商品の売り方

世の中には色々な商売があります。
私が商売の勉強をしていたころに、ものすごく流行っている焼き鳥屋さんがありました。
普通のおじさんが、普通の焼き鳥を売っているんです。
それも、郊外型スーパーの駐車場の片隅で、屋台でです。
おじさんが午前中自分で鶏肉を串に刺して、午後から売って、夕方にはおしまいになる。
この焼き鳥がものすごく売れている。
その証拠にどんどんチェーン展開していきました。
その屋台に書いてある看板は 「備長炭炭火焼」。
そして、焼き鳥の値段は他の店と同じなんですが、串に刺さった鶏肉は普通より少し大きめという、ただそれだけ。
その焼き鳥屋さんがとても流行っているんです。
特にパフォーマンスはないんですけどね。
私はうどんよりもどちらかというと日本蕎麦が好きで、蕎麦屋さんへよくいくのですが、うどんに比べると、日本蕎麦というのは、そば打ち名人のような、その道を究めたオヤジさんが、いろいろこだわって蕎麦を打っていて、「だまって俺の蕎麦を食え」的な商売をしているところが多くて、私は蕎麦は好きなんですが、そういうSNOBな客扱いをしている商売は好きではないんです。
で、よく行くお蕎麦屋さんは、チェーン店のファーストフード的なお蕎麦屋さん。
立ち食いが少しだけ進化したような蕎麦屋さんですが、そこの蕎麦屋さんがこだわっているのは、「挽き立て、打ち立て、ゆでたて」の三拍子。
味はというと、それなりに納得いくものですから、けっこう流行っています。
この焼き鳥屋と蕎麦屋という2つの商売を見ていて、皆さんはお気づきになることがありますか?
焼き鳥屋さんは「備長炭炭火焼」。
蕎麦屋さんは「挽き立て、打ち立て、ゆでたて」。
面白いでしょう。
お解りいただけますでしょうか?
焼き鳥屋さんは、「備長炭炭火焼」と銘打って、確かに炭火で焼き鳥を焼いているんですが、一体どこのチキンを使っているかということには一切触れていません。
確かめたわけではありませんが、値段の割には串に刺さった鶏肉が大きめなことを考えると、たぶんブラジル産のブロイラー肉か、同程度でしょう。
蕎麦屋さんの方は、「挽き立て、打ち立て、ゆでたて」と書いていますが、どこで採れた蕎麦の実を挽いているかは書かれていません。新得なのか長野なのかということには一切触れていないし、手打ちなのかどうかということも書かれていません。蕎麦ツユはどこのしょうゆを使っているとか、いりこ出汁なのか鰹出汁なのかというようなことは、よく見ればお店のどこかに書かれているかもしれないけれど、目立つところには書いてありませんから、そこが勝負どころではないわけです。
この2つの商売が、実はとても流行っていて、チェーン店化されているんですから、今の時代に驚きだと思いませんか。
だって、最初から使用している材料に関して何も言ってないし、いい材料を使っているということで客寄せしているわけじゃないんですから、食品偽装なんて無縁なところで商売をしているということなんです。
ブロイラーチキンにもかかわらず地鶏と言ってみたり、外国産なのに国産と言って商売をしている人たちがたくさんいて、そういう商売をしている人たちは、そうしなければお客さんが来てくれないと思って、ついつい客寄せのための誇大広告を出すわけですが、お客さんは、本当はそんなことをしなくても来てくれるんです。
鉄道会社も時々似たようなことをやっていますね。
ダイヤ改正の時など、「A地点からB地点まで1時間59分」とか書いてあります。
「2時間の壁を切りました。」ということがいかにも革新的で、その1分2分がものすごくインパクトがあるような表現の仕方ですが、時刻表をよく見てみると、1時間59分で行く列車は1日1本か2本のノンストップ列車が設定されているだけで、あとは途中駅に小まめに停まるものだから、2時間15分とかかかっていて、従来と変わらないわけです。
私は、こういう商売のやり方は詐欺だとは思いませんが、なんだか、まっとうなやり方だとは思えないんですね。

さて、そんな私がいすみ鉄道で発売開始した新商品がコレ。
キハカレー(チキン) です。
すでに皆様ご承知の通り、キハカレーはこれで3種類目。
最初はポークでキハ52。次がビーフでキハ28。そして今回がチキンでキハ30です。
3種類そろってみるとなかなか圧巻でしょう。
それも国鉄形を代表する気動車がそれぞれ表紙になっている箱入りですから、鉄道ファンじゃなくても、電車好きの孫に買ってあげたいとか、ギフトとしても喜ばれる商品構成なんです。
そこで、備長炭炭火焼の焼き鳥と、「挽き立て、打ち立て、ゆでたて」の日本蕎麦の話を思い出していただきたい。
いすみ鉄道のカレーには、熟成だとか、欧風だとか、そういう表現は一切ない。
スパイスはどこのものとか、肉はどのブランドといったことも言っていません。
このカレーは日本で初めて、ジャケットで買わせる鉄道カレーシリーズなのです。
なぜか?
世の中にはレトルトカレーなんて溢れかえっているんです。
どこのメーカーも味に工夫を凝らして、一生懸命研究して、コストと戦って商品開発をしているわけで、お袋さんが作ってくれた家で食べるカレーが一番うまいと思っている私が、そのレトルトカレー業界に殴り込みをかけるようなことをしたって、かないっこないんです。
だから、その部分で私は勝負をしないということなんです。
このカレーの売りは、「昔食べた懐かしい黄色いカレー」。
国鉄のディーゼルカーが颯爽と活躍していた時代は、カレーライスがごちそうだったんです。
だから、その時代のカレーを再現してみたんです。
ということは、今の研究し尽くされたカレーに比べたら、味では勝負を挑まないということなんですね。
このキハカレー。私は美味しいと思って作りましたが、味はその程度ですからあまり期待しないようにしてください。
それよりも、3つそろったキハカレーを常備品として棚に飾ってお揃えいただくことで、日本で初めて、インテリアとしてお楽しみいただけるレトルトカレーになるのです。
さあ、あなたはこのカレーのおいしさをお分かりいただけるでしょうか。
食べる皆様方の味覚とセンスが、今、試されます。
※ちなみに、ポークとビーフはすでに6000個完売しておりますので、「おいしい」と評価されているということです。
お求めは いすみ鉄道のWEBショップ でどうぞ。