日本という国は面白いところで、子供のころ学業成績が優秀な人間は皆さん「会社員」を目指します。
一生懸命勉強をすれば良い学校に行かれる。
良い学校に行くことができれば良い会社に入れる。
これが親も子供も目指す一般的なコースです。
でも、私はとても不思議なんです。
それは、「良い会社へ入って、何をするんですか?」というところが目標から抜けているからです。
A物産に入るとか、B製作所に入るとか、あるいは公務員になってC県庁に入るとか、金融目指してD銀行に入るとか、皆さんそれを目標に勉強しています。
だいたい優秀な人間が県職員を目指すなんてところは田舎の証拠なんですが、本人たちはそれが自分が進む道だと信じて疑わないのがこの国の興味深いところなわけです。
だから希望する会社に入ったら、そこがゴールなんです。
私が不思議なのは、希望に満ちた新入社員は、これからバリバリ仕事をしていこうと考えるのが普通だと思うのですが、そういう人たちにはバリバリと仕事をして、充実した人生を過ごしていこうというところがまったくないからです。
本当は会社って入ったところがゴールではなくて、入ったところがスタートのはずなんですが、優秀な人ほどゴールになっちゃってるんですから、私には不思議なのです。
そうじゃないよという方に逆にお聞きしたいのですが、
ではA物産に入るのは何が目的ですか?
B製作所に入るのは何が目的ですか?
「世界を股にかけた仕事をしたいから。」
「最新技術を駆使した工作機械を開発したいから。」
本当ですか?
だって、会社に入るということは人事に従わなければならないわけで、大きな会社になればなるほど希望した部署に配属されるなんてことはまずありえません。
世界を股にかけた仕事をしたいのに、経理になったとか、研究開発したいのに総務になったとか、自分が希望していない部署に配属されて、それまで興味がなかった仕事をやらなければならないなんて当たり前ですから、会社に入るイコール好きな仕事をしたい、ということはその会社を目指す理由にはならないんです。
だから、そういう皆さんが目指しているのは、有名な会社の社員になることであって、そうすれば給料などの勤務条件や福利厚生もよいし、世間的な信用も得られるし、自分自身にも箔がついて自信が持てるし、親だったら隣近所、親せきに自慢できるし、といったせいぜいその程度の理由なんです。
そして、そういう理由で、小学校のお受験から始まって、日本の若者たちは22~3歳までの貴重な時間の大半を費やして、わずかな可能性に賭けるのであって、その賭けに運よく勝ったとしても、与えられた仕事をこなしていくだけの人生がさらにそこから始まるのです。
まあ、そういう賭けに勝つような人は優秀な人が多いですから、入った会社で、好むと好まざるとにかかわらず与えられた仕事をきちんとこなしながら、その中で活躍の場所を見つけて努力していくことぐらいは簡単にできるのでしょうけど、世の中は器用な人ばかりではありませんから、不器用な人たちは悩んだり苦しんだりして、せっかく入った会社を辞めてしまう人もいるわけで、そういう人たちはドロップアウトと取り扱われてしまうのが今の世の中なんです。
これに対して、お医者さんになりたいとか、弁護士さんになりたい、お巡りさんになりたいなど、職業そのものを目的にする人たちがいます。私もどちらかというとそちらの方で、子供のころから電車や飛行機の運転士になりたいと思って現在に至っているわけでありますが、そういう皆さんは、つまり、職業を通じて自己実現をすることを目的としています。
だから、お医者さんになりたいという人が、開業医になるか、勤務医になるか、それとも研究医になるかは進んでいく過程で分かれ道があるでしょうけど、医学を通じて社会に貢献したいという「医者として自己実現をする」という目的は達成できるはずですし、お巡りさんになった人たちは、日々、自分の人生の大部分の時間を社会のために奉仕していくことに苦痛も疑問も感じないでしょうから、きっと充実した人生を送ることができるのではないかと思います。
ということで、私は、「自分はこれだ!」と思うことを仕事にすることが、いちばん尊いと昔から考えてきていましたので、いすみ鉄道で、 「700万円の自社養成訓練生」という制度を考えて、「子供のころからの夢をあきらめきれないおじさんたち」をいすみ鉄道に呼んで、ここで夢をかなえてもらったわけですが、そういう皆さんは、念願がかなったわけですから、今日も毎日、一生懸命仕事に打ち込んでくれているというのが、いすみ鉄道なのです。
そういういすみ鉄道の自社養成乗務員の一人、渡辺直哉運転士さんが、先日新聞取材を受けまして、記事になりました。
朝日小学生新聞、中高生新聞です。
実は渡辺運転士は前職は小学校の先生。
担任として受け持っていた子供たちに、「先生は一生懸命努力して、自分の夢をかなえるから見ていてほしい。」
そう言って子供たちとお別れをしていすみ鉄道にやってきました。
だから、この新聞に取材していただいたことは、彼にとっては大きな勲章なんです。
子供たちに、自分自身の行動を通じて、夢をかなえることの大切さを教えることができたのですからね。
その辺りの気持ちを渡辺運転士は「いすみ鉄道社員ブログ」に書いてくれています。
素晴らしい文章ですので、皆さんぜひご一読ください。
2018年6月30日 いすみ鉄道社員ブログ 「感謝の気持ちを忘れずに」
渡辺さんだけじゃなくて、いすみ鉄道にはこういう素晴らしい運転士さんたちがたくさん働いてくれています。
これが私の誇りなんです。
私は職業に優劣なんてないと考えています。
大きい会社が良くて、小さい会社がダメだなんてことはありません。
どんな仕事でも、一生懸命に打ち込んで、夢中になって働ける仕事であれば、そういう人は輝いているし、立派だと思います。
若者の皆さんも、ぜひ、職業を通じて自己実現してくださいね。
そうすれば日本という国は素晴らしい国になっていくのですから。
世界を股に賭ける大きな航空会社と、吹けば飛ぶような弱小鉄道会社で永年働いてきた私が言うのですから間違いないのです。
最近のコメント