MY UNION

この間、私が子供の頃、電車に落書きが一杯してあって、そのうち電車が動かなくなった話をしましたら、結構な反響をいただきました。つまりは労働組合の話なんですが、実は私も30代の頃に労働組合員で、執行部経験もありますから、労働組合って聞くと、「そりゃそうだよな。こういう時代こそ、本当は必要なんだよな。」と思いますが、仮にも鉄道会社の社長が、労働組合の幹部だったなんて話は刺激が強すぎますから、社長になってから9年間、あまりそういう話はしてきませんでした。でも、今の時代は総理大臣が企業の経営者に向かって、「労働者の給料を上げてください。」などという時代になりましたから、まあ、昔を知る人間としては考えられないことで、労働者諸君に対しては、実になんという体たらくだと思うのですが、そういう時代になったのですから、たまには労働組合の話をしてもよろしいのではないかと思いまして、思想的な話は別として、そういうお話をひも解いてみようと思います。

 

▲昭和47年4月。落書きだらけの機関車が引く青梅線のセメント列車。

 

労働組合というのはもともとはイギリスが発祥で、昔々のマルクスの時代、「経営者は労働者から搾取している。」と言われていた頃からのもので、経営者(資本家)と言うのは、工場や設備を作ることによって、労働者に働く場所を提供している。その工場の施設で働かせてもらって、労働者は製品を製造する。これが富の創造と言われるもので、出来上がった製品(富)を販売して利益を得るのは経営者(資本家)でありますから、コストである労働者へ支払う賃金はできるだけ安いに越したことはありません。だから、低賃金でこき使われるのが労働者でありますから、労働者は団結して、経営者に「賃金をUPしろ!」とモノを言えるようにする。これが労働組合の始まりです。団結せずに個人で経営者に掛け合えばクビにされて終わりですが、団結していれば経営側も話を聞かざるを得ないからです。

 

つまり労働組合の目的というのは

・賃金などの労働条件のUPさせること。

・労働環境を整備し、安全で働きやすい職場を作ること。

・勝手に解雇などできないように、雇用を守ること。

・弱い立場の労働者の相互扶助。

などであります。

 

昭和の時代、と言っても昭和30年代ごろの話ですが、日本全体が貧しかった時代ですから、労働者というのは賃金が低く、労働環境も劣悪でした。

皆さんよく御存じの蒸気機関車は、石炭で火を焚いて走ります。すぐにわかるのは、火傷などの事故が頻繁に発生します。煤煙や石炭の粉じんなども考えると働く環境としては良いはずがありませんから、そういう時代は、賃金のUPはもちろんですが、労働環境を改善するという大きな目標もありました。

昭和30年代から40年代にかけては、国鉄ばかりでなく大きな工場で働く人たちもみな生活は貧しく、危険な環境が多くありましたから、労働組合が中心になって、従業員の生活改善、環境改善が行われてきたのです。

 

よく、今の日本を作ったのは企業の経営者たちだというような報道や書籍を目にしますが、もちろん、そういう偉大な経営者たちがいたからこそではありますが、それだけじゃなくて、労働組合という組織があって、従業員が一丸となって会社を良くすることで自分たちの生活も良くなる、という方向に動いてきたからこそ、今の日本の繁栄があるわけで、つまり会社と労働組合というのは、同じゴールを目指す車の両輪なのであります。

 

ところが、昨今、どこの会社でも労働組合の力が弱くなってきて、あまり活発な動きをしなくなりました。そういう時代になって来て、私が強く感じるのは、企業の不祥事が実に多くなってきたなあということ。例えば自動車工場が出荷時の製品検査をきちんとやっていなかったり、鉄鋼会社が鉄の成分をごまかしていたり、新幹線の台車を作るメーカーが設計図に無いような製法で台車を作っていたりなど、思い出すだけでもいろいろな不祥事がここ数年連続していますが、関係しているのは皆大企業で、そういう企業ではおそらく労働組合が本来の機能をしていないのだと考えられます。

 

なぜなら労働組合というのは、賃上げや条件闘争ばかりが使命ではありません。会社経営陣というのは、マルクスの時代から見られるように、すこしでもコストを減らして利益を多く出そうという基本的発想がありますから、黙っていると後先省みずに利益に走る傾向があって、企業としての社会的な責任を果たさなくなる。「儲かれば何をやっても良い。」とか、「儲かることだけをやればよい。」というような、そういう経営陣の「暴走」に待ったをかけて、会社を正しい方向に導き、世の中を良くしようという大きな役割が組合にはあるのですが、そういう役割が機能していないから、昨今の大きな会社というのは、業種、業態を問わず、いろいろな不祥事が発生していると考えられますし、発覚していないだけで、もっと他にもいろいろあるのではないかと勘繰りたくなる状況なのです。

 

ではなぜ、労働組合というのがきちんと機能しなくなったのか。これはひと言で申し上げると、世の中が豊かになったからです。

世の中が貧しかった当時、庶民は皆、長屋のような安普請に住んでいました。食べるものも着ているものも粗末でした。そういう衣食住に事欠いていた時代は、日本人は皆、もっと良くなろうという上昇志向があって、ハングリーだったのですが、今の時代は冷暖房完備の家に住んで、マイカーを所有し、海外旅行にも行かれるようになりましたから、日本人はハングリー精神を失って、相互扶助よりも、自分だけがもっと良くなろうというような、自己中心的で利己的な人が一般的になって、当然、助け合いの精神が薄れてしまったことが、労働組合が弱体化した大きな原因です。

そういう賃上げや条件闘争だけではなくて、車の両輪としての労働組合の役割を果たさなくなってしまうと、経営陣の暴走が始まって、企業や業界というのが正しい方法に進むことすらできなくなる。その結果として不祥事が発生したり、本来の理念が失われたりして、会社そのものがおかしくなって、結果として賃金が下げられたり、あるいは仕事そのものが無くなるという、実に危うい状況になって来ていることに、労働者は気づいていないのです。

 

まして、今、労働組合がある会社というのは、人もうらやむような大企業です。

そういう大企業で、世間の人よりも良い給料をもらっている人たちですから、だんだん社会のことなどわからなくなる。

会社がどういう方向に向かっているのかということよりも、今の生活を維持するためには、会社に傾いてもらっては困りますし、会社から追い出されてしまったら元も子もありません。だから、やたらに組合活動をやって、会社に目を付けられるようなことはしたくありませんから、20代、30代のころから「僕は組合には興味ありません。」という人が多くなって、そういう組合活動を経験していない人たちが40代、50代になって会社の幹部になっていくような時代になって、今、日本の企業はなんだかおかしな状態になって来ているのだと私は見ています。

 

(つづく)

 

※本文と写真は関連ありません。