需要を開拓するということ その3

ローカル線とは全く無関係の一般の人、それも都会にいる一般の人の中に潜んでいる需要を、「車で来ても良いですよ。」 「乗らなくても良いですよ。」 「だからいっぺん来てみてください。」と言うことで、ハードルをうんと低くして、皆様方にいらしていただくのが需要を開拓することだと申し上げました。
それはムーミン列車を運転することで顕在化したお客様ですが、私が並行して開拓していった需要は、鉄道ファンの人たちです。
鉄道ファンという人たちが何を好んで、何を求めているかということは、たぶん有能な経営コンサルタントでもわからないと思います。
経営コンサルタントは過去の状況を分析して、パターン化し、その延長線上で将来を予測するのがお得意の分野ですから、今までに例がないことをゼロからやることはできませんし、そこに需要があることはうすうす気が付いていても、どうしてよいのかはわかりません。(それができたらコンサルタントなどやらずに経営者になった方が早いのですから。)
ところが、私は自分が好きな世界で、かれこれ半世紀も鉄道ファンをやってきていますから、何をどうすればお客様が喜ぶかということは、誰に相談しなくてもできるのです。
だから、2010年の時点で手に入る唯一の車両、キハ52を手に入れていすみ鉄道で走らせれば、東京からの距離を考えれば絶対にヒットすると確信していましたし、そこに需要があるということがわかっていました。
そして、私としては当然のことではありましたが、このキハ52の導入で、マーケットの中に鉄道ファン需要というのが存在するということが誰の目にも明らかな状態になったのです。
私は商売の鉄則として考えていることの1つは、「自分のお店のファンになっていただきたい。」ということ。
自分がやる商売のファンになっていただくことで、売る方も買う方も幸せになれると思うのですが、世の中を見渡した場合、鉄道ファンマーケットはどうもこの原則になっていないのです。
JRなどの大手鉄道会社のほとんどは、鉄道ファンを嫌っています。
「あいつらがいると危険でしょうがない」とか、「また列車を止めた」とか、そういう面だけをクローズアップして、「邪魔だからどけ」というわけです。
最近ではホームで写真を撮っていると駅員があからさまに嫌な顔をする。
立ち入るなよ。
早く消えろよ。
こんな感じで、お客様商売をする民間会社の現場従業員の態度とは思えないような態度でお客に接するわけです。
まあ、彼らとしてみれば、その会社の生え抜き社員がほとんどで、他の会社を知らないわけですから、それがふつうの民間会社だと思っているのでしょうが、だいたい民間会社の職員は自分の会社のことを「我々は民間会社です。」などと言わない、ということすらわかっていない人たちなのですから、こちらとしては、そこをチャンスととらえて、彼らにできないようなすきまを狙って商売をさせていただくわけです。
では、大手の鉄道会社にできないようなすきま商売とは何かというと、鉄道ファンの需要にこたえるということ。
JRでも四国や九州など規模が小さくて経営基盤が弱いところはこういう取り組みを始めていますが、ファン心理のかゆいところまで手が届くところまでは至っていません。
鉄道ファンというのは、本来、自分の会社、自分の職業に興味を持ってくれて、好いてくれているその会社のファンなのですから、大事にすべきなのは当たり前です。
だから、私はマスコミなどでさんざんな扱いを受けている鉄道ファンの市民権を向上させるべく努力をしていますし、本来、そういう努力は鉄道会社が行うべき仕事だと考えているのです。
その結果として、いすみ鉄道にはたくさんの鉄道ファンが集まってきてくれるようになりましたし、鉄道雑誌も各誌で取り上げてくれる。
鉄道雑誌がいすみ鉄道を取り上げることなど数年前にはなかったことですから、ありがたいことなのです。
ファンを増やすビジネスですから、別に一般受けするような間口を広くしたビジネスをするつもりはありません。
何度も申し上げているように、首都圏の人口の0.5~1.0%の人がいすみ鉄道のターゲットですから、良さがわかる人にだけ来ていただければよいわけです。
ハードルは低くはするけど、間口は広くしない。
これがいすみ鉄道のファンビジネスです。
そして、そういう深い深い考察ができる人たちにファンになっていただくことで、過疎化していく地域の足を守ることができるのです。
いすみ鉄道はこれからも鉄道ファンの需要を開拓していきますので、ファンの皆様、どうぞご期待ください。
ただし、写真を撮るだけで乗らない人たちや、いつか来ようと思っていても未だに来ない人たちの夢をかなえることは、お金がかかるわけです。
これを鉄道会社としての収入に換えることがファンビジネスでありますから、皆様方、協力金のご準備をお忘れなく。
(つづく)

2011年1月の塗装変更お披露目会。次回の催しは今年の10月14日です。