ビジネスの伸びシロ その3

先週の続きです。
世界的な、つまりグローバルなものの見方をすれば、これからの日本で発展できる伸びシロがあるのは東京ではなくて田舎であると申し上げました。
事実、そういうものの見方をしている人たちが世界にはたくさんいて、日本のどこにおいしいところが眠っているか、ということを毎日探っているわけです。
私が今から5年半前の2009年6月にいすみ鉄道にやってきたときに、国吉駅のホームに立って、「ここにはお金が落ちてますね。」と言いました。
そして、そのお金を拾い集めることで、いすみ鉄道は生きていく道ができましたし、どうせなら、今までいすみ鉄道を守ってきてくれた沿線住民の皆様方に、「いすみ鉄道を守ってきてよかったねえ。」と言ってもらえるように、地域にも利益が落ちる仕組みを作ろうと考えたわけで、それを実践してきました。
マーケティングの専門家でもない私がたった一人で、ある種の勢力と戦いながら徒手空拳にやってきただけで、5年間でいすみ鉄道としての成果がここまで出るわけですから、専門のスキルを持った人たちが、資金力を裏付けに田舎を見れば、お金が落ちているだけじゃなくて、金の鉱脈が埋まっているように見えるのもうなずける話で、これが田舎における伸びシロなわけです。
ではそのようなグローバルな人たちがどうやって田舎を見ているかというと、例えばグーグルアースで上からつぶさに見るのが一番手っ取り早い方法で、山間の集落なんかでも、よく見るといろいろ使い道がありそうだということがわかる。
中国の富豪が北海道の山林を知らない間に買いまくっていて、水源として利用しようとしていた話などは極端な例ですが、そうやって日本人が気付かないうちに気付かないところを物色しているなんてことも実際に起こっているわけです。
でも、水源を狙う中国人ばかりではなくて、その土地に根付いたビジネスを展開しようというような、しっかりとした地域貢献型ビジネスを考えている人たちもたくさんいるのも事実で、ではそういう人たちがポイントにしているのは、例えば山奥の集落の道を一方通行にして、広い範囲で循環型交通路を作れば、新たにお金を掛けなくても活性化できるなどということを、グーグルアースを見て考えているのです。
でも、田舎の人たちは中央から降ってくるお金をもとに土建屋さんが潤うシステムが当たり前だと思っていますから、道路を拡張して対面通行できるようにすることばかり頭にあって、一方通行にして今あるまま使うなどというお金がかからない方法を探す訓練がされていません。
また、ちょっとでも何かをやろうとすると、地権者というのがこの国では大きな顔をしていて、放ったらかしにしている農地だって「この土地は先祖代々の土地だから私の代で明け渡すのはまかりならん。」などと恥ずかしいことを平気で言っている。
なぜ恥ずかしいかというと、先祖代々の土地というのは、「親からもらったもの」であって自分が努力して手に入れたものではない。だからそういう親からもらったという理由を最上段に構えて理論武装することは、猫の額ほどの土地を一生かかって頑張って払っている都会人から見れば恥ずかしいことなわけなのですが、だいたい日本の農家の大部分が戦前は小作農で、戦後の混乱期に解体された庄屋さんの農地を分けてもらっただけの家なのだから、自分の耕作地になったのだってせいぜいここ70年ほどの話で、先祖代々などありえないわけです。
そういう恥ずかしいことを平気で言っている人たちがあちらこちらにいると、何年かかっても道路一つ作ることができないわけで、だとすれば、グーグルアースで見ている人たちは、そういう人たちが住んでいる土地は「ここはダメだな。」とスルーしてしまうことになります。
つまり、知らないうちにチャンスを逃してしまうわけですから、ふだんからそういうことに注意して、行政が考える区画整備など、スイスイと行えるような所じゃないと、チャンスがあることすら気づかないわけです。
では、いすみ鉄道沿線地域はどうかといえば、これだけ全国区になっているのに、まだ自分たちの考え方に固執するような人たちがたくさんいるし、いすみ鉄道が地域をリードしているなどということは認めたくない人たちもたくさんいるのですが、そういう内部事情は私がここで言わない限りはまだ知られていない部分が多くて、外から見ている人たちは、「わずか5年でいすみ鉄道がこれだけ観光鉄道になったのだから、きっと沿線の人たちも協力的で、物事がスイスイと進む土壌がここにはあるのだろう。」と見ているわけですから、私はいすみ鉄道沿線地域は今がチャンスだと考えるのです。
いすみ鉄道自身は、前回も書きましたが、現状の限られた経営資源をフル活用しても、そろそろビジネスの伸びシロが無くなってきている状況で、この5年間の伸び率を今後もこのまま維持できるものではありません。
まして、煎餅やまんじゅう、もなかをいくら一生懸命売ったところで、鉄道事業を黒字にすることなど土台無理な話で、その点にばかりこだわっているようだと、いずれ近い将来、いすみ鉄道はまた立ちいかなくなることは見えています。
でも、このいすみ鉄道を沿線地域の自治体がどう利用して地域を活性化させるかということは、すでに全国が注目しているのは紛れもない事実ですから、そういう時に「いすみ鉄道が黒字だ、赤字だ」とかいうレベルで今後も議論すること終始していれば、「あいつらは何を考えてるのか?」、「せっかく芽が出たのに肥料もやらずに枯らしてしまうつもりなのか。」など、千葉県も沿線自治体も地域住民も全国からの笑いものになるだけだということなのです。
ところが、田舎の事情を最優先に考えている人たちは、そういうものの考え方をしませんから、常に自分たちの都合を最優先させている。
でも、そういう自分たちの事情はお客様には関係ないのです。
その所をしっかりと理解して実践できる地域であれば、田舎としての伸びシロがあるし、できなければそこにはビジネスチャンスは来ない。
ただそれだけのことなんですね。
わかりやすい例を挙げるとすれば、千葉県を代表する成田空港があります。
間もなく開港から40年になろうとしているのに、未だに敷地内の飛行機が通る誘導路に民家が立っている。
滑走路に向かう飛行機が敷地内にある民家をぐるっと避けて通っているのです。
建設の経緯など、いろいろ事情があるのはわかるけれど、そんな自分たちの事情などはお客様には関係ないことなのです。
だから、どんどんビジネスチャンスを羽田に持っていかれてしまうわけで、そろそろいい加減にしないと誰からも見向きもされなくなる。
早いとこ自分たちで解決できるかどうかということを、世界は見ているということなのですが、そういうことを多分成田空港自体がわかっていないか、わかっていてもどうにもできない。
これが成田空港がじり貧である最大の原因なのですが、そんなお客様には関係ない自分たちの事情が最前面に立っている状況が日本全国それぞれの田舎にもたくさんあって、その中で、そういう自分たちの事情を解決できる力を持っているところだけが、ビジネスの伸びシロがあるということなのです。
さて、あなたの町は這い上がれますか?
それとも消えていきますか?
何もしないこと、現状維持を決め込むことは、消えていくということですから、お間違いのないように頑張ってください。
と言っても、それができる人たちであれば、現状はこうなっていないわけですから、田舎にめぐってくるチャンスをものにして、2040年に生き残るということは、並大抵のことではありませんから、私としては全国の田舎に私がいすみ鉄道でやっている日々の姿をお伝えして、こうしてエールを送ることしかできない歯がゆさがあるのでございます。
私の力を必要としている地域の皆様方がいらっしゃいましたら、いくらでもお手伝いさせていただきますのでどうぞご用命ください。
(おわり)