昨日はZOOM会議でしたと書きました。
新潟県中小企業家同友会の皆様をお相手に、自分の考えをお話させていただくお時間をいただいたのです。
ZOOM会議のテーマは潜在顧客をどう探すかというものでしたが、その会議の中で「社長さんが商売をする上での原点は何でしょうか?」というような質問を受けました。
う~ん、確かにそうだなあ。
線路の石を缶詰にして売るなどと、私を商売に駆り立てているものは何だろうか。
自分の人生の中で何が自分をそうさせているのか。
そんな質問を受けまして思い出したことがあるのです。
だいぶ以前にもこのブログに書きましたが、私が小学生の頃のお話。
親戚に魚屋とすし屋をやっているおじさん、おばさんがいまして、そのうちには子供がいなかったものですから、ちょくちょくお手伝いに出かけていたんです。
場所は世田谷の真中(まなか)の交差点の近く。
魚屋や寿司屋には興味がなかったんですが、勝浦の親せきが魚屋で、おばあちゃんちに行くといつもお店を手伝っていたのと、親公認で電車に乗れるのとで、小学校5年生ぐらいから小遣い稼ぎもかねてその世田谷のおじさん、おばさんの家に手伝いに出かけていました。
玉電が廃止になって、246に高速道路ができて、やがてそこに地下鉄が走る。今の田園都市線(当時は新玉川線)が走り始める前の頃といえばお分かりいただけると思いますが、渋谷の駅から11番という札をつけた東急バスに乗って日曜日に塾が終わるとその足でお手伝いに出かけていました。
そのころの私は、まぁ、子供でしたから、考えも至らぬことでしたが、商売というものは悪だと思っていました。
その理由は、仕入れてきた金額に利ザヤを乗せて販売しているから。
例えば50円で仕入れてきたものをお客様にはニコニコ笑いながら100円で売り付けて「毎度あり~」と言っているわけですから、これはすなわちお客様をだましていることではないかと考えていたのです。
だって、50円で仕入れてきたものを100円で売るのですから、ある意味嘘をついているのと同じことで、学校では士農工商と習っていましたから、商売人というのはだから一番下の位なんだ、と思っていたのです。
その魚屋は、すし屋を兼ねているお店で、今となってはおじさんはかなり先見の明があったと思っていますが、魚屋の寿司ですからなかなかどうして注文が多くて忙しい。
お店はカウンターだけの小さなものでしたが、出前の電話がひっきりなしで、私は子供ながらに配達用の自転車に乗って、片手で風呂敷に包まれたお寿司を持って、片手ハンドルで世田谷の住宅街を走り回っていました。
今はどうなっているか知りませんが、当時の世田谷は高級住宅街のお屋敷町で、政治家や芸能人がたくさん住んでいるところでした。
ある時、俳優の宝田明さんの家から注文が入りまして、お寿司を届けました。
私は子供だったので宝田明さんがどういう人かわかりませんが、配達を終わってお店に戻るとおばさんが、「宝田明さん居たか?」と聞きますから私は「居なかったよ。」と答えました。
「じゃあ、お前はいったい誰にお寿司を渡したんだ?」と聞かれたので、「庭でステテコはいたおじさんが水撒いてたんで、そのおじさんに渡したよ。」と答えると、おばさんは「馬鹿だねえ、この子は。その人が宝田明さんだよ。」と大笑いされたことを覚えています。
またある時は、経済企画庁長官をされ先日お亡くなりになられた越智通雄さんのお家へ配達に行きました。
越智さんはその後総理大臣になる福田赳夫さんの娘婿で、どちらのお家も近くにありましたが、配達に行くとやはりステテコをはいたおじさんが出てきてお寿司を持ってきた私に驚いた顔をしてこう言われました。
「お前、子供だろう。子供が働いてるのか?」
私は、「はい、親戚の家なので手伝いに来てるんです。」と答えると、私の目を見ながらニコニコ顔で、「そうか、それは感心だな。がんばれよ。」と頭を撫ぜてくれました。
そんなある日、ある大きなお屋敷にお寿司を届けたときのことです。お寿司を渡して代金を受け取って「ありがとうございました。」と言うと、お屋敷のおばさんがニコニコ顔で「ありがとうございました。」と言うのです。
私は不思議に思って、子供ですから、おばさんにこう聞いたのです。
「あの、僕はお寿司を届けてお金をもらったから『ありがとうございます』って言うけれど、おばさんはお金を払ったのになぜ僕に『ありがとう』って言うんですか? 『ありがとう』っていうのは僕の方で、お金を払った人が『ありがとう』って言うのはおかしいんじゃないですか?」
するとおばさんは私の顔を見ながら、
「あのね、僕のうちがお寿司屋さんをやってくれていて、僕がお寿司を届けてくれたから、私たちがおいしいお寿司を食べることができるのよ。だから『ありがとう』って言うのよ。」
と言われたのです。
もう50年近く前の話ですが、今でも鮮明に覚えているぐらいですからよほど衝撃的だったんだと思います。
この瞬間にそれまで商売というのは悪だと思っていた私の気持ちが180度方向転換したのです。
そうか、お金を払う側が「ありがとう」と言えるような商売をすることが正しい商売なんだ。
その後の私は物の売り買いに興味を持って、商業の勉強をする学校に行ったのは皆様ご存じのとおりですが、この、「お客様にありがとうと言っていただける商売をする」ということが私の商売の理念なんだと、昨日のZOOM会議で久しぶりに思い出したのです。
線路の石の缶詰なんて何の役にも立たないんです。
でも、その線路の石の缶詰を1個550円で売って、それが7000個も売れて、普通だったら「何だこんなもの。だましやがって」となるところを、1個もクレームや返品がないんですから、私は自分の理念に従って正しい商売をしていると考えているのであります。
こんな商品があってよかったなあ。
こんな列車が走っててよかったなあ。
お客様にそう思っていただける商売を目指しているのであります。
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