自己流ビジネス論のお話し

旧国鉄系の大手鉄道会社に勤める友人の話。

「うちの会社、若い女性のお客様が少ないんですよ。ビジネス需要が以前のように戻らない中で、若い女性にお客様になってもらわないといけないのに、その若い女性が少ないのだから心配なんです。」

確かにそうですね。

その友人との間には共通の友人がいて、その人から聞いた話ですが。

あいつね、中学生の頃、うちに遊びに来て、忘れ物をしたんですよ。自転車で帰ったんで、まだ間に合うかなと思って自転車で追いかけたら、畑の中の分かれ道のところで自転車を止めてじっとしている。追いついてよかったと思って、忘れ物を渡して、「ところでここで何してたの?」って聞いたら、「時間調整だ。」って言ったんです。
なんでも、俺の家から自分の家まで、自転車での運転時分が決まっていて、少し早く来過ぎたのでここで運転停車して時間調整してるって言ってね。
あの時の光景ははっきり覚えてるよ。

その話を聞いた時、もう、大爆笑もんでした。
子供のころから好きだったんだねえ。電車が。

そういう人が、旧国鉄系に入って運転士になって、勤め上げる直前の今、「若い女性にお客様になってもらうにはどうしたらよいか。」と真剣に会社の将来を心配してるんです。

なんだか、辛いことがいっぱいあったんだろうなと思います。

鉄道に対する愛情があって、勤め上げる年齢になって、会社がガタガタになってしまった。

う~ん、気持ちはわかります。

でも、申し訳ないけど無理だと思いますよ。
あなたの会社に若い女性がこぞって乗るようになることは、そう簡単なことではないのです。

なぜなら、会社というのは創業理念とか企業理念というものがあって、古くは松下幸之助さんとか、小林一三さんとか、中内功さんとか、自分は何のために会社を興すのか。会社とはどうあるべきかという信念をもって働いてきた経営者がいらっしゃって、そういう理念があるのが民間会社というのはふつうなんです。

でも、旧国鉄系の大手鉄道会社は、図体ばかり大きくなって、基本理念ができていない。いや、作ってこなかった。あるいは、そういう創業者に恵まれなかった。
だから、儲かることばかり追求して、儲からないと判断したらすぐにやめることの繰り返し。

良い例が新幹線は儲かるけど、田舎の電車は儲からないからやめましょうと平気で言う。

きちんとした企業理念がある経営者であれば、大河の一滴と言って、どんなに大きな川であっても、小さな支流が流れ込んで来て大きくなるのですから、その支流の水源を大事にするものです。つまり、新幹線に接続するローカル鉄道を大事にして育てていくようなことをしなければ、新幹線だって枯れてしまうのですが、そんな当たり前のことが図体ばかり大きくなってもきちんとした企業理念がない会社ではわからないのです。
中には気が付いた人が何人かいると思いますが、とてもじゃないけどそういうことを口に出して言えない。中国共産党のような組織になっちゃったんですよ。

それで、30数年が経過した。

ということはおぎゃーと生まれた赤ん坊が30過ぎになるのですから、その赤ん坊にとっては生まれてこの方、鉄道会社というものはそういうものだと思ってる。

つまり、旧国鉄系の鉄道会社は地域輸送よりも儲かる新幹線が中心だし、お客様は会社の出張者経費で乗るのだから安い切符はない。同じ区間を走る高速バスよりはるかに高い値段を取るのに、高速バスよりはるかにサービスが悪い。
今どきの高速バスはホットコーヒーのサービスはあるし、サービスエリアで停まってお買い物もできる。
でも、特急列車は車内販売もやめてしまうし、駅構内で買うものはなんでも高い。
若いお客様はそんなことはわかっているから改札口に入る前にコンビニで買って、駅弁屋に立ち寄るのは高齢者ばかり。

俺は鉄道で旅行したいという奇特な人間もいるにはいるけど、そういう人は濃かれ薄かれマニアの血が流れている。じゃなければふつうの人は東京から函館へ行くのに新幹線という選択肢はないし、博多へ行くにも新幹線というのはない。
でも、そのマニアの血が流れている貴重なお客様を「撮り鉄は迷惑だ。」「ホームでの写真撮影禁止」「勝手に撮ってネットにアップするな。」と会社ぐるみで排除しようとしているのですから、つまりは企業理念などない。
自分たちの会社が何のために存在しているのかという基本的なところができていないのです。

そりゃ、夜行列車なんてやりたくないですよね。
上野から青森まで9時間。
運転士は5人は必要でしょう。
車掌は2人。
10両編成だとして運べる乗客はせいぜい600人。

それに対して新幹線なら4時間で運転士は2人。
800人運べるんですから。
夜行列車が片道走る間に往復できるから1600人運べる。
まして特別料金を取れる。

どっちがが儲かるかは小学生だってわかります。

でも、小学生ではわからないことがあるんです。
それは、将来のお客様を育てなければならないということ。

例えばマクドナルド。
日本に上陸した当初から子供相手におもちゃを配ったり、子供が喜ぶことをしている。
子供はお金持ってないんですよ。
お母さんが子供連れて来たって客単価は低い。
大人相手にした方が客単価は上がるし売り上げも伸びる。
でもポテト100円で売って、小さな子供を呼び込んでいる。

私は昭和40年代からそういうマクドナルドの商売を見てきましたけど、当時はみんな不思議がってましたよ。
小さな子供相手で会社が成り立つのかって。

当時の商売人はみんなガツガツしていて、目先の利益を追求するのが当たり前だった時代に、客単価が低い子供相手に商売をしているのが誰が見ても不思議に見えました。

でも、ずっと後になってわかったのが、子供は大人になるということ。
30年経てば子供は親になるのです。
そうしたら自分が子供の頃から慣れ親しんだお店に、今度は自分の子供を連れて行く。
そうすることでビジネスが成り立って継続していくのです。

そして今、マクドナルド日本上陸50年を迎え、当時子供だった皆さんがおじいちゃんおばあちゃんになって、今度は孫を連れて行くようになりました。

これが商売なんです。

トキめき鉄道で私がやっていることも全く同じで、若いときに夜行列車を経験してもらうことや、親子でD51を見に来てもらうことも、マクドナルドが50年前からやっていることと同じなんです。

ところが、小学生が理解できるレベルで立ち止まってしまっている会社はそういうことがわからない。
子供のころから電車を利用しない人は、大人になって電車には乗らないのです。
でも、その子供というのは、いきなり高額な新幹線には乗らなくて、まずは身近なところでお安い長距離列車を探して旅をする。でも、そのお安い長距離列車を「こんな儲からないものはやめましょう。」と、皆やめてしまったから、少年少女たちは高速バスに乗り、LCCの飛行機に乗るのです。

こういうことを30年間やって来て、今、新幹線に若い女性が乗らないと嘆いている。

そんなこと、当然でしょう。

と、私は思いますが、旧国鉄系の幹部の人たちは思わない。
多分、恐らく、そんなことを考えているようじゃ、幹部にはなれなかった組織でしょうから、幹部になった人たちはそういう考えを持っていない。

ところが世の中こんなになっちまって、「では、どうしましょうか?」と、その幹部たちが雁首突き合わせて、「何か新規事業はないでしょうか?」と言っているのですから、つまり将来はお寒いのであります。

なぜなら、きちんとした創業理念のない、図体ばかり大きくなってしまった会社の幹部たちが考えることは、やはりきちんとした理念に基づいているはずがないからで、だとしたら、お客様を育てるなんてことは、絶対にできないからです。

ということで私の友人は本当に鉄道が好きで、鉄道に務めて、鉄道人生を全うできる幸運な人ではありますが、まともな人間であればあるほど、お悩みも多いのだろうなあと思うのであります。

とまあ、こんなことは明日以降は有料の「オンラインサロン」でぶちまけることになると思います。

ブログの方は徐々にソフトになっていくと思われますので、スカッとしたい方は、「鳥塚亮のローカル鉄道オンラインサロン」にてお待ちいたしております。

皆様どうぞよろしくお願いいたします。

鳥塚亮のローカル鉄道オンラインサロン
▲明日17日18時オープンです。
それまでは404・指定されたページが見つかりませんと表示されます。

そうそう、大手鉄道会社の幹部の方で小学校を卒業して中学校レベルぐらいモノを考える力がある方がいらっしゃいましたら、私を顧問にいかがでしょうか。
高校生ぐらいにはレベルを引き上げることはできると思いますよ。

何なりとご相談くださいませ。(爆)