Go-around とは着陸のために最終進入体勢にある航空機が、何らかの危険を回避するために着陸を取りやめて再上昇することを言います。
今日のように横風が強かったりすると、滑走路の接地点から大きくずれることがあります。
そんな時は再上昇して空港周辺をぐるっと回ってもう一度着陸をやり直します。
視界が悪くて、規定の高度まで下りてきても滑走路が見えない時も、Go-aroundしてもう一度やり直します。
悪天候時だけではありません。
例えば、自分が着陸しようとしている滑走路へ他の航空機が間違って進入してくることがあります。
空港内の作業用の自動車が横切ることもあります。
最終着陸体勢にいて、例えば高度が50メートルぐらいになっていても、機長は自分が危ないと思ったらすぐにGo-aroundして着陸復航体勢に入ります。
危険が切迫していることが解ると、パイロットは躊躇することなく着陸をやり直すために再上昇して行きます。
管制塔からは「着陸してよろしい。」という許可をもらっているのですが、そんなことはお構いなしで、機長が一瞬で判断して、着陸を取りやめて再上昇して行きます。
では、着陸復航体勢に入ると飛行機はどうなるか。
あらかじめ決められた高度まで上昇すると、空港ごとに定められている場周経路を回って、再度着陸態勢に入ることになります。
空港の混雑状況にもよりますが、一旦着陸復航体勢に入ってしまうと、戻ってくるまで30分ぐらいかかります。
30分ぐらいかかるということは、到着が30分遅れるということです。
では、30分到着が遅れるとどうなるでしょうか?
例えば国内線の場合、空港での乗り継ぎは最低30分程度あれば可能とされています。
ということは、乗継便を持っているお客様は接続ができなくなるということです。
その乗継便は、目的地で別の便の乗継を持っているお客様が他にもいるかもしれませんから、定刻で出発させなければなりません。
もしその便が最終便だったら、お客様は1泊することになりますが、その分の費用は航空会社が負担しなければなりません。
300名のお客様が乗っているということは、そういう乗継便を持つ人が10名ぐらいはいるでしょう。一人2万円はかかるでしょうから20万円は会社の持ち出しです。
国内線の場合、折り返しのために地上に滞在する時間は40分か50分程度です。
到着が30分遅れるということは、当然折り返し便の出発も30分遅れるでしょう。
そうしたら、折り返し便から接続便を持っているお客様が、また接続できなくなります。
成田空港のような門限がある空港なら、着陸復航して到着便が遅れれば、折り返し便が門限を過ぎてしまって出発できなくなる可能性があります。
例えば300名のお客様が折り返し便の予約を持っていたとしたら、その方々へ1泊のホテルをご用意しなければなりません。一人2万円で300人ですから600万円。とても大きな金額です。
もちろん、空港職員も長時間の残業になりますから人件費もかさみます。
航空会社の職員はエンピツ1本、コピー用紙1枚無駄にせず、長年経費節減に努めています。
コピー用紙などは裏紙を再利用するのが当たり前なことぐらい機長さんなら誰でも知っています。
もし、ここで自分がGo-aroundしたら、たいへんな経費が発生するかもしれません。
地上職員の節約の努力などすべて水の泡。いや、何年間の節約が何の意味もなくなってしまいます。
パイロットたちだって、着陸後、ゲートに入るまでに燃料節約のためにエンジンを片方止めたりと極力経費を削減する努力をしています。
今、ここで着陸を取り止めてGo-aroundを決断し、再上昇して空港の周りをもう一度回って到着が30分遅れたら、燃料が何トンも余計に消費され、地上での余分な経費がかかり、ふだんから一生懸命社員全員が頑張って、涙ぐましい努力をして経費を節約してきたことが、一瞬にしてすべて吹っ飛んでしまいます。
では、そういう時に、パイロットたちは判断を躊躇するでしょうか?
答えは「NO !」なんですね。
一瞬一瞬で的確な判断をしなければならないパイロットたちは、そういう時に「余分な経費がかかる」なんてことは頭の中にはよぎらない。
なぜなら、緊急事態というものはどういうことなのかをずっと訓練されているから。
危険を回避するためには、今、何をしなければならないかを一瞬で判断できるように、ふだんからきちんと訓練されているから、少なくともお金のことで邪念が入り込んで判断ミスを犯すなどということがないんです。
これが航空人の頭の中の構造です。
では、振り返って新型コロナウイルスの蔓延による緊急事態宣言を考えてみましょう。
私は、安倍総理や小池都知事など、政治家の皆様方の頭の中には、いろいろな「別の気持ち」があって、緊急事態宣言を出すのも躊躇していたし、緊急事態宣言が何かもはっきり指示できていない。
そのようにお見受けします。
例えば3月中旬の段階では政治家の先生方の頭の中には「オリンピック」があったと思います。
「緊急事態宣言など出したらオリンピックが開催できない。」
3月の下旬になったら経済でしょう。
「年度内は何とか乗り切りたい。」
4月に入ったらやっぱりお金。
「できるだけ国のお金を節約したい。」
だから、お金の給付にいろいろなハードルを付けて、もらえる人が限られるような制度になった。
お金持ちに配ることになれば貯蓄に回されるから効果がないとか、不正受給する人がいるから所得が減ったことを示す証明書を出させようとか、そういう議論ばかりで、本当にお金が必要な人たちに届けようという発想が見られない。
正義感があるふりをした不親切であり、不平等だと思います。
お金持ちにお金を配ったら貯蓄に回るから、そういうことが無いように所得制限を設ける。
確かに聞こえは良いですが、別にお金持ちにお金が回って貯蓄になっても良いんじゃないかと私は思います。
だって税金なんでしょ。
皆さん二言目には「国民の税金」と言いますが、お金持ちというのは普通の人たちより多く税金を払っている人たちのことを言うのですから、もらったって良いんですよ。そう判断すれば、受給者の線引きなどせずに済みますから本当に必要な人にいち早くお金が届くんですから。
とまあ、私から見たら、緊急事態に陥っていて、一瞬で判断しなければならない時に、オリンピックやお金の話で「ああでもない、こうでもない。」と聞かれてもいないことまで喋りまくって、結局はすべて後手後手。
たぶん政治家の先生方には色々な取り巻きがいらっしゃって、圧力もかけられているのかと思います。
機長と副操縦士が右だ、左だと言ってもめているところに客室からチーフが入って来て「まっすぐ行け!」と言っているような状態かもしれませんが、プロフェッショナルの人たちは、そういうゴタゴタは起こさないのです。
誰が責任者なのか。
これが明白なのですから。
今の国の上層部に飛行機の操縦をさせたら、おそらく既に地面にたたきつけられて大惨事になっているでしょうね。
ところが先生方や上級国民の皆様方は自分だけを守ることには長けていますから、「国民の皆様方に自粛をお願いする。」
つまり、皆様方の判断で行ってください。
ということは、結果責任は皆様方にあるのです。
とまあ、こんな感じでしょうかね。
どうして強制力を持って移動の禁止ができなかったのか?
それさえ早い段階で行っていればこれほど被害は大きくならなかったのに。
終息後にこういう議論が出てくることを想定しているのでしょう。
「いいですか、皆さん。だから憲法改正が必要なんです!」
ということはきっとシナリオに書かれているのでしょう。
考えすぎと言われるかもしれませんが。なにぶん私は先の先まで考えてしまう性分なものですから。
あちらこちらで地震が起き始めていますが、こういう時は「泣きっ面にハチ」。
ダブルパンチが来るものですから、どうぞ皆様、お気を付け下さい。
私は自分が訓練生だったころ教官から言われた言葉をいつも思い出します。
「いいか、鳥塚。緊急事態が1つ発生することは時々ある。それは訓練をきちんとやっていれば対応できる。でも、長く飛んでいると時として緊急事態が2つ同時に発生することがある。そういう時に落ち着いて2つの緊急事態を1つにすることができればお前さんは助かる。でも、焦りまくって緊急事態を3つに増やしてしまう馬鹿がいる。そいつは死ぬんだ。」
二十歳そこそこの人間に、そういう人生訓を教えてくれた教官は既に草葉の陰。
今回のコロナ騒動を見たら、あの人だったらなんて言うんだろうなあ。
その答えを探している自分に気がつく晩であります。
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