なぜ車内販売は儲からないのか。

JRの特急列車から車内販売がどんどん消えているようです。

その理由は「儲からないから」らしい。

では、なぜ、儲からないのでしょうか。

 

これを考えるには、国鉄時代から続く運賃、料金体制をひも解いてみる必要があります。

 

まず、目的地まで行くために買う切符を乗車券と言います。そしてその乗車券に払う金額を運賃と言います。

皆さんご存知ですよね。

そして、急行列車や特急列車に乗るためには乗車券のほかに急行券や特急券が必要ですが、これを料金と言います。

国鉄時代の規則を踏襲しているJRの「切符」というのは、運賃と料金という2階建ての構造になっているのです。

 

私鉄各線ではそれぞれの列車種別や料金体制がありますから、会社によっては特急券を買わずに特急に乗れるところも多くありますが(京浜急行や東急、京成、京王など)、JRの場合は特急列車に乗る時は、特急券が求められます。

大都市圏の電車はもちろん、地方でも各駅停車で行くならば料金は不要ですが、都市間輸送ではたいてい特急列車で行くのがふつうですから、お客様は運賃と料金の2つを払っていることになります。

 

これは国鉄時代から続いている習慣のようなもので、急行列車というのは文字通り途中駅を通過して主要駅だけに停車する速達タイプの列車で、特急列車というのは、今ではふつうに「特急」と言っていますが、実は「特別急行列車」の略で、何が特別なのかというと、目的地まで停車する駅数が急行列車よりも少ないのはもちろんですが、使用する車両も特別な車両で、例えばカバーの付いた二人掛けの座席が並んでいたり、冷房が付いていたりという、当時としてはそういうサービス面で優れている部分もありましたので、「特別急行」だったのです。その証拠に急行列車の車両というのは、当時は普通列車に使用されることもしばしばあって、その逆に、普通列車の車両を急行列車に使用することも時々見られました。(房総地区で昭和の時代に見られた遜色急行などです。)

でも、特急列車に急行列車や普通列車の車両を使用することはなく、車両故障など運用の都合で特急列車に急行用や普通列車用の車両を使用するなど、急に車両が変更になった場合は、所要時間はそれほど変わらなくても、今でも特急料金は払い戻しの取り扱いになります。これは、特急料金というのが、単に速達料金だけではなくて、特別な専用車両を使用する前提で設定されているからなんです。

 

当時はそういう時代でしたが、国鉄路線には私鉄と競合する区間がありましたから、例えば東京ー八王子間とか、京都ー大阪ー神戸間、大阪ー和歌山間のように、私鉄と競争している区間では、運賃の他に急行料金や特急料金を課金しては競争になりませんから、こういう区間では列車の速度は速いけど、運賃だけで乗ることができる「快速」というのがかなり以前から走っていました。

中には特急並のスピードなのに、料金が不要の「特別快速」などという列車種別もあって、ずいぶん乗り得な感じがしましたが、これが国鉄が私鉄にお客様を奪われないようにという意味でのサービスとネーミングということになります。

 

さて、国鉄の末期からJRに変わるころになると、大都市圏の私鉄との競合区間以外の地方でも、高速バスなどと競合する時代になりました。すると、大都市圏以外の中距離区間でも運賃の他に急行料金や特急料金を徴収することが難しくなってきましたので、急行列車を一段格下げして、料金不要で運賃だけで乗れる快速列車が全国各地で走りはじめました。また、時代が進んで急行列車にも冷房が標準装備になり、特急と急行ではもともと速度の違いもほとんどなかったことから、他の交通と競合しない区間では、多くの急行列車は特急列車に格上げされていきました。これは実質上の値上げで、今まで急行料金で乗れていたものが、大して所要時間も変わらないのにさらに高い特急料金を払わなければならなくなりましたから、地方ではかなり批判の対象になりました。そして、現在のJRの時刻表からは、一般に利用できる列車としては急行列車というのが消滅し、快速と特急になってしまったのです。

 

特急というのは特別急行列車ですから、あくまでも普通の急行列車が走っている前提での特別急行だと私は考えます。だから、普通急行が走っていなければ、本当は今の特急列車が「急行」になるのですが、JRは高い料金をみすみす失いたくはありませんから、そのまま特急料金を課金しているわけで、その特急車両を運用の都合で料金不要の普通列車や快速列車にも使用しているということは、本来の特別急行料金を徴収する意味は失われているということなのです。

つまり、国鉄時代から脈々と続いてきたルールというのを、自分たちの都合の良いところだけちゃっかり踏襲して課金、徴収するというやり方は、今の時代にはすでに整合性を失っていて、どう考えても無理があるのですが、「急行です。」といえば急行料金、「特急です。」といえば特急料金をお客様の義務として払わせることができる商売ですから、そりゃあ「特急です。」と言った方が余計にお金をいただけますから、全国的に特急ばかりになっているのです。

 

さてさて、時は移り変わって今の時代は長距離の都市間輸送でも対抗する交通手段がたくさん出現しました。お客様が選択できる時代になったのです。ということは、鉄道会社としてはお客様に選択していただかなければならないわけで、そういう選択の対象となる「商品」としての列車を走らさなければならない時代になりました。そこで、そういう前提で、特急列車というものがどうあるべきかということを考えなければならないのですが、JRがやっていることは運賃、料金体系はそのままで、サービスをカットして行こうという、時代の流れに逆行しているとしか思えないことをやっていて、その1つが「車内販売の廃止」です。

そして、その車内販売を廃止する理由が、「儲からないから。」ということ。

これが私には不思議で仕方ありません。

だって、車内販売を関連会社に丸投げしていて、その関連会社が「儲かりませんからやめます。」と言っているだけの話ですから。

 

そりゃあ、関連会社は自分の所で職員を雇用していますから、その職員の人件費ぐらいはせめて捻出するだけの売り上げを上げなければやって行かれません。だから、車内販売の商品にその分が添加されるわけで、そうなるとなんだか割高感があります。その割高感を消費者は敏感に感じ取りますから、車内で買うことは避けて、当然乗る前に買って準備します。駅というのは不思議なところで、改札口の内と外でものの値段が違います。同じ弁当一つ買うにしても、駅の中で買う駅弁は高額でコスパが低いのが多いですから、お客様は改札口の外にあるコンビニでおにぎりや弁当を買って、事前準備して乗車します。そうすると、車内販売がさらに売れなくなる。そういう構造が長年放置されてきて、その結果として、行きつくところは「儲からないから廃止します。」ということなのです。

 

これがJR流の商売に対する考え方で、その結果、どういうことが起きるかというと、お客様の選択肢から外れるということになるわけで、そもそも最初から特急列車で目的地へ行こうということが選択されなくなるのです。

 

車内販売というのは付帯サービスの部分でありますから、例えば喫茶店に入ったら、ウエイトレスのお姉さんがニコニコ笑顔で、「いらっしゃいませ。」と微笑んで、おしぼりとお水を出してくれますよね。そのおしぼりのコストがもったいないとか、水を運ぶのが余計な労働だとか、挙句の果てにお姉さんの人件費がもったいないという話になると、誰がわざわざ喫茶店に入ってコーヒーを飲もうという気になるでしょうか。まして、安売りのコーヒー店がたくさんできている時代です。だったら缶コーヒーでいいや、とか、スタンドコーヒーで十分という話になってしまいます。

 

つまり、付帯的なサービスをカットすることで、お客様が特急列車そのものを利用しなくなる。本来入るはずの運賃収入や特急料金収入そのものが入らなくなってしまうのがこういう商売のやり方なのですが、鉄道会社の偉い人たちは、自称民間会社のお役人さんですから、お客様が何を望んでいるのかなどは理解できません。たとえ理解できたとしても、顧客の心理などを会議で代弁しようものなら、自分の職を失いかねないという構造になっているのでしょう。中学生でもわかるようなことが、大きな会社ではテーマにすら上がらないのです。

 

もう一度原点に返って考えてみましょう。

運賃は目的地までの輸送費用で、特急料金というのはスピードと快適性に対するサービス費用でしたね。

でも、今の時代、特急列車って本当に速いのでしょうか?

高速道路が整備されて、航空路網が発達している今の時代は、特急列車は決して速い交通手段ではありません。

鉄道会社の社内的思考では、普通列車や快速列車に比較して「速い」と言っているかもしれませんが、お客様目線としては、速くはないんです。だとすれば、お客様が特急料金を払う意味というのは、スピードに対するものではなくて快適性やサービスに対するもののはずです。

特急列車はバスに比べるとゆったりしているとか、客室乗務員がこまめに車内をまわってお世話してくれるとか、そういう「サービス」を受けることによって、快適な旅ができる。これが鉄道の最大の利点なんです。だから、車内販売で儲けようという考え方そのものが間違っているんです。

 

ということで、本日の本題。

車内販売はもともと儲からないのですから、そこで儲けようと考えてはいけないのです。

 

だから、車内販売は「販売」することをやめて、お客様に配っちゃえば良いんですよ。

 

売ろうと思うから売れないんです。配ってしまえばよいのです。

そして、その分の経費は特急料金からねん出するようにしたら、別に売れなくたって全然気になりません。

食事だって飲み物だって、特急料金に含まれるサービスだとすれば、お客様にサービスでお配りすればよいのです。

何しろ、高速バスだって、いまどきコーヒーサービスなんて当たり前で、飛行機だってそうでしょう。競争相手は特別料金を徴収することなくそういうサービスをやっているのですから、運賃とは別に特急料金をもらっている鉄道会社がそういうサービスをできないはずはありませんから。

 

できないのではなくて、やらないだけですよね。

そして、何もしないでおいて、コストの計算ばかりして、せっかくの商品をダメにしてしまう。

でもって、「乗らないのはお客のせいだ。だから廃止する。」と言うなら、こういう組織に鉄道の運営を任せていては、国民の財産である鉄路が、こういう人たちによって運営放棄されていくことになりますから、私は声を大にしてこう申し上げるのであります。

 

「車内販売なんて売ろうとするな。配ってしまえ。」と。

 

(つづく)