うれしいことがありました。

昨日「私はあまりへこたれない」という話をしました。

その理由は、相手に期待しないから。

自分のカミさんにも期待してませんから夫婦げんかもしませんし。

いや、誤解を抱かれてはいけませんので言葉を付け加えますが、うちのカミさんは文句も言わずいつもニコニコとしっかり母親業と主婦業をやってくれていて、5人の子供をきちんと育て上げてくれましたから大変感謝しております。
ただ亭主としてはそういう姿を「当然だ。」「当たり前のことだ。」という見方をしていませんよ、という意味で期待していないのであります。
だから、いつもいつも感謝感謝で、よくまあこんな私に文句も言わずついてきてくれたもんだと感謝しているのであります。

何しろ私のブログの読者の皆様方は御存じでしょうけど、私は女遊びこそしませんが、だいたいいつもいつも行きたいところへ行って、おいしいものを食べて、楽しい列車や飛行機に乗っているのが私のこれまでの人生であり、そういうことをさせていただいているのもカミさんのおかげなのでありますから、いくら感謝してもしきれないのであります。

さて、そんな中で今日のニュース。

新潟県の花角知事が、トキめき鉄道の名前を出して、「交通事業者は大変な状況だから国としても支援をしていただきたい。」と言っていただいたというニュースがテレビで流れました。

その知事の話を伝える夕方のニュースです。

うれしかったですねえ。

知事には就任以来何度もお会いしておりますし、大変気にかけていただいているのは事実なんですが、私は直接知事や県の幹部の方々に「助けてください。」とは言わない。
別に頭を下げるのが嫌なのではなくて、そりゃ、こんな禿げ頭で良いのであればいくらでも下げますよ。それでお金がいただけるのであれば。
でも、3セクの社長を10年以上やっている身としては、そんなことでお金が出るほど世の中甘いものでもないことぐらいはわかっています。
まして新潟県はお金がない。
出したくても出せない状況だということもわかっています。
だから、県の関係者の皆様方に向かって(変電所の更新などの大規模設備修繕などの話は別として)、お金がありませんから助けてくださいというお話は一度もしていません。

それが、昨日も申しあげた「相手に期待しない。」ということ。

だから、今日、花角知事が、トキめき鉄道の名前を出して、「国にも支援を要請する。」と言っていただいたことに対しては、正直寝耳に水で、とてもうれしかったのです。
そんなこと言ってくださいと頼んだわけでもなく、助けてくれるのが当然だと期待しているわけでもありませんから、純粋にうれしかったのです。

世の中には色々な考え方の人たちがいます。
「トキめき鉄道は県が筆頭株主なんだから県が何とかするのは当然だろう。」
そう言う人もいるでしょう。
「並行在来線というのは新幹線ができてその新幹線がもたらす多大な利益と引き換えに地元が引き継いだお約束があるんだから、地元が面倒を見るのが当たり前じゃないか。」
そう言う人もいると思います。

まあ、国と県と地元とJRとのいろいろな取り決めの中で全国的にこういう鉄道ができているのですから、確かにそうかもしれませんが、今トキ鉄の社長という立場の私はそうは思いません。
なぜなら、助けてもらうためには、まず、自分たちが一生懸命努力して、頑張っていることを認めてもらわなければ誰も助けてあげようなんて気持ちにならないと思うからです。

まず、一生懸命いろいろなことに努力すること。
どういう努力をするかというと、会社ですから一生懸命売上を上げる努力をすることと、同じように一生懸命経費を下げる努力をすること。この2つを同時にやっていかなければならないのです。

新型コロナの外出自粛で観光客どころか通勤通学客もいなくなりました。
そりゃそうですよ。世界的に同じなんですから。
「仕方ないよね。」
と言う人もいるでしょう。

でも、私はそうは思いません。
会社というのは、とにかく一生懸命努力しないと存在する意味が無くなりますから、鉄道という本業のお客様が消えてしまった状況で「仕方ないよね。」と言っていることはできないと思います。

だからレトルトカレーを作って一生懸命売る。
ゴールデンウィーク向けに「Stay Home Set」を作って一生懸命通信販売する。
果てはマスクまで作って売る。

なぜ鉄道会社がマスクを作るんですか?
そう聞かれたら、私は「あなた、今日の新聞見ましたか?」と言います。
あの、ソニーだって今やメーカーじゃない。
保険も金融も何でもやるんです。
だからトキ鉄だって、「鉄道会社でございます。」などと気取っている場合ではありません。
小さなお金ですが、一生懸命稼ぐというのが商売の基本ですから。

レトルトカレーというのは1回のロットで約2000個作るんです。
それが最小単位。
3月末に売り出しましたが、あと残っているのが400個ぐらいです。
レトルトカレーの賞味期限は2年。
だから、1年で完売できればいいかなあと思っていたのですが、ひと月半で1500個売れました。
一生懸命販売して、多くの皆様方に応援していただいたのです。

何につけてもそのぐらい一生懸命に頑張ることが必要です。

売り上げだけじゃありません。
私はガラガラの電車を見て、下を向いてうつむくことはしません。

目の前の電車にはお客様は乗っていないかもしれないけれど、鉄道というのは皆の夢と希望を乗せて走っていると思います。
だから、電車が走るシーンをビデオに撮影してネットで公開してご自宅に居ながらトキ鉄の旅がお楽しみいただけるようにしたり、皆様からの家族写真を募集したり。
そうやって、今やれること、今だからできることを一生懸命やって来ているんです。

売り上げは激減ですよ。
ご多分に漏れず対前年比8~9割減です。
でも固定費は同じようにかかります。

毎日社長室で経理の責任者と首を突き合わせてお金の算段。
今後の事業見込みをどこに置くか。
簡単に言うと、どれだけお客様がいなくなって、そのお客様がいつ戻って来るか。
それを、あらゆる角度から検討するように。
不要不急とは言いませんが、経費の執行もすべて見直しをして切り詰められる数字を各部門から出してもらっています。
新年度の事業計画が4月のしょっぱなから躓いているわけですから、はっきり申し上げて現時点では手の打ちようがない。
全日空も日本航空も、回復の見込みがいつになるかわからないので事業計画が立てられないと発表している中で、トキ鉄の幹部の皆さんは、それでも数字を出せと私に言われて、決算時期で大忙しなのにもかかわらず、大変な思いをして事業計画の修正をしています。

それはなぜか。
その理由は、一生懸命頑張って、周囲の皆様方から、「あれだけ頑張っているんだから、助けてあげなければならないでしょう。」と言ってもらえるようになるのが、会社の存在意義だと考えるからです。
助けてもらうことを期待しているのではありません。
助けてあげなければと皆様方に思っていただけるような会社になること。
トキ鉄が地域にとって必要な会社になるというのはそういうことだと思います。

だから、知事に対しても今回のコロナで大変ですから「お金を下さい。」などということはひと言も言っていません。
そんな時に、知事がトキ鉄の名前を出してくれて、「交通事業者は大変な時期だから、ぜひ支援をして欲しい。」と国に要望を出してくれたのですから、私は素直にうれしいのです。

国や県や知事には期待していないという話ではありませんよ。
制度上助けていただかなければ立ち行かなくなるのはご多聞に漏れずどこの並行在来も同じですから。特にトキ鉄は一番の劣等生ですからね。

でも、何が劣等生かという基準は「赤字が大きい」という部分だけであって、それ以外の部分では他社よりも素晴らしいところはたくさんあるし、決して劣等生ではありません。
学校だってそうでしょう。
国語、数学、理科、社会、英語、音楽、美術、体育と、生徒を評価する基準はたくさんあるんです。
会社ですから、利益が出ないということは、多分3教科(国語、数学、英語)のどれもダメで、「お前、そんな成績じゃ入れる大学ないぞ。」と先生に叱られる状態なんでしょうね。
だから、進学コースの同級生たちからは疎まれるわけです。

でも、3教科がダメでも、歌や楽器の演奏が上手だったり絵が描けたりスポーツ万能だったり、その人その人ががんばれるポイントってあるんじゃないでしょうかね。

鉄道は地域の足であるというのは、3教科が得意であるというのと同じようなもので、人口密度があって、路線長が短いような地域特性のところは、進学コースの受験勉強で勝負できるかもしれませんが、田舎の鉄道は人口がいなくて、路線が長く、地形が複雑で災害を受けやすいなど、同じ尺度で比べると劣等生ですよ。
じゃあ、ダメなんですか?

私はそんなことはないと思います。
音楽が得意だったり、図工が上手だったり、ダンスが得意だったり。
景色が良かったり、食べ物がおいしかったり、人情があったり。
それぞれ特徴があるのだから、その特徴を一生懸命磨いていくことが、本来やることなんだと私は思います。

トキ鉄にはね、海線と山線があるんですよ。
海って言っても荒れ狂う日本海ですから半端じゃありません。
山と言っても国際的なリゾート地の妙高山ですから半端じゃありません。
トキ鉄にはね、電車とディーゼルカーが両方走ってるんですよ。
電化区間と一言で言いますが、交流と直流の両方があるんですよ。
北海道から九州までを結ぶ貨物列車も走ってるんですよ。
こんな鉄道は他にはないんです。

そう考えたら、3教科の成績では優等生にはかないませんが、優等生ができないような特技をたくさん披露することができるんです。
でも、その特技を一生懸命、地道にコツコツ、ある意味泥臭いほどに、涙ぐましい努力をしなければ、誰にも認めてもらえないんですよね。

上記のこと、私は信じているんです。
ローカル鉄道はガラガラに見えますが、人々の夢と希望を乗せて走っているんですよ。

本当かよ?
そう言われる方がいらっしゃるかもしれませんが、その証拠は、カレーがたくさん売れることであり、マスクをたくさん買っていただくこと。
レトルトカレーなんてスーパーで安く売っています。
マスクだって使い捨てで十分ですよ。
でも、お客様はわざわざトキ鉄でご購入いただいて応援していただいているんです。

先日津軽鉄道のお話をさせていただきました。
津軽鉄道はホームページで列車の車窓風景の動画を公開しています。
そして、その動画を見た皆さんに対して、
「たいへん厚かましいお願いではございますが、動画をご覧になられて旅気分を感じていただけましたら、どうぞ運賃をお支払いください。」
と言ったんです。

そうしたら、いくら集まったと思いますか?
半月ちょっとで70万円ですよ。

ネット動画と言っても課金じゃないですよ。
見た人が、「ああ、津軽鉄道頑張ってるな。」「応援したいな。」と思ってくれて、わざわざ銀行振り込みで「運賃」を送った金額が半月ちょっとで70万円です。
観光客は来ないし学校は休校だし、津軽鉄道の列車にはお客様は乗っていません。
津軽鉄道だって、そんな動画を公開したところで、皆さん「運賃」なんて払ってもらえると思っていませんでしたよ。
つまり、期待していなかった。
欲がないんですね。

その姿勢に皆さん共感されてお金を振り込んだんです。

これって、列車はガラガラかもしれないけれど、人々の夢と希望を乗せて走っているということなのです。

だから、トキ鉄も、応援してくれている皆様方の夢と希望を乗せて走らなければなりません。
そのために、一生懸命頑張るしかないのです。

そうすれば、皆さんが幸せになれる。
皆さんが幸せになれれば、まわりまわって、いつかはトキ鉄にもその幸せのおすそわけがいただけるかもしれませんので、私は期待しないで忘れて待っていようと思うのであります。

花角知事、ありがとうございました。