奮闘努力の甲斐がありますよね。

いすみ鉄道の仲間というのは、国鉄時代の赤字ローカル線を引き継いだ第3セクター鉄道ですね。

 

同じ第3セクター鉄道でも、新幹線ができるからという大人のお約束で地元が引き継いだ、いわゆる並行在来線とは、だいぶ経営環境が違います。

何しろ、国鉄時代に赤字だったものが、30年経って沿線地域の人口減少は顕著ですから、経営環境はより厳しくなってきているのです。

そんな国鉄時代からのローカル鉄道で奮闘している私の仲間と言えば、公募社長さん。

その中でも私が足元にも及ばないといつも感心しているのが、鳥取県の若桜(わかさ)鉄道の山田社長さんと、秋田県の由利高原鉄道の春田社長さんです。

 

ローカル線というのは、地域交通として考えた場合、沿線が20kmあるかないかの行き止まり式の路線で言えば、経営を成り立たせるための絶対条件というのは「人口」です。

20km前後の鉄道の場合は、沿線人口が10万人いれば地域の足として成り立たせることが可能です。

それに地形的な要因が加わる。例えば、大きな川が流れていて地域が分断されていて、橋はかかっているけれど、そういう地域はたいていは朝夕に橋のたもとが大渋滞しますから、車やバスよりも鉄道が有利になりますし、接続駅から大都市へ向かう特急列車が出ていたり、人口の割には大きな企業があって、出張してくる人たちがたくさんいたりなど、いろいろな要因があるところでは、「本来の意味」での鉄道の維持運営が可能です。

ところが、国鉄の特定地方交通線に指定されたところは、そういう環境にないから指定されたわけで、例えばいすみ鉄道沿線の人口はと言えば、3万人弱。おまけに戦前に建設された線路はくねくねと曲がりくねっていますから、あとからできた道路で行った方が速い。つまり「本来の意味」での経営が成り立つ環境には到底及ばないのです。

人口が足りなければ、人口を増やせばよいと私は考えるのでありますが、では「皆さん子供を産みましょう。」と言ったところで、オギャーと生まれた子供が高校生になって、鉄道利用者になるまでには15年かかりますから現実的ではありません。そこで私が考えたのは「交流人口」を増やすということで、つまりは、観光客にいらしていただくことで、地域の人口が不足している分を補えるということなのです。

 

ところが、千葉県というのは東京の隣にありますから、観光のお客様が大変多い。でも、秋田や鳥取になったらどうなのでしょうか。

由利高原鉄道の春田社長さんが私の顔を見るたびに、「鳥塚さん、千葉県は良いよなあ。秋田なんてね、日帰りの観光客はいないんだから。」というのですが、全くその通りで、秋田県や鳥取県は、悪口をいう人から言わせると、20年後には消滅していると言われるところですから、観光客で交流人口を増やそうなどということは、そう簡単にできるものではありません。

そういう地域で、一生懸命頑張っている春田社長さんや山田社長さんは、私に比べたらはるかに大変なご苦労をされているわけですから、私は頭が下がることしきりなのですが、その鳥取県の若桜鉄道が何をやっているかと言えば、「地方創生のための社会実験」と称して、蒸気機関車をコンプレッサーで動かして、沿線地域に汽笛を響かせたのです。

 

若桜鉄道の社会実験は「こちら」 (←ここをクリックするとサイトに飛びます。)

 

そして、これが成功したと思ったら、今度は蒸気機関車をピンクに塗ってしまいました。

 

鉄道ファンの人たちからはいろいろ言われているのでしょうけど、そういう鉄道ファンの人たちが落とすお金は大した金額ではありませんから、つまり、声が大きい割には良いお客ではないわけで、だったら、「かわいい!」と言ってもらえるお客様の方がありがたいお客様ですから、需要にお応えして、ピンクの蒸気機関車が駅の構内で行ったり来たりして、家族全員で楽しめる。

それも、終点の駅の構内ですから、そこまで行かなければならないような仕組みなんですね。

 

秋田県の由利高原鉄道の春田社長さんなんかはもっと大胆で、手作りの車両を乾電池で走らせてギネスに挑戦! なんてことをやってのけました。

非電化区間に電車を走らせたようなものですね。

それも、埼玉県の川越工業高校の生徒さんたちが参加して、世界一の記録を達成したんです。

 

 

 

SL走行社会実験も、エボルタ乾電池のギネスに挑戦も、実際に列車が走る線路に、「今日は列車は走りません。」と宣言して行ったわけで、つまりは高速道路だって閉鎖して車が来ないようにすれば、マラソンだってウォークだってできるわけですから全然問題ないんですが、鉄道会社はそういう発想をしてこなかったわけです。それを公募社長がやったのですから、私はこの2人は「すごい人たち」であって、「ナイスガイ」だと思うのであります。

 

つまり、潜在需要の顕在化をやったわけですから。

鳥取や秋田だって十分に可能性があるということを示されたのです。

 

世の中には悪口をいう人はたくさんいますから、「そんなイベントやったって意味がない。」と言われているかもしれませんけど、今までやってこなかったことをやって、それもほとんどお金をかけずに、そして、全国区に知れ渡るようになったわけですから、私はこの情報発信の時代に、ローカル線が大きな役割を果たせる可能性があるということを2人が証明したと考えています。

 

だから、今の地方創生の時代に、この2人はものすごい価値を地域に与えたと考えるわけで、それに比べると、東京から1時間の千葉県で、たくさん観光客にいらしていただけるいすみ鉄道で私がやっていることなど、大したことじゃないんだろうなあ、と思うのであります。

 

そういう時に一つ心配になることがあります。

それは、「2人ともきちんと評価されているのだろうか?」ということ。

 

株式会社なんだから儲からなければならない。

その理論で行けば、私はもちろん、山田さんも春田さんも評価が低いんだと思います。

だって、「利益が出ていないじゃないか。」と言われれば、そうなんですから。

まして、評価をしていただく人たちはあくまでも沿線地域の人たちですからね。

沿線外で、あるいは全国的に見て、その鉄道がどのように見られて、どのような評価を受けているかなどということは関係ありませんから。

 

 

せめてもの救いは、この方がきちんと評価してくれているということです。

全国の地方創生の現場をくまなく見てこられた方が、「地域の宝物だ。」と言ってくれたのですから、それが私たちの勲章です。

 

そろそろ決算時期が近づいてきましたので、大切な仲間のことが心配になる今日この頃です。

 

人の心配している場合じゃないんですけどね。

 

寅さんじゃないから、「奮闘努力の甲斐もなく」じゃなくて、奮闘努力の甲斐がありますように。