JR北海道の不思議 2

先週北海道乗り鉄の旅をしてきました。

 

車内販売のない特急列車に何時間も乗ったり、次の列車まで5時間間が空いてしまう駅に途中下車してみたり、原野の中をひた走る各駅停車に数時間乗ってみたり、やっぱり自分でやってみると、理屈抜きでいろいろ感じますね。

その結果として、私は「やっぱり、北海道って良いなあ。」と思います。

その北海道の良さを引き立てるのは、汽車旅だと確信しています。

地域輸送と都市間輸送、住民利用とビジター利用、商用利用と観光利用。

鉄道には様々な側面があるのですが、そういうことは全く考慮されてなくて、ただ一元的に「経営改革」をやっているとすれば、どんどん利用者から離れていくだけなのですが、そういうことをJR北海道の経営陣は本当に分かっているのだろうか。

 

そんなことを感じましたので、7月30日に書いた「JR北海道の不思議」の続編を書いてみようと思います。

 

私から見たら、どう考えてもやっぱり不思議な会社だからです。

 

 

10日ほど前の北海道新聞のJRに関する記事。

その内容は、「国からの支援の金額がJRの想定していた金額を下回るため、予定していた一般型車両(特急列車用ではなく、地域輸送用の普通列車に使う車両)の置き換えができなくなってしまった。」という内容です。

 

新聞というのは必ずしも百パーセント信用できるものではありません。

書いてあることは嘘ではないにしても、物事には色々な見方があるわけで、例えばお茶筒だって上から見れば丸だけど横から見れば四角だし、斜めから見れば円筒形というように、1つの事象であっても見る角度を変えればいろいろに見えるのですが、新聞に書かれていることはそのうちの一方向からの見方に過ぎないわけです。というのも、読者でいるうちにはわからないことでも、書かれる側になるとそういうことがわかるわけで、私などはさんざん書かれる側になりましたからわかるのでありますが、だから、書かれた側であるJR関係者からすると、「こんな書き方しやがって。」と思われる方も多いと思います。

 

でも、書かれていることは間違っていないわけで、では、それはどこの部分かというと、「国鉄時代につくられて30年以上が経過して老朽化が激しい旧型車両を、JRが開発中の新型の電気式気動車H-100に置き換える準備を進めていて、数年かけて70両を順次置き換える計画でいた。」というところ。

そして、その新型の電気式気動車というのは1両2億数千万円から3億円するということで、そういう車両に置き換えようと考えていたが、国からの補助金が思ったほど出なかったので、置き換え計画がとん挫してしまう可能性があるということ。

これはおそらく間違いではなさそうだ。

 

JR北海道のホームページを開くとPDFで出てくるぐらいだから。

 

新型の電気式気動車。

ふつうの気動車(ディーゼルカー)がエンジンの回転を変速機を通じて車輪に伝える駆動方式(つまり自動車と同じ)であるのに対して、電気式気動車というのはエンジンの回転で発電をして、その電力でモーターを回して走るスタイル。簡単に言えば電車であります。ふつうの電車が頭上の架線から電気を取って、それをモーターに伝えて車輪を回転させるのに対して、その電気を自分で発電するのが電気式気動車。車で言うところの電気自動車というわけです。

世の中の流れを見ると、自動車だってガソリンエンジンからハイブリッドになって、今や電気自動車の時代ですから、鉄道車両がそうなっていく流れにあるのはわかります。JR各社も今後、ディーゼルカーをやめていく方向にあって、九州でも四国でも皆さんそういう計画があります。実際に烏山線では非電化区間でありながら全く新しいタイプのバッテリー電車がすでに走っていますから、鉄道車両だって当然そうなるでしょう。

これは時代の流れであります。

でも、現時点ではまだまだ開発途中でもあり、量産体制に入っていない。つまり、1両の値段が高いんです。

それは1両約3億円ということらしい。鉄道車両というのは、運転席が片方、両方、またはトイレが付いているかいないか、などといったところで大きく値段が変わるし、発注両数によっても変わるから、それが1両あたり2~3億円という非常にアバウトな数字になっていると思われるのですが、まあ、とにかく高いのです。

 

そして、その車両を導入すれば、運行費用も整備費用も修繕費用も少なくなるから、経営改善につながるということなのでしょう。

 

 

でも、私はとても不思議なんです。

 

それは、何も会社が倒産しそうなときに、そんな高価な新型車両を導入する必要があるのでしょうか?

 

と思うからです。

 

例えば運送会社。

会社がつぶれそうなほど業績が悪いという時に、新型のハイブリッドトラックや電気自動車を高いお金をかけて入れる必要があるとは思えませんよね。入れたところで、運ぶ荷物が大量に増えるというわけでもありませんから。

それなのに、どうしてJR北海道は、誰も乗らないローカル線に燃費が良い車両を1両あたり3億円かけて入れなければならないのでしょうか。

なんだか、「まず新型車両ありき」ですべての基準をそこに合わせているような気がします。

もうその車両を作ることがお約束として取り決められているような感じです。

 

もちろん、自己資金で買うなら何を買っても構いませんよ。でも、国からの補助金という国民の税金で買うのですから、いくら長期計画でそうなっていたとしても、自分たちの好きなものを買ってよいというのもではありません。

 

べつに、高いお金をかけて、技術的に未知の部分が多い新型車両を導入しなくても、今あるキハ40を、あるいはキハ150と同じようなディーゼルカーを現代の技術で同じように作り直せば、新車でも1億5千万でできるはずですから、それでよろしいのではないでしょうか。何しろ新型車両の半額でできるのですから。

 

新型の電気式にすれば、燃費が向上して修繕費も削減されると言われているようですが、1億5千万でできるのに、わざわざ3億円の車両を入れて、差額の1億5千万円分の経費が削減されるのに、どれだけの歳月がかかるのでしょうか。

 

例えば、自動車で考えてみましょう。

100万円の自動車と200万円の自動車があります。

100万円の自動車の燃費は1リッターあたり10㎞。200万円の自動車の燃費は1リッターあたり12㎞。

ガソリンの値段が1リットル150円としましょう。

1日100㎞走行するとして、100万円の自動車の燃料代が1日1500円。200万円の自動車の燃費が1日1250円。

1日250円の差が出ます。

250×365で1年間に91250円の燃費の差が出ます。

車体価格の100万円の差、つまり初期投資に高い値段を出して、燃費の良い自動車を買ったとしても、差額の元を取るまでに12年かかる計算です。

この会社は、倒産の危機に瀕しているのですから、12年先にペイするであろう利益のために、今、わざわざ高い車両を導入する必要はないというのが、ごく普通の考え方のはずです。

 

でも、JR北海道は1両3億円の新型の電気式気動車の導入をしようと考えている。

だから、私は不思議なのです。

何を考えているのでしょうか? ってね。

 

では、通常、鉄道会社が車両を購入するときはどうするのか、というお話をします。

 

皆さんも一緒に考えてみてください。

 

自家用車を新車で買うのと同じようなものです。

 

1:自己資金で買う。

自分の持っているお金で買うというのが一番簡単ですね。

でも、これだと、現金がなくなってしまいますから、キャッシュフロー上の問題が起きる可能性があります。

 

2:お金を借りて買う。

自動車なら自動車ローンですね。毎月いくらの何年払いってやつです。

でも、これだと借りたお金の元本を返すのと同時に、利子の支払いもしなければなりません。

会社だと、会計処理の過程で元本の返済と金利分の返済を分けて考えなければなりませんから、あまり会社はローンというのは使いません。

ではどうするかというと、

 

3:リース契約をする。

金融機関系列などの会社にあいだに入ってもらって、リース契約で車両を導入します。

リースというのは、いわゆる所有者と使用者が違う契約で、所有者は金融機関や信販会社になって、使用者が個人であったり会社であったりします。このリースの利点は、会計処理上で全額を経費算入することができるという点にありますから、会社であればこのリースというのはありがたい制度でありまして、大手航空会社のジェット旅客機の多くはリースだし、身近なところでは京成のスカイライナーや阪急電車などもリースで導入されています。

 

さて、1の自己資金、2の借入金で車両を導入した場合、会社のバランスシート上ではお金が借方から貸方に移動して、形を変えて車両という品物になっただけですから、そこから法定減価償却というのが始まります。つまり、決められた年数、定額法や定率法という決められた方式で、買ったその車両の帳簿上の価格を徐々に消していくわけです。定額法で考えると、1億円の車両を20年で減価償却するということは、毎年500万円ずつ価値を減らしていって、20年後に価値がゼロになる。つまり減価償却が終わるのですが、このように毎年一定の金額を減価償却するということは利益から差し引くことができるということですから、例えば1千万円利益が出るところが、500万の減価償却があると純利益が500万になるのです。

こういう会計の仕組みがあるのですが、一般の会社というものは、できるだけ見かけ上の利益を減らしたい、つまり法人税の支払いをできるだけ抑えたいと考えるのが人情ですから、今後、売り上げの増加が見込めるような状態の時には、思い切って設備投資をして、減価償却をしたいという考えになります。よく、テレビのニュースで、「日銀の短観によれば、企業の設備投資が・・・」などと言っているのはこのことで、つまり、設備投資をして減価償却が始まると、利益からその分が差っ引かれますから、利益が出にくい仕組みになる。これから売り上げが見込まれる、イコール、景気が上向きの時というのは、企業は好んで設備投資を行なうということなのです。

 

また、3のリースに関して言えば、リース代金は全額経費算入できますから、つまり費用で落とすことができるということで、これまた利益から差っ引くことができる。企業というものは、できるだけ法人税を払う金額を減らしたいと考えていますから、減価償却も経費算入も経営の一つの方法として、経営者というものは常に考えているのです。

 

(すみません。普通のサラリーマンの方には何の話か分からないと思いますが、ご了承ください。)

 

さて、つづけます。

鉄道会社が車両を購入する方法として、もう1つの方法があります。

 

4:補助金で購入する。

いすみ鉄道もそうですが、鉄道会社で車両を購入する場合、この「補助金」というのを使うことができる場合があります。

そして、厄介なのがこの補助金で購入した場合の車両の会計上の処理なんです。

 

補助金で車両を購入した場合、車両価格を当該年度で一括償却することができるというのが会計処理の一つの方法です。

だから、この方法で会計処理をすると、翌年度以降、帳簿価格が無くなりますから減価償却が発生しないのです。

つまり、本来であれば利益から差っ引くことができる減価償却が発生しませんから、会計上、あくまでも会計上ですが、利益が出やすくなるんです。

これが、補助金で鉄道車両を購入する鉄道会社の独特な会計処理方法であって、ふつうの会社の常識とは異なる点であります。

行政関係でもこういう会計処理ができることが多くありますから、いわゆる複式簿記の減価償却という発想がないところが多いのですが、鉄道会社もこういう処理をするのです。だから、自己資金や借入金、あるいは将来分割支払いが発生するような買い方をするときには当然考えるようなことでも、補助金で買うとなれば、その購入する車両が2億円だろうが3億円だろうが、長期的に減価償却に響きませんから痛くもかゆくもない。まして自己資金ではなくて国の補助金ですからなおさらです。

 

もしかしたら、こういう考え方があるのではないでしょうか。

だから、新型車両は経営改善に役立つとしているのではないでしょうか。

 

これに対して、いすみ鉄道のキハように中古のディーゼルカーを導入するとします。

中古の車両には適用できる補助金がないということになれば、自己資金で導入したうえ、毎年毎年の減価償却を行わなければなりませんから、利益が出にくい構造になるのです。だから、いすみ鉄道は会計処理上は赤字の傾向になってきたわけで、補助金で新型車両を導入するのであれば黒字になったものを、わざと金額を節約して安い車両を導入したがために黒字になりにくくなってしまった。

こういうことが、あくまでも会計上の話ですが発生するのです。

 

ということは、補助金で車両を購入すれば、当然新車ですから修繕費用はほとんどかかりませんし、かかったとしてもメーカー保証で対応できますし、減価償却もありませんから当然利益が出やすい構造になるし、つまりは経営改善に役立つ。

こういう、ある意味でトリックがあるわけで、だったら自分たちが長年計画してきた新型の電気式気動車を1両3億円で70両置き換えてしまいましょうという発想になるのかもしれないと、私は考えます。

 

そして、「その分の補助金は出しませんよ。」と国が言ってるのであれば、つまりはどういうことかというと、「そんな車両を導入する必要はありません。」ということなのではないかと私は感じているのですが、どうやらJR北海道の皆さんにとってみたら、「経営改善の道が閉ざされてしまった。」ということになっているようですから、私から見たら不思議でしょうがないのです。

 

私は、国から補助金を投入するということは、国民の税金を入れるわけですから、できるだけ少ない金額であることに越したことはないと思います。そして、大きな金額を入れるのであれば、できるだけ有効に、それも、誰の目にもはっきりとわかる状態で形に表さなければならないと考えます。見せ掛けだけの数字上の経営改革を行って、座席数の少ない列車を走らせて、座れる人が少なくなるということは、将来の利用客の増加を見込んでいないということですよね。つまり今をしのぐだけで、将来はしりすぼみということです。

もし、本気で経営改革を考えるのであれば、今、少し足踏みしたとしても、将来を見据えて、どうしたら一人でも多くのお客様に利用していただけるか。そこを中心に考えるのが当たり前だと思うのですが、そうじゃないところが実に不思議な会社だなあと思うのであります。

 

あくまでも、私の勝手な推測ですから、関係者の皆様方はそうムキにならずに、お手柔らかにお願いいたします。

でも、国から補助金を出さないと言われたことは事実ですから、考え方は変える必要があると思いますよ。

 

宗谷本線の各駅停車。車両はキハ40。

この手の車両で十分ですよ。

そりゃああった方が良いけれど、気候を考えれば冷房装置だって不要です。お金がないのですから国鉄時代のお得意の「冷房準備車」でも良いではないですか。

あとでお金ができたらその時に冷房装置を入れられるように。

それよりも、安い車両ならもう1両作れるから、1両じゃなくて2両編成にしてグリーン車の座席を取り付けて、お客さんにとって乗りたくなるような列車にすることが大切だと思います。キロの廃車発生品を使えばできるでしょう。お金を掛けずにね。

 

(つづく)