機関車大好き! その3

機関車が好きだということには理由があります。

 

それは、昭和40年代の少年にとって見たら、機関車が引く旅客列車というのは寝台特急であったり、あるいは夜行急行であったり、あこがれの対象だったわけです。

また、当時のSLブームも手伝って、例えば上野や東京を出て行く客車列車は、最初は電気機関車に引かれていますが、遠くに行くにしたがって、機関車が変わって、最後は蒸気機関車が引く列車もありましたから、「これに乗って行けば蒸気機関車の走るところへ行かれる。」という希望を託すこともできました。

つまり、機関車が好きということは、客車が好きということなのであります。

 

当時の客車というのは、特急用の寝台編成を除けばまだまだ旧型客車が幅を利かせていて、古い順から言うと、スハ32系、オハ61系、オハ35系、スハ43系、そして10系軽量客車と、だいたい5種類に分類されました。だいたいというのは、当時は情報がそんなにありませんでしたし、雑誌は蒸気機関車と新型車両の紹介に徹しているものが多かったですから、戦前から昭和20年代までに製造された客車を特集するものは少なくて、私はもっぱら現状視察し、青い客車(スハ43系)は急行列車用。各駅停車用の茶色い客車のうち、小さい窓がたくさん並んでいすのはスハ32で、青い客車と同じ形なのがオハ35系、横から見ると窓の数が1つ多い(定員は8名多い)のがオハ61系で、ツルンとした(窓の上下にシルヘッダーと呼ばれる補強の帯がない)のは10系というような分類をしていました。

そして、小中学生の頃は、やはりどうしても急行列車に使われるブルーのスハ43系に乗りたくて、それが高校生ぐらいになってくると、リベットのボディーに小窓が並ぶスハ32を迷わず選択するようになりました。

選択するというのは、当然自由席車ですから、長編成の車両の中から、「どれにしようかな」と選ぶことができたのでありまして、今の電車で言うと、「やっぱりモハに乗りたい。音が良いから。」というようなものでしょう。

 

旧型客車には子供の目から見てもこれだけ分類があって、細かな考察ができるのに、あるレールウエイライター氏に言わせると、普通列車に使用する旧型客車は「雑客」と表現していましたから、私はけっこう腹が立っていて、「この人は車両を愛していないんだな。国鉄の規則ばかりをこねくり回しているんだな。」と、その人の書いた本は一切読む気が無くなったことも今となっては懐かしい思い出です。

 

さて、客車列車に乗車するときにもう一つ気を付けていたのは、できるだけ機関車に近い前の方の車両に乗るということ。そうすれば機関車のパワーを感じることができるからで、なぜなら当時の客車は窓が開きましたから、走行中に機関車が力行する音がよく聞こえるのです。

それと、もう一つ。当時の旧型客車で編成された客車列車というのは発電機などのエンジンがついていませんし、コンプレッサーも搭載していませんから静かなんです。実に軽やかに走る。車体重量は電車に比べると重いにもかかわらず、重厚感があるけれど走行中は軽やかで、シューッとブレーキをかけながら駅に入って、ギーッと停まるのですが、止まった瞬間に「シーン」となるんです。

ドアが開く音もしませんからね。

そういう時に窓を開けていると、蒸気機関車の列車だと、前の方でシュルシュル言っているわけですが、静寂の中で、時々、ザクザクとシャベルがこすれる音がして、発車のために石炭をくべている音が聞こえてくるんです。こういうのが夜だったりすると、もうなんだか「旅情」にとっぷり浸ってしまって、あの時の音というのが40何年たっても、ふとした瞬間に今でも頭の中に蘇るから不思議なんですね。

 

ディーゼルカーや電車ばかりで、窓も開かないし、客車といえども床下で発電機が回っていたり、ドアも自動でプシューッと音がしますから、この停車した瞬間の静寂感というのはなかなか味わえないかもしれませんが、それなりにアンテナを張り巡らせて感性を高めることができるのが若さですから、今の時代の若い人たちも、彼らなりの感性で鉄道の旅を楽しむことができれば、おじさんになった時に、きっと、懐かしく思えることができるのだと思います。

モノには旬というのがあります。

人間だって同じです。

だから、若いうちにいろいろ経験して、頭の中に仕込んでおけば、その後の人生にきっとプラスになるのではないかと思います。

 

サロンカー「土佐路」  撮影:鈴木助役

 

そう考えると、旅行会社がこういう旅行を企画してくれて、鉄道会社がこういう列車を走らせてくれるというのは、とても素敵でありがたいことだと思いませんか。

きっと、こういうお仕事をさせる方というのは、子供の頃、私と同じように鉄道に対して一生懸命感性を磨いた人たちなんでしょうね。そしてそういう人たちが走らせる列車に乗って、今の若い人たちが感性を磨いていく。

そうすれば、しっかりとつながって行きますからね。

 

ということで、今からこの列車に乗ります。

 

やっぱり、機関車が引く客車列車は、これからも走らせていきたいなあと思います。

 

(つづく)