私は就任以来、「撮り鉄」の皆様に、「写真を撮りに来るだけでも良いからいらしてみてください。」と申し上げております。
その理由は、地域に人が来てくれることは、たとえ鉄道運賃収入に結びつかなくても、地域にとっては必ずプラスになるはずで、いすみ鉄道のような第3セクター鉄道は、長年地域の支援で成り立っているのだから、その鉄道が地域に利益をもたらす存在になれば、長年支援していただいている地域に対して、「役に立つ鉄道」として恩返しできるようになります。そうなれば地域にとって「必要な存在」になれると考えているからです。
7年前にキハ52の運行を開始したときに、「写真だけ撮りに来る人が増えるけど、そういう人たちからお金取れないか。」とか、「会員制度にして、写真を撮っている人にその会員証を見せてもらいましょう。」など、いろいろな意見が出ました。
確かに大きなお金をかけて観光用の列車を走らせて、マニアが写真だけ撮りに来て、乗らずに帰ってしまうのであれば、いすみ鉄道にとってみたら売り上げになりませんから、やる意味はない。こう考えるのはもっともなことです。
だけど、私は、「まあ、いいじゃないですか。いすみ鉄道を皆さんに知ってもらって、いらしていただければ、必ずプラスになりますから。」と言って、撮り鉄さんたちから直接お金を徴収するようなことはしてきていません。
鉄道を趣味とする人たちというのは、私の経験からですが、なかなか文化的で、頭の中身が優れている人たちが多いと思います。そういう人は、いちいち細かなことを言わなくても、皆さんきちんとしています。だから、そういう人たちの自主性に任せるべきなんです。
学校の校則や先生の指導もそうなんですが、馬鹿な学校ほど校則が厳しくて、優秀な学校ほど校則で細かいことも指示しませんし、先生方の指導もいちいちうるさく言いません。つまり、鉄道ファンというグループの人たちも、いちいち細かなことを言わなくても、皆さんきちんとしていますし、まあ、そりゃあ数が多くなれば分母が大きくなりますから、中には変な奴も出てきますけど、そういう人たちのわがままな行動が許されないような自然治癒的な「優秀さ」が鉄道趣味人の世界にはありますから、まあ、そう目くじらを立てることでもないと考えています。
なぜキハが走っているのか。
写真だけ撮りに来る連中のために走らせているわけはない。
自分たちも何らかの形で地域に貢献しなければならないだろう。
こんなことは、撮り鉄さんの皆様の頭脳であれば、いちいち言わなくたって理解できるというものです。
従来の鉄道会社の考えでは、「撮り鉄」の人たちは写真を撮るだけで乗ってくれませんから鉄道運賃収入には結びつきません。だから、「彼らはお客ではない。」というところなのでしょうけど、沿線地域にとって見たら立派なお客様ですし、たとえ何も買ってくれなかったとしても、地域というお店に入って来ていただいているということは、「ウィンドウショッピング」なわけですから、当然お客様なのであって、今の時代はそういう人たちが「インスタ映え」とかでどんどん宣伝してくれますから、本当は大切なお客様なんです。
「乗り鉄」の皆様方は鉄道運賃をお支払いいただきますから、売り上げに直結するお客様です。
でも、「乗り鉄」の皆様方の最終目標というのは「全線制覇」の人が多いですから、つまりはどういうことかというと、一度乗ったら二度と来ない人が多いのですが、「撮り鉄」の皆様は、花が咲いたと言えば来るし、田んぼに水が入ったと言えば来る。稲が実ったと言えば来るし、雪が降ったと言えば来る。つまり、何度もいらしていただくお客様ですから、田舎のローカル線にとっては、実はありがたいお客様のではないか。
私はこのように考えて、社長就任当初から、「写真を撮りに来るだけでも良いから、来てください。」と撮り鉄の皆様方に実にやさしい鉄道会社の社長なのです。
ところが、先月、鉄道運輸機構という国の機関が、 「JR北海道の線路を一般に開放して、誰か観光列車を走らせてみませんか?」 というような発表をしまして、「へえ、国も面白いことを考えるようになったなあ。」と、WEBでその内容を見ていたんですが、こんなことが書いてありました。
北海道における観光列車の導入は、JR北海道の利用者の増加に資するだけでなく、地域への宿泊・飲食施設への波及効果や、そのイメージがもたらす付帯的な効果(観光列車の一部に触れるような体験をしたいフォロワー層の誘客等)も見込まれることが予想される。実際、JR九州の「ななつ星」に代表されるように、シンボリックな観光列車は地域に及ぼすイメージアップや派生需要にも貢献している。
と、こんなことが書いてありまして、私は目を見張りました。
「観光列車の一部に触れるような体験をしたいフォロワー層の誘客」
ということは、まさしく写真を撮りに来るだけの「撮り鉄」さんでも、地域にとってはプラスになりますよ。と言っているではありませんか。
この企画を作った国の役人の人たちは、「絶対に私のブログを読んで、いすみ鉄道のやり方に注目してくれている。そうに違いない。」と私は確信したのです。
なぜなら、観光列車というのは、一部の富裕層だけのものではないからで、乗せて何ぼという話になれば、せいぜい乗せたって50人とか100人だけの話です。キャパの上限が決まっているから、できるだけ高いお金をいただこうと考えているのだと思いますが、そういう列車が走る風景の写真を撮りに行こうとか、たとえ豪華列車でも、一部区間だけでも乗れるようにすることで、もっともっと可能性が広がるし、お客様の数は無限に増えるからなのです。
JR北海道も、いすみ鉄道も、補助金を投入して運営しています。
補助金が入っていない鉄道会社などなくて、大手私鉄だって地下鉄だって、みんな補助金を投入しているわけですが、そういう公的なお金を投入しているということは、社会のお役に立たなければならないわけで、大手私鉄などの大都市輸送なら高架化や地下化で便利になるというのがひとつの社会貢献かもしれませんが、田舎のローカル線としてどうやって地域社会に貢献するかと考えたとき、今の時代は、誘客のツールになるということも、立派な役割であるということが、この鉄道運輸機構の文章にしっかりと書かれているのです。
少なくとも、私が就任した9年前の2009年の時点では、こういう考え方は存在しませんでした。
私が、
「観光鉄道を目指します。」
と申し上げたところ、
「観光なんて遊びだろう。お前は税金を使って遊びをやるのか。」
と、さんざん言われました。
でも、今、国が観光鉄道を推進するに当たり、「撮り鉄だって地域にとっ立派なお客様だ。」と言うようになってのですから、私がいすみ鉄道の社長としてやってきたことは、間違ってはいなかったんだと確信しているのであります。
古い写真が出てきました。
昭和50年代に撮影した南海電鉄の急行列車です。
こちらは2006年に撮影した島原鉄道です。
残念ながら、みんな無くなってしまいました。
今、こんな列車が走っていたら、皆さんどう思いますか?
素晴らしいでしょう。
行って見たいでしょう。
乗ってみたいでしょう。
そう、いすみ鉄道は、今、この世界が展開されているのです。
ほらね。
こういう世界は、日本人全員に理解していただく必要はありません。
観光というのはファンビジネスですから、理解できない人には理解できないビジネスです。
日本人の百人に一人が理解していただければ、受け入れが小さい田舎としては十分なのです。
これがいすみ鉄道のビジネスモデルです。
ただ、万人受けしない商売というものは、地域の人たちの中にも理解できない人たちがたくさんいるのも事実でありまして、これだけわかり易く展開しても、「そんなことやって、何の意味があるんだ。来るのはマニアだけじゃないか。」と今でも言われることも事実であります。
国が動き出そうとしている時に、地域がそれを理解できない。
でも、その国は実はいすみ鉄道での展開をしっかり見て動き出している。
これが私を取り巻くパラドックスなのです。
今の私にとっては、もどかしいところもあるんですが、経営者というのは、いつの時代も孤独であるということも事実なのですからいたしかたありません。
皆さん、撮るのも乗るのも、早い方が良いと思いますよ。
皆様のお越しをお待ちいたしております。
車で来ても良いので、いすみ鉄道の売店でお金を使うこと。
ご飯を食べたりお茶を飲んだり、朝市へ行ったりして、地域にお金を落とすこと。
これが大原則なのであります。
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