別にハンコが要らないわけじゃなく

菅政権になってから旧態依然としたお役所仕事の業務改善をしようということで、そのためにはハンコを押すのを止めましょうという話になっています。

それはそれで私は良いと思っていますが、ニュースでは街中のハンコ屋さんが売り上げが急減したとか、そういう話になっています。

いやいや、そうじゃないでしょう。

文化としての印鑑の役割だとか、個人個人で実印を持つとか、そういうことが不要というわけではなくて、いちいちハンコをもらわなくては仕事が進まないような、そういう仕事のスタイルを改善しましょうというのが「ハンコを押すのを止めましょう。」ということなのではないでしょうか。

うちの会社もそうですが、いちいち一つの物事を通すのに担当が莫迦丁寧な稟議書を書く。それを部署内で回し、さらに主任→係長→担当課長→課長→担当部長→部長と上げる。
それから各部門の部長に回って、常務に回って、最後に私のところに来る。

これでいったい何日かかるのか?
そういう時間をコストとして考えていないから平気でそういう制度を回している。
と、私は思う。

時々急ぐものがあると、「私の稟議書、今どこかしら?」なんて言って担当が会社中探していて、やっと見つけたバインダーをもって各部署を回ってみんなのハンコを集めて、「社長、やっと皆さんからいただきました。ここに印鑑をお願いします。」なんて息を切らせている。

だったら一番先に私のところに持ってきなさいよ。
なぜなら、私がハンコを最初に押してしまえば、いちいちみんなのところを回る必要がないんだから。

そう言ったら、「そんなことできません!」って胸張ってる。

いやいや、胸張るところ、そこじゃないでしょう。

この間なんか、「ホームページにこの記事を載せたいのですがよろしいですか?」という稟議書が回ってきた。
ふと見ると、稟議書を書いた日付が2週間前。
どこかで止まってたんだろうねえ。
そんなんじゃホームページに載せる意味ないじゃん。
いや、ホームページそのものに意味がない。

そういう仕事のやり方自体が問題なのであって、ハンコに罪はない。
ハンコやめましょうと言ってサインにしたところで全く同じですから。
電子決済然り。

第3セクターだからお役所的なのは仕方がないなどという人がいますけど、私は違うと思います。
何が違うかというと、会社の中で長が付く役職の人たちが、何の疑問も抱かずに粛々と脈々と十年一日のようにこういうことを継続していくことがどれだけ恐ろしいことかという危機感を持っていないという所が違うと思うのです。

持ってるのかもしれないけどね。

お役所が総理大臣の掛け声のもと、「何やってるんだ?」と変革が求められているときに、株式会社の社内で長の付く人たちが何も考えず、何の疑問も持たず、前例に従って、ただただ当たり前のように稟議書を回して仕事をしているつもりになっているのですから。
それって「お仕事ごっこ」なんですよ。
これが仕事だと思ってるか、仕事してるつもりになっているだけ。

お前さんの給料はどこから出てると思ってるんだ?
その稟議書を書くコストはいくらなんだ?
スタンプラリーじゃないんだからね。
数日かけて戻って来る時間をお金に換算したらどれだけロスしてると思ってるのか?

つまりはハンコを止めましょうというのはそういうことで、仕事のやり方を根本から変えましょうということであって、いきなりハンコ屋さんの売り上げが急減したことをニュースにするのは違うわけですよ。
そう考えると、そんなことをニュースで報じるマスコミ各社の社内も、意外とハンコ文化が浸透しているのかもしれないなあと思う今日この頃なのであります。

役所に行くと、廊下の電気とか最低限のものを残してほとんどが消してあって薄暗くなっていたりするでしょう。
あれも、節約しているつもりになっている「節約ごっこ」なんですよね。
そんなことを一生懸命やるぐらいなら、まず最初に自分たちの仕事のやり方を改善して、余計な時間をかけないでスムーズに進むようにすることが一番の節約であるのですから、廊下の電気を消すぐらいなら、旧態依然とした自分たちの仕事のやり方を「変える」という前提で改善しましょうよ。
と民間人ならだれでも思います。

私は航空会社にいたんですが、昔はチェックインカウンターに10人も20人も職員がいたでしょう。
昔と言っても20年ぐらい前。
それが一人消え二人消え、10年もかからないうちに誰もいなくなっちゃった。
今ではチェックインカウンターそのものが無くなっちゃって、ポツンと機械が立っているだけ。だいたい国内線なんかではチェックインというシステムそのものが要らなくなっちゃったんですから。
これが制度の改革であり業務の改善。
そして、その分飛行機のお値段がお安くなって、利用者に還元されていて、だったら飛行機で行きましょうよとさらに利用者が増えてきたのがここ20年の歩みです。

ハンコを廃止しましょうというのは、つまりはこういうことですから。
5人でやっている仕事をとりあえず4人でやってみましょう。
どうやったらできるようになるか?
一生懸命考えましょう。
4人でできるようになったら、今度はその仕事を3人でやってみましょう。
これがIT化というものであり、仕事の内容の見直しであり、効率化であり、業務改善なんですよ。

10月1日から新しく営業部長に就任した春田さん。
「もう慣れましたか? 何か気が付いたところありますか?」と尋ねたら、

「この会社、人が多いなあ。」

やっぱそう思うでしょう。

それが民間の感覚というものだと私は考えます。

春田さん、頼りにしてまっせ!