半分以上は観光客で、外人もたくさん乗ってました。

切符は特急券と乗車券で4810円。高速バスの「むろらん号」なら時間は大して変わりませんが、切符は2060円です。

そして、この室蘭はもとより、北海道内の多くの都市間輸送が、同じような状況でバスに流れてしまっているのです。

 

では、その商観分離のためにはどうしたらよいか。

まず、観光客を特急列車に乗せないために、特急列車を補完するような列車が必要ですね。

車体を傾けながら息せき切って走るような特急列車ではなくて、観光客が楽しめるようなちょっと遅めの急行列車を、観光客が利用しやすい時間帯に走らせるべきでしょう。不要不急の観光客は1分1秒を争うような列車に乗る必要などありませんから、そういうスーパー特急のような列車は地元のお客様のために開放するべきで、まあ、昔で言うところの周遊券利用者は急行列車の自由席に乗って、特急列車は出張のお客さんが乗るというような、用途を分けた列車設定が必要でしょう。

 

それともう一つ、大事なことは、北海道独自の鉄道営業規則を作ることでしょう。

国鉄時代から踏襲する全国ほぼ同じな鉄道営業規則では現代の需要に合わなくなって来ているのは明らかで、特急列車しか走っていなくて、普通列車で旅行するのは現実的でないにもかかわらず特急料金を徴収するようなことは、考え方を根本から変える必要があるのです。

まして、今までそのやり方で30年間やってきて、うまくいっているならともかく、ダメになってしまっているんですから、やり方を変えなければなりません。

思い切って運賃を倍ぐらいにして、居住証明がなければ発行できない道民専用キタカでも導入して、それを使えば半額で乗れますよ的なことでもやって、観光客からたくさんお金をいただいて、地元客には空いていて安いサービスを提供するぐらいのことをやらないと、これはどうにもならないでしょうね。

と思うのであります。

 

もちろん、レールパスでは特急列車に乗れないようにして、観光用の急行列車に観光客を集める仕組みを作ったうえでのことですけどね。

そして、その観光客向けの列車には、乗りたくなるようなサービスを提供することは当然のことで、それが現在発売中の週刊プレイボーイに書かれているカラオケ車両や食堂車を連結した急行列車なのであります。

速度が遅い急行列車なら、全車両に動力を持つディーゼルカーじゃなくて、運転席も動力も持たない客車なら安く作れますし、何なら貨物列車に連結したって良いわけですから、「できない理由」ばかり言っているようではだめなのです。

 

JR東海が「レールパスではのぞみには乗れません。」ってやっているのは、この商観分離のさきがけのような気がしますね。おかげで「ひかり」がごった返しているようですが、これが特急と急行の役割分担のように感じています。

「ひかり」しか停車しない駅の利用者にとってみたら別の問題があるとは思いますが、JR北海道の場合はそれ以前の、はるか手前で躓いているのですから、やってみなければ、やはりどうにもならんのであります。