新幹線で貨物を運ぶなら

最近、新幹線で貨物を運んでいるという話を聞きます。

正確には貨物じゃなくて荷物ですが、個人的な宅配便ではなく小口の商用荷物ですから、まぁ、貨物と呼んでもおかしくはないでしょう。
ただ、鉄道の規則では旅客鉄道会社は貨物を運ぶことはできません。でも、荷物を運ぶことができるので、新幹線で運んでいるのは貨物ではなくて荷物という範疇にくくる必要があるのでしょう。

さて、何を運んでいるかと言えば、とりあえず東北地方の魚介類を東京へ運んだり、同じく東北地方の果物や生鮮食品を北海道へ運んだりしているようですが、つまり、小さくて、高くて、鮮度が問われるものが新幹線で運ぶにふさわしい荷物ということになります。
JR貨物はそんなデリケートな商品を運ぶ仕事ではなくて、大きくて、重くて、安いもの、そして多少到着が遅れたって商品価値が損なわれないものを運ぶことを得意としています。

例えば、同じ生鮮野菜でもジャガイモや玉ねぎ、大根などは貨物列車で3日ぐらいかけて北海道から東京や大阪、遠くは九州までかけて運んでいますし、あるいは九州からミカンなどを東北や北海道へ運んだりしていますが、これに対して一刻も早く運ばないと鮮度が保たれないようなものは、飛行機であったり保冷トラックであったりするのが今の日本の物流ですから、新幹線で新鮮な魚介類や高額な果物類を運んだとしても、貨物会社と旅客会社がお互いにライバル関係になることはないのです。

ライバル関係になるとすれば飛行機やトラック輸送とですが、例えば東北新幹線が福島県や宮城県、岩手県から東京へ荷物を運んだとしても、元もと航空路線が発達している地域ではありませんから、飛行機のお仕事を奪うようなことにはなりませんし、トラック輸送はドライバー不足が叫ばれて久しいですから、このままで行けばいずれ物流は成り立たなくなる可能性があるという点で、新幹線が超特急スペシャル高額荷物を運んだとしても、トラック業者が民業圧迫だと大騒ぎするようなこともないでしょう。

ということで、ここのところ新幹線が座席に荷物を載せて運んでいるというニュースが数回聞こえてきていますが、現時点ではあくまでも実験的にということのようです。

でも、いくらコロナの影響があるからと言って、ガラガラになってしまった列車に荷物を積んで走らせましょうなんてことが、わずか数か月で実現できるなんてことは、あのJRの図体を考えたらできるわけないと思われる方もいらっしゃると思いますが、新幹線で荷物を運ぶということは昨日今日考えられたことではなくて、実はずっと以前から、少子化とインターネットの発達でいずれ人の流れが変わるだろうからと、JRの社内で検討されていたことでありますから、まぁこれだけ素早く実験に取り掛かれているわけです。

さて、こういう新しい取り組みは世の中を活性化させるにはとても意義あることだと考えるのですが、新幹線が貨物を運ぶような時代が来るとすれば、私としては貨物がお客様を運ぶ時代が来ると言っても過言ではないと思うのです。
というのも貨物会社が得意とするのはせいぜい時速90㎞か100㎞で、延々と長距離を運ぶことですから、例えば寝台特急のような一晩、あるいはまる一日かけて目的地に向かうような列車であれば、貨物列車に数両の客車をぶら下げて走ることができるはずだし、そういう需要が必ずあると思うからで、長距離列車で途中駅での乗降ができなかったとしても、かつての北斗星のように食料と水とお世話するアテンダントを乗せて走るだけで十分ですから、別に途中駅で停車してドアを開ける必要はありません。東京-札幌ぐらいであれば十分実現できると思いますし、ましてや旅客鉄道会社が面倒くさいからそんなことはやりたくないと辞めてしまった列車であるわけですから、貨物会社がやると言ったところで、旅客会社が「俺たちの商売の邪魔をするな。」というようなことは、思っていても言えないと思うのであります。

まぁ、あとは各種法律改正が必要でしょうけど、新しい総理大臣は既成概念の打破を目標に掲げていらっしゃいますし、それよりも以前に最近の御上には民間会社以上にフレキシブルな思考をお持ちの方々がたくさんいらっしゃいますので、「新幹線で貨物を運ぶ時代」が来るということは、なんだかとても面白い時代になる予感がしているのです。

金貨でワインが買えるなら、ワインで金貨が手に入るはずだ。
そう言った経済学者がいましたが、
「旅客が貨物を運ぶなら、貨物が旅客を運べるはずだ。」
と私は申し上げることにしましょう。