車内販売について考える

JR北海道が今度のダイヤ改正で「スーパーおおぞら」の車内販売をやめると発表したことで、巷では鉄道ファンを中心に結構盛り上がっているようです。

札幌から釧路を結ぶ北海道の大動脈。所要時間4時間の列車から車内販売が無くなるということは、簡単に言えば、その間は飢餓状態になる。それが「スーパーおおぞら」だけでなく、函館ー札幌間の「スーパー北斗」にも及んで、今回のダイヤ改正では一部の「北斗」のようですが、いずれ、将来的には全部の列車から車内販売が消えるのはJR北海道の現状を見れば明白でしょう。

 

車内販売が無くなったって、駅で乗る前に弁当と飲み物を仕入れればよいし、コンビニだってあるのだから大丈夫という人も多いと思います。

でも、例えば北海道新幹線に乗って、新函館北斗で在来線の「北斗」に乗り継いで札幌方面へ向かう場合には、新函館北斗の乗り換え時間で弁当を仕入れられなければ札幌まで4時間近く食事にありつけません。だとしたら、そういうことを事前に調べて、お客様自身できちんと対策を取るべきなのでしょうか。

鉄道というのはどちらかというと「交通弱者」と言われる人たちにも安心して利用していただける交通機関であるということを考えた場合、特急列車に乗る時は、お客様が事前に飲食の準備をして乗るのが当然であり、そういうことはお客様の自己責任ですよという話になるとすれば、「利用者のためを思った人にやさしい交通機関」ではなくなりますから、自己責任を問われるのがお客様の側である以上、私だったら、自己責任として、鉄道は利用しないということを選択すると思います。

 

しかるに、事業者自ら、お客様に「選択するからには自己責任ですよ。」と言い続けた鉄道は、過去数十年にわたってお客様を失っていて、そのお客様が減少したことに対する経営上の対策として、さらにお客様に自己責任を求めることをやっているというのが、今回の車内販売廃止だということなのです。

 

思い起こせば、昭和の時代のローカル線がそうでした。利用者がいないから本数を減らす。本数が減って不便になるから利用者がさらに減る。結果として廃止になるという構図です。

ブルートレインなどにみる夜行列車も同じです。

時代についていけないサービスを、省みることなく延々と続けていて、利用者がいなくなる。利用者がいなくなれば、一昼夜走る列車からも平気で食堂車を廃止し、途中での飲食の供給も廃止。そんな列車には誰も乗りたくありませんから、利用者はさらに減少する。結果として寝台列車も座席の夜行列車もみんな廃止にしてしまいました。

でも、例えば高速バスの夜行便はその後しっかりとお客様をつかんでいますし、個室需要にも対応を始めている。驚くことに名古屋から大阪というような短距離区間でも需要を開拓して、夜行バスを走らせているんです。

 

つまり、JR(国鉄)の人たちは、お客様に対して「あなたたちが利用しないから廃止にするんですよ。」ということをずっとやって来ていて、今、まさに、特急列車の車内販売も、そういう理由で廃止になるということなのです。

 

でも、お客様に向かって、「あなたたちが買わないから商売をやめます。」という商売って正しいのでしょうか。

 

例えば、スーパーマーケットなどの小売業にしたって、お客様に向かって「皆さんが買わないから閉店します。」という商売はないんです。どんな商売だって、どうやったらお客様にいらしていただけるか。品ぞろえや価格設定など、どうしたらお客様に選択していただけるか。そして、いらしていただいたお客様に喜んでいただいて、もう一度いらしていただけるようになるかということを、24時間考えていて、努力しています。商売をやめるというのは、あくまでも結果として努力が足りず、お客様に選択していただけなかったということでありますから、その商売をやっている人の責任なんですね。

「せっかくここで商売しているのに、どうして買わないんだ。」「買わない客のせいで商売が続けられない。」ということはないんです。でも、私が感じるところではJRの商売は平気で利用客に責任転嫁している。「お前たちが買わないからやめる。」「お前たちが乗らないから廃止する。」ということなのです。

 

ではなぜ車内販売が売れないのか。

これには2つの理由があります。

まず1つは、価格が割高であること。駅弁もそうですが、鉄道敷地内での物品販売は、市中に比べると数割程度割高です。

これはなぜかというと、JRに対して場所代を支払って「商売をさせてもらっている」からです。

JRは鉄道本体の事業ではなかなか儲かりませんから、関連事業に力を入れているのはご承知の通りだと思います。その関連事業というのは、直営もあれば場所貸しもある。駅弁などはその典型的な例で、契約事業者にならなければ鉄道敷地内で商売をさせてもらえないし、その契約事業者になるためには、JRに対してコミッションを支払わなければなりません。つまり、商品の価格に上乗せされているわけです。同じように車内販売も割高で、例えば1本の缶ビールが、駅前のコンビニと駅の売店と車内販売とすべて値段が違うわけで、これは飲食物ほとんどすべての商品に言えるのです。だから、若いサラリーマンなどは、駅の改札口に入る前に飲み物とつまみを準備して乗り込むなんてのは当たり前になっているわけで、列車に乗って車内販売が回ってくるころには、すでに一杯はじめているのですから、車内販売は商売のチャンスが失われる。つまり、売れないのです。

 

車内販売が売れない理由の2つ目は、お客様が少ないということです。

新幹線だって、「のぞみ」には乗せるけど「こだま」には乗せない。その理由はお客様が少ないから。

お客様が少なければ、そりゃあ売れませんよね。

ではなぜ特急列車にお客様が少なくなってきたのか、ということは考えてないんです。

そういう根本的なところに何の対策も立てず、売れないから儲からない。だからやめるというのは、私は彼らの思考回路に致命的な欠陥があると考えていて、なぜならば、車内販売の商品の品ぞろえを論ずる以前の問題として、特急列車の商品価値が問われていて、その商品価値を高める一つの方法が車内販売であるにもかかわらず、その車内販売をやめることを平気で決定してしまうようなJRには、今後、どう考えてもお客様を増やすことなどできるわけありませんから、これ以上傷口が大きくならないうちに、その原因となっているものを除去していかないと、今後さらに大変なことが起きると思うのであります。

 

(つづく)