電車の名前

トキめき鉄道の国鉄形急行電車の試運転。
2日目に「越後」とヘッドマークを出して走りましたところ、さっそくネットニュースでいろいろと取り上げていただいております。

えちごトキめき鉄道 413・455系が試運転「越後」ヘッドマーク掲出

電車の名前をさり気なく掲出しただけでこれだけ話題にしていただけるのですからありがたいですね。

これがローカル鉄道の価値の一つだと思いますが、電車に名前を付けるということはなかなか面白いことなのではないかと思います。

私はその道の研究者ではありませんが、日本の鉄道はイギリスから来ていますので、列車名を付けるというのもイギリスやヨーロッパの習慣から来ているのではないかと思います。

「フライング・スコッツマン」や「ゴールデンアロー」などは有名なところですが、日本でも戦前から「つばめ」「富士」などの列車名が付けられていました。

台湾では自強、莒光、復興という名前の列車が走っていますし、韓国でもセマウル、ピョドルギ、ムグファという列車がありますが、あれは列車名ではなくて特急、急行、快速といった列車種別に当たるものです。
日本ではその列車種別にプラスしてさらに名称が付いているものがありますが、その名称というのは愛称でありますから、一般の皆様方に列車に親しんでもらうという目的では重要な役割を担っているのではないかと思います。

今回、トキめき鉄道で運転する国鉄形急行電車のテーマは「急行電車でSLを見に行く。」ということで、お休みの日には急行電車に乗って直江津のD51を見に来て欲しいというコンセプトなのでありますが、時代考証としては昭和40年代半ばから後半にかけての数年間を設定しています。

日本の国鉄からSLが消えたのが昭和50年の北海道室蘭本線が最後ですが、その前年の昭和49年には九州と山陰から。昭和48年には会津地方や東北地方からSLがサヨナラしましたので、この455系交直両用電車はSL時代末期に東京や大阪から東北、北陸、九州方面にSLに会いに行くために乗った電車の、その時代がテーマなのであります。

そして、その当時といえば、国鉄の特急、急行列車にはほとんど愛称が付いていて、中には誇らしげにヘッドマークを掲げている列車もありましたので、その時代に合わせて演出しているのであります。

きちんとそういうことを組み立てて理論付けてやって行かないと、お客様には会社の「底の浅さ」が見えてしまって「な~んだ、その程度か」と馬鹿にされることになってしまいますから、一番気を使っているところなのです。

そして、その一番気を使っている列車名を何にしようか。
これは考えに考えて、「よし! これで行こう!」と命名したと思われるかもしれませんが、実はそんなことはなくて、社長の私が5分ぐらいで考えて、「はい、越後で行きましょう。」と社長権限で決めたのであります。


▲急行「越後」のヘッドマークを掲げて走る試運転列車。(撮影:K氏)

ではなぜ「越後」なのかというと、これはまったく私の独断と偏見なのでありますが、会社名が「えちごトキめき鉄道」ですから、当然と言えば当然であります。
でも会社名はひらがなの「えちご」。
じゃなくて漢字で「越後」としたのは、これも全く私の独断と偏見で、私の子供の頃の印象として、急行列車の名称は漢字が多く、特急列車はひらがなが多かったように記憶しているからです。

当時の国鉄が列車名をどうやって決めていたのかはわかりませんが、東京育ちで時刻表少年だった私としては、急行列車は「外房」「内房」「犬吠」「水郷」「信州」「奥久慈」「佐渡」「妙高」「北陸」「兼六」「東海」「銀河」「雲仙」「安芸」「玄海」「立山」「山陽」などといった漢字の名前が多い印象があります。
これに対して特急列車は「あさかぜ」「さくら」「はやぶさ」「みずほ」「あまぎ」「わかしお」「さざなみ」「しおさい」「あずさ」「とき」「やくも」「まつかぜ」「かもめ」「しらさぎ」「しなの」「いはほ」「つばさ」「やまびこ」「はつかり」「みちのく」「ゆうづる」「はくつる」といったひらがな名称が多かったものですから、急行列車となると「えちご」ではなくて「越後」が良いと考えたのであります。

実際に「越後」という急行列車は大阪から新潟へ行く列車として昭和40年代後半に気動車列車ながら存在していましたので、時代考証的にもぴったりだし地域を代表する観光急行列車の愛称としては違和感がないということです。

では、えちごトキめき鉄道の時刻表には急行列車に「越後」という名前が付けられていないのはなぜか。
ふつうであれば「越後1号」「越後2号」となるはずなのに、時刻表を見ると「急行1号」「急行2号」となっているだけ。
これは、列車名がいろいろ変わる可能性があるからです。

そう、観光列車ですから、その時々でお客様にお楽しみいただけるようにいろいろな愛称名のヘッドマークを用意しているからで、「越後」と列車名を時刻表に表示して限定してしまうことを避けるためであります。
こういうことが大きな鉄道会社には真似できないところなのでありまして、「はやぶさ」がある日突然「今日は『八甲田』として運転します。」なんてなったら世の中は大騒ぎになりますからね。

最初から時刻表上に名前を名乗らなければ何とでも行けるわけです。
ただし、将来的に指定席を設定したり食堂列車をやろうという時には列車を指定する必要が出てきますから、1~4号と番号を振っているわけです。

とまあ、からくり的にはそういうことなのでありますが、「越後」も含め、基本的に昭和の時代に実際に列車として存在した列車名のヘッドマークを各種準備しているわけで、一例をあげるとこんな感じなのであります。

特に漢字にこだわっているわけではなくて、新潟県とその沿線地域にふさわしいヘッドマークを仕込んであるわけで、その理由は、日本全国の皆様方に新潟県と沿線地域を知っていただき、話題にしていただきたいからであります。

なぜなら、それが地域鉄道の一つの役割だと考えているからです。

さぁて、運転開始はどの列車名で行きましょうかね。