初夢 妄想特急 その2

北海道で走らせる観光列車はどうあるべきか。

 

富裕層狙いの豪華クルーズトレインではなく、旅行会社が旅行商品として販売できるエンターテイメント性がある列車で、その列車に乗るためにわざわざ北海道までやって来たくなるような列車でありながら、みどりの窓口で指定券が買えるような、そういう時刻表に載っている車両も連結している列車であること。そして、北海道の地域性を考えて、都市間輸送など輸送需要にもしっかり対応することで、飽和状態の特急列車を補完できること。こういう使命を持たせるということが大前提の列車です。

 

では、北海道の中でどういう地域を結ぶ列車が必要かとなると、

札幌ー倶知安・函館

札幌ー帯広・釧路

札幌ー北見・網走

札幌―名寄・稚内

という区間になると思います。

乗車時間として、途中停車駅で少しゆっくり停車することを考えて、乗車時間として6~8時間でしょうか。

 

この他に短い区間として例えば釧網本線の網走-釧路間(約4時間)、根室本線・花咲線の釧路ー根室間(約3時間)など、現時点で北海道新幹線の恩恵をあまり受けていない道北、道東地域の観光列車が必要になりますが、今日の初夢妄想特急は都市間連絡で現在特急列車が走っているような、そんな列車を中心に考えてみることにしましょう。

 

さて、そんな観光列車ですが、かなりの長時間乗車になることから、大切なのは長く乗っていても飽きない列車ということになります。

鉄道の歴史はスピードアップの歴史です。

1872年(明治5年)に新橋ー横浜間に初めての鉄道が開業してから、どうしたら目的地に早く到達できるか、150年にわたり英知を結集し、技術開発してきました。その結果、日本には世界に誇る新幹線というシステムが出来上がり、今ではそれがリニアに変わろうとしています。

ただしこれは「文明」の話です。技術革新をして、昨日まで不可能だったことが今日は可能になるというのは、明らかに文明の話であり、その文明を突き詰めたところに新幹線やリニアがあるわけですが、スピードや快適性という話になると鉄道の持つ役割というのはかなり限定されていくことになります。それは、200㎞(在来線)から500㎞(新幹線)程度の距離で、ある程度需要が見込める都市間であること。それ以上長ければ飛行機になりますし、それ以上短ければバスやマイカーに取って代わられてしまいます。

鉄道を「文明の利器」として考えた場合、大都市間で需要が見込まれるところ以外では線路や設備を鉄道会社が維持管理することが採算上の大きな問題になります。

目的地へいかに快適に早く到着するかという交通機関としての用途では、鉄道は手段の一つになりますが、時間よりもお金だという人には値段が安いバスに軍配が上がるでしょうし、時間を気にせず自宅から直行したい人にしてみればマイカーが便利です。あるいはお金よりも時間だという人は当然飛行機になるでしょう。別に「鉄道でなければならない。」という理由はないんですね。

 

ところが、そういう「目的地まで早く、快適に。」という交通機関が長年追求してきた「文明」に対して、「ゆっくり走ること」が求められる時代になってきました。いつもは一目散に目的地を目指す人たちが、時には「ゆっくりと汽車に乗ってみる」ことで非日常感を味わうことができる。観光列車の定義はこのように「乗ることそのものが目的」の列車ですから、お客様がその列車に求めるものは「スピード」ではなくて「体験」になります。そしてお客様が鉄道に「体験」を求めるようになると、これは鉄道が「文明」から「文化」になると私は考えています。

 

文明というものは誰にでもわかる尺度で判断できるものです。鉄道の歴史がスピードアップの歴史であるならば、戦前には9時間かかっていた東京ー大阪間が、昭和30年代前半には電化で6時間半になり、昭和39年の新幹線開業で4時間になり、新幹線の技術革新で現在は約2時間半になったということは、スピードと時間という誰にでもわかる「ものさし」で測ることができる文明です。

これに対して「文化」というものは、誰にでも同じ価値観で理解できるものではありません。

レオナルドダヴィンチの「モナリザ」やゴッホの「ひまわり」という世界的な名画も、全員がその価値を理解できるものではありませんし、日本の伝統芸能である能楽や歌舞伎も、興味のない人にしてみたら、その価値を理解できません。

このように、人によって価値観が違うもの、つまりその人が持つ価値を測る「ものさし」の違いによって、ある人にとっては「素晴らしい」と思うことでも、他の人にとっては「どこが良いのですか?」となるものが「文化」というものであります。

 

鉄道も、観光資源になると考えた場合に、その価値を理解できる人たちからしてみたら、「わざわざ乗りに行ってみたい」。あるいは「わざわざ写真を撮りに行ってみたい」という対象になります。そういう「体験」することが目的の乗り物になりますが、その価値を理解できない人にとって見たら、「こんなものは要らない」ということになる。つまり、これが文化であり、心の価値なんですね。

そして、ありがたいことに、最近ではそういう心の価値を理解できる人たちが、日本人の間でも増えてきているということを感じるようになりました。

 

文明という誰にでもわかる技術革新の世界から、文化という心の価値に日本人そのものが変化してきている時代に、地方がどうやって都会からのお客様にいらしていただくことでその地域の経済を活性化していくことが求められる地方創世の時代になったのですから、私は鉄道、それもその地域ごとの特別な体験ができる田舎の鉄道は「資源になる」と考えて、いすみ鉄道でその体験していただくという社会実験をしてみたということなのです。

 

「なにもない」というキャッチコピーで、わざわざ「古い車両」に乗りに来るために、あれだけたくさんのお客様がいらしていただくことが、今の日本の現実なのでありますが、その目の前で起きていることを理解できない、あるいは理解しようとしない人たちが存在するということも事実であるというのが、文明ではなくて文化だというゆえんであり、なぜなら文化というものは万人が共通に理解できるものではなく、理解できる人と理解できない人が存在するものであって、さらに、田舎というところは、そういう自分たちに理解できないことを否定しようとすることも「文化」であるからなのです。

 

さてさて、話を北海道の観光列車に戻しましょう。

多少時間がかかっても「わざわざ乗りに来る体験をしていただく列車」というのはどういう列車かというと、一言で簡単に申し上げるとすれば、列車が終点に到着したときにお客様が「もう着いちゃったの?」と思えるような列車です。

人間は退屈な時間は長く感じますし、楽しい時間はあっという間に過ぎるものです。

だから、終点に到着したときに、「もう着いちゃったの?」「ああ、楽しかった。」と思っていただけるような列車であれば、体験を買うという今の時代には、わざわざお金をかけて遠くからやってくる価値がある商品になるということです。

 

例えば、札幌ー釧路間を例にとって考えてみましょう。

距離にして約350㎞のこの区間を、今、「スーパーおおぞら」という特急列車で約4時間かかっています。

4時間列車に乗るということは、目的地までいかに早く到着するかという鉄道本来の目的で考えると、かなり長い乗車時間です。その証拠に、同じ区間を飛行機が飛んでいて所要時間50分で結んでいます。

ところがその飛行機に対抗するためには、鉄道は列車の速度を上げなければなりません。

速度を上げるためには線路を強化しなければなりませんし、車体の構造もそれにふさわしいものにしなければなりません。

そのために鉄道は線路に多額の投資を求められますし、スーパーおおぞらの車両は素晴らしい性能と、その性能を維持するための高度な技術によって支えられています。そして、それがJR北海道という会社の経営に大きな負担となってのしかかってきています。

さらに、高速で走行する列車は線路の砂利をその風圧で巻き上げるために、巻き上げられた砂利が車体に絡みつき、窓ガラスを割るという予期せぬ現象が発生しました。これを防ぐために、スーパーおおぞらなどの車両は窓ガラスの部分に外側からポリカーボネートの板を貼り付けていて、そのポリカーボネートの板が月日の経過で表面に傷がついたり、隙間に入り込んだ水分が結露したりして、せっかくの景色が楽しめない状態にあります。楽しい汽車旅の重要な要素であり、北海道の旅の大きな楽しみである車窓の景色が、速度と引き換えに犠牲になっているという大きな問題を、輸送事業者であるJR北海道は「仕方ないでしょう。安全には代えられませんから。」と言って顧客心理というものを全く理解していませんから、これでは利用者の支持を得ることができませんね。

で、結果として最優秀商品が顧客の購買意欲をそいでいるという現象が発生していて、会社や職員はそれに気づいていないわけです。

 

では、どうするか。

なにも札幌ー釧路間を4時間で走る必要はないじゃないですか。

というのが私の考えです。

もっとゆっくり時間をかけて、例えば札幌から釧路まで7~8時間かけて走るような列車を走らせるのです。

そして、目的地に到着したときにお客様が「もう着いちゃったんだ。」と思っていただける仕掛けを、その列車に設置すればよいのです。

 

具体的にどういう列車かというと、スーパーおおぞらと同程度の7両編成で考えるとして、

1号車:カラオケコンパートメント

2号車:カラオケコンパートメント

3号車:食堂車

4号車:食堂車・売店

5号車:特別グリーン車

6号車:普通車指定席

7号車:普通車指定席

という7両編成はいかがでしょうか。

 

カラオケコンパートメントというとちょっと意外に聞こえるかもしれませんが、外国人から見て最強の日本文化の一つがカラオケです。日本に来たらカラオケをやってみたいと考える外国人は多いです。そして、カラオケを歌っていればすぐに時間が経過するというのは誰もが経験していることでしょう。つまり多少時間がかかっても「もう着いちゃったの?」となる要素がカラオケであって、それをグループごとに楽しめるように4~6人程度のコンパートメントにして、そのコンパートメントが5~6室ある車両を2両連結するのが1~2号車です。

 

3~4号車はご存じ食堂車。

そのうち3号車は全体を食堂として50席程度のテーブルを設置して、4号車の方には20席程度のテーブル席と調理室、売店を設置します。合計で70席程度の大きな食堂車ですが、この3~4号車間の連結部分は一般的な貫通扉は設けず、イメージとしては昔の東京メトロの6000系のように行き来が容易にできる構造として食事の配膳などの利便性を高めます。

食堂車にこのぐらいの座席定員があれば1バス(40名定員)の団体旅行をとることが可能になり、貸切であればバス2台の予約も可能です。また、バス1台分を旅行会社に前もって座席を提供しても残りの座席を個人客に販売することも可能になりますから営業戦略が立てやすくなります。

1~2号車のカラオケコンパートメントはレストランの個室としてご利用いただくのも良いかもしれませんね。

 

5号車は特別グリーン車。

シートがフルフラットになるような国際線のビジネスクラス感覚の車両で、1両定員が20名程度でよいと思います。

 

そして、6~7号車は普通座席車。昔ながらの4人掛けボックスシートですが、長時間乗車に耐えられるようにシートピッチを広げた車両で、1両定員は昔の4人掛け普通客車が88人だったのに対し、この車両は60名程度のゆったりと旅ができる車両にしましょう。

 

こういう編成を作って札幌-釧路間に走らせてみるのはいかがでしょうか。

朝9時半に札幌を出て、夕方17時ごろに釧路に到着するぐらいの運転時分でのんびりと走る観光列車ですが、しっかりと都市間需要にもお応えできるように、外国人利用客が多い札幌ートマムまでは2時間程度の駅弁の旅。トマムを過ぎたあたりから帯広までの2時間半をおいしいものを召し上がる食堂車の営業をして、帯広から終点の釧路までは午後から夕方にかけてのパブタイムで気軽に利用できる食堂車。長時間乗車されるお客様は食事が終わったらカラオケ車両へ。あるいはカラオケ車両から食堂車へ。

食堂車ひとつとっても、このように回転を上げることで少しでも営業効率を上げる仕組みを作れば、お客様の目的に応じて利用できる移動を兼ねた観光列車になると思いますが、いかがでしょうか。

 

(初夢はまだまだ続きます。)

 

▲昭和50年代後半まで残っていた南海電鉄のキハ。

今どきこんな列車が走っていたら、さぞかし人気が出るだろうなあと思ってやってみたら・・・・

 

▼こんなに大人気になったというのがいすみ鉄道のキハです。

だったら、食堂車もカラオケ列車もやってみるべきだと思いませんか。

いすみ鉄道では難しくても、北海道ならできるでしょう。

 

 

つづく。