田舎でコストは論じるな。 その2

昨日はある都道府県の自治体の副市町村長会議に参加させていただきました。

 

昨日のブログで書きました内容は、実は、その会議で私が発言させていただいたことなんです。

 

千葉県は周りを海に囲まれた県ですが、幸いなことに? 島しょがありません。

だから交通政策も、東京に向かった放射状の輸送手段をどのように確保するかが最大の課題ですが、都道府県によっては島しょを抱えているところもあって、そういう都道府県では離島へのアクセスというのが大きな課題になっています。

東京都にも伊豆七島や小笠原諸島がありますから、離島航路だったり離島空路だったり、その確保と維持に多大な金額と神経を使いますが、周りを海に囲まれてはいるものの、千葉県はそういう離島政策は必要ありませんから、交通政策的に見ても、私はラッキーだと考えています。

昨日お邪魔したところも離島をいくつも抱えている県でしたので、地域の足というものに大変敏感で、マイカーがあるから大丈夫だというような安易な交通論が通用しない地域です。

そして、その県には第3セクター鉄道があって、金額的に大きな負担を各自治体が迫られていますし、30年前に国鉄の赤字ローカル線をいくつも廃止してしまった地域もあって、そういう地域が今どうなっているかと言えば、私が言わなくたって、その地域の自治体の偉い人たちは十分に理解している。つまり、鉄道はお金がかかるけど、廃止したら10年もすれば地域全体がダメになってしまうということを経験しているのですが、だからと言って、どうしてよいのかわからないというのが本音なんですね。

だから、私は、いすみ鉄道で実践しているように、鉄道を使って地域全体が浮上するようなことが可能ですよという意見を述べさせていただいたわけで、その時に、地元の第3セクター鉄道にコストの理論を持ち込んで、赤字だ黒字だという話をするのであれば、自主財源率が低い田舎そのものが赤字なのですから、田舎自体が要らないところだと言われてしまいますよ、というお話をさせていただいたわけなんです。

だから、せっかくある鉄道を上手に使いましょうと。

 

これはうちのカミさんの語り草なんですが、北海道のある町へ出かけた時のことです。

その町は半分農業、半分観光を産業としているような町で、レンタカーで立ち寄って、道の駅をのぞいてみたんです。

ちょうどお昼時だったものですから、その道の駅で食事をしたんです。

 

良い匂いがしてきたので近づいてみると焼き鳥を売ってました。

そういえば養鶏場が多い地域だなあ、と思いながらその焼き鳥を買ったんですが、値段は1本100円と安かったけど、焼き鳥自体が小さな肉が3つぐらいついているだけの安っぽいものだったんです。

私は、どうしてこんなに小さいんだろうと不思議に思いました。

すると、うちのカミさんが、「なんだかけち臭いわねえ。」と言います。

ハハハと笑いながら食堂へ入ってカレーライスを注文しました。

値段は忘れましたが、500~600円程度のカレーライスです。

そうしたら、しばらくたって出てきたカレーライスの器が小さくて、ちょうどコンビニ弁当のカレーライスぐらいの大きさだったんです。

それを見たうちのカミさんが、「なんだかけち臭いカレーライスねえ。」と言いました。

焼き鳥も1本100円だし、カレーライスも500円か600円ですから、値段相応と言えばそれまでですが、それ以来、うちのカミさん的には、北海道の広い大地の真ん中にあるその町が、「ああ、あのけち臭いところね。」という印象になりました。

 

この間、私がパソコンで昔のテレビ番組の動画配信を見ていた時に、廃止になったローカル線が出てきたんですね。

隣でカミさんが覗き込んで、私が「これ、あの町だよ。」と言ったとたん、すかさず、「ああ、あのけち臭い町ね。」と言いましたから、よほど印象に残っているというか、おそらく一生忘れないのではないかと思いますが、旅行ってそういうものだと思います。

 

つまり、地域に求められていることは、観光でいらしたお客様にどのように良い印象を持ってもらうかなんですよね。

 

北海道へ行った観光客としては、広い大地の真ん中の町に立ち寄って食べる焼き鳥は100円である必要はありません。

ふだん、地元の商店街で買うならせいぜい100円が良いところかもしれませんが、せっかく旅行に出たんだから、例えば1本300円出したって、それに見合う焼き鳥であれば、観光客は食べますよね。

カレーライスだって、そりゃあ地元で食べるお昼ごはんならば500円にしておきますが、観光地なら1500円、2000円出したって、それに見合うようにお肉や野菜がゴロゴロ入っているカレーだったら、観光客は食べます。

 

せっかく来たんだから、と言いながら、そこでしか味わえない非日常体験をするのが観光ですから、つまりはそういうものなのです。

そういう時に、コストばかり気にしたような安っぽい料理を出していたら、その町の印象そのものが安っぽくなってしまいますから、駅弁だってちょっと豪華に1200円とか1500円出して、せっかく来たのだから食べてみたくなるようなものを提供すればよいのです。

 

昭和の時代の観光地は、実は逆で、観光地なんだから高くてまずい、というのがほとんどでした。

その代表的なのが海の家のラーメンと言えば、わかる人はわかると思いますが、高いばかり高くて、味は最低の食事というのが、観光地には多く見られたのですが、今、それをやったら、口コミですぐに広がって、あっという間にお客様が来なくなってしまいますから、そういう商売はできなくなりました。

 

例えば、1杯500円のカレーライスと、1杯2000円のカレーライス。

原価率を7割に抑えて販売すると、500円のカレーライスでは150円の利益ですが、2000円のカレーライスでは600円の利益が出ます。

観光地であれば、ストーリー付の演出次第で2000円でもカレーライスは売れると思いますから、一人のお客様から4倍も利益を得られることになります。

第一、2000円のカレーライスの原価が1400円だとしたら、そのカレーの内容は、かなり豪華になるはずです。

3000円で、伊勢海老カレーなどというものを出せば、話題にもなるし、地域の宣伝にもなる。

そういうお料理を提供できれば、必ず名物になると思いませんか?

 

そして、今の観光客というのは、そういうものを探しているのです。

 

これが、どうやって付加価値を付けていくかという商売であって、もともとビジネスの器が小さい田舎の町の商売としては、薄利多売の商売は厳禁なはずなのですが、コストにこだわってチンケな商売をすると、口の悪いおばさんたちから、「なんだかけち臭い町ねえ。」という印象を言いふらされてしまうわけです。

 

私は、田舎の町ほど、コストよりも内容で勝負する商売が簡単にできると考えていますが、その代表例がローカル線だということを、呼んでいただいた全国各地の自治体の偉い人たちにお話させていただいたのであります。

何しろ、新車の10分の一のオンボロ車両で16000円のレストランを満席にすることができるのが、その証明なのですから。

 

日本という国は、田舎にこそ、可能性がたくさん眠っていると、私は確信しています。