リーダーというのは全体を把握しなければなりませんから、自分が1スタッフとなってチェックインカウンターで働くことはダメですと、かつての職場で上司から言われた時、私は、自分も長年チェックインカウンター勤務をやってきたので、チェックインカウンターでお客様のお相手をするのが私にとって「Confort Zone」であることに気づきました。
だからあえてその仕事は自分ではやらずに、チームのスタッフに任せること、つまりConfort Zoneを出ることが、私にとっての「努力」だと思ったんです。
自分でやってしまえば早いんですが、それでは誰も進歩しないし、組織としての前進もありません。
普通の人にとっては、会社に勤めているときでさえ、ある程度の年齢になると「Confort Zone(居心地の良い場所や仕事)」がどんどん広がって、ともすれば一生懸命仕事はしているけれど、努力していない状態になるわけです。
ちなみに、今、私はいすみ鉄道で列車に乗務したり、レストランの手伝いをしたり、イベントに出かけて行って売り子をやったりしていますが、これは、人が足らないから自分が行くという理由ではなくて、お客様と直接に接することで、売れ筋商品や売れ筋価格帯、お客様の好みなどがよくわかるということと、もう一つは、自分をブランド化することで、いすみ鉄道のブランド力を上げようと考えているからです。
イタリアンランチクルーズや、伊勢海老特急「お刺身列車」などは、私が乗らなくても大丈夫な運用になっていますが、私が乗ってワインを注いだりいろいろなサービスをするとお客様が喜んでくれますので、時間があるときはできるだけ乗りたいと考えているからなんです。
4月26日から交通新聞社が行う台湾鉄道三昧の旅も、「いすみ鉄道社長が企画した」と冠がついていますから、告知からわずか数日で完売したと言っていただいてうれしい限りですが、自分自身をブランド化していくということはそういうことで、これって私にとっては決して「Confort Zone」ではなくて、チャレンジですから「努力」だと思っています。
でも、その努力は苦痛ではなくて、楽しい努力なんですね。
さて、話を前に戻しましょう。
全国各地の田舎で行われているような「町おこし」の例にみられるように、頑張っている割にはなかなか結果が出ないときには、一体どうしたらよいのでしょうか。
皆さん、その点が乗り越えられない壁と考えられていて、苦労しているのでしょうし、それが無駄な努力につながっているんですが、1つだけ簡単にその壁を乗り越えられる方法がありますのでお教えいたしましょう。
それは、「PDCAサイクルに従う。」ということです。
PDCAサイクルというのは、会社に勤めていて企画の仕事などをやっている人や、組織で会議を主催する立場にある人には常識のお話なんですが、田舎での会合に参加していると、そういう知識が全くない人たちが集まって、喧々諤々やっていることが多く、物事が決められない構造が蔓延していることに気づきます。
そういう組織では、このPDCAサイクルに従って行動するという基本ポリシーさえ守れば、今までの会議が嘘のようにはかどりますし、どんどん物事が前に進むようになるのです。
P:Plan(計画)
D:Do(実行、行動)
C:Check(検証、点検、評価)
A:Act(処置、改善)
これが物事を前に進める時の原則なんですね。
この4つを紙に書いて、会議室のホワイトボードに貼ります。
そして、今日の会議は、その4つのうちのどの部分なのかということを全員で確認してから会議を始めるんです。
ただそれだけのことなんですが、わけのわからない人たちが集まると、これがなかなかできないんですね。
今日は「計画」の話をしているのに、「そんなこと言って失敗したらどうする? だったら止めようよ。」と言う人が出てきたりします。
でも、それは、Cの「検証」の時に話すことで、失敗しないような計画を立てることが今日の会議の目的ですから、そういう意見は今日する話ではないんです。
計画が十分に出来上がって、いざそれを「実行」しようという時になって、「いや、そのやり方はよくないよ。」というような意見も出てきます。
でも、もうその段階は過ぎていますから、「今日はそういう話はできませんよ。どうやったらうまくできるかを話し合うんです。」と誰もが理解できるようになります。
そういう癖をつけていくとこで、物事が前に進む組織になります。
そして、物事が前に進みだせば、1つ1つ結果が出てきますから、その結果を見て「反省」したり「改良」したりして、それを実行していくと、だんだんレベルアップしていくんです。
このやり方を一つずつ小さいところから進めていく習慣がつけば、どんどん大きなプランもできるようになりますし、そうすれば結果が出せる組織になっていきます。
こういうことがとても大事なんですね。
そして、これは会議だけではなくて、サラリーマンが自分の仕事を行う上でも効率的に働く基本になることでもありますから、毎日の仕事にもこの考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。
さて、実は、今、いすみ鉄道の応援団がとても元気がよくて、どんどん物事を決めて先に進めていく体制ができています。
タコ飯もそうですし、ポップコーンの販売もですが、一つのことを形にすると、また次のことを計画して、それを実行していく。
2年前に「みんあでしあわせになるまつり in いすみ」を応援団主催で初めて開催した時に、周囲の人は「そんなことできるわけないよ。」「やれるものならやってみな」と、自分では何もやろうとしないのに、がんばろうとする意志がある人たちを批判ばかりしていたんです。
こういう感情的で他者排斥傾向がある田舎の環境の中で、応援団の人たちは、このPDCAサイクルを取り入れて、実行委員会を行い、資料を作って、時間軸に沿って、「いつまでに何をやる」というように計画的に進められて、結果としてお祭りは大成功したのですが、そのことをきっかけに、応援団という組織がとても大きく成長したのです。
なぜ、応援団がそういう組織なったのかというと、それができたのは、応援団にふだん東京でバリバリ仕事をしている50前後のスタッフが何人もいて、彼らが、会社でやっているやり方を応援団に持ち込んで、企画会議を開くときなど「都会流」のやり方、簡単に言えばPDCAサイクルで進めているからなんです。
お客様は都会からくる方ですから、都会流のやり方でサービスを進めていくことさえできれば、ピンポイントで的を得た、お客様に喜ばれるサービスを、そんなに苦労しなくてもできるようになる。
それが、応援団が急速に活動の場を広げている理由なんですね。
もちろん掛須団長にはそんなスキルはないと思いますが、彼は自分がそういう能力を持ち合わせていなくても、そういう能力がある人を上手に使う能力がありますから、リーダーとしてはそれで充分なんです。
田舎の人はのんびりとして、良い人がたくさんいます。
でも、その人の好いおじさんやおばさんたちでは、正直申し上げて廃れてしまった街をどうすることもできないというのも事実です。
そういう時は、いすみ鉄道が公募社長という「代打」を起用したように、応援団にも「助っ人」がたくさんいますから、私は、そういう人の力を借りるのが、町を活性化する最速の方法だと思います。
ところが、そういう代打や助っ人は、基本的には「よそ者」ですから、田舎の人たちから見ると、「なんだあいつらは」と気分的に許せない人も出てくるし、面白くないんですね。
自分でできないことをできる「よそ者」の人たちに対して、気分的には面白くないというのが、まさしく田舎の人の「Confort Zone」ですから、そこを乗り越えない限りその町に未来はありませんし、それが田舎の人にとって見ると、「努力する」ということなんです。
今月の27日に国吉駅近くで第3回目の「みんあでしあわせになるまつり in 夷隅」が開催されます。
今年は第3回目ということで、応援団の手を完全に離れて、実行委員会の運営からすべてを地元の人たちが主催しています。
いすみ鉄道は一切運営には絡んでおりませんが、JR千葉駅の構内にもこのお祭りのポスターが貼ってありますから、かなり一生懸命に外への「営業」を行っているようです。
PDCAサイクルで言えば、すでに「D」の部分に入っているようですが、そろそろ「C」を話し合って、お祭りの前に、ある程度の検証と修正が必要な時期ではないかと考えます。
個々の運営は地元の元気な皆様がちゃんとやるでしょうから、尋ねられない限り私は口を挟まないことにしていますが、とりあえず、「PDCAサイクル」なんです。
コンサルを使ったり、夜の勉強会を開いて中身のない頭をいくら寄せ集めたところで結果は出ませんから、そういうことは「努力している」とは言わないんです。
都会の人を相手にするなら都会人と同じようなスキルを身に着けなければといって、今から東京へ勉強しに行くわけにもいきませんし、そんなことをしていてもビジネスチャンスは逃げてしまいます。それよりも、自分にできないことができる力を持っているよそ者の力を上手に使うことが、今、田舎の人たちがやるべき最良最速の方法であって、それが「努力する」ということなんですから、そこんとこ、お間違えの無いように。
もっとも、PDCAサイクルさえ守っていれば、たとえ間違えてもいくらでも軌道修正できるんですがね。
おそらく、いすみ鉄道沿線はいろいろなものが今後急速に動き出すと思います。
でも、その動きについてこられる人と、ついてこられない人が、はっきりと分かれる時期を迎えることになるでしょう。
「Confort zone」を出るという意味では、ついてくる人とついてくる意志がない人といったほうが良いかもしれません。
町おこしというものはそういうものです。
「朝ですよ!」と声をかけてすぐに起きる人もいれば、いつまでも寝ている人がいるのと同じように、気付いて動き出す人と、いつまでたっても動き出さない人に分かれるのは無理もないことですし、今までは「みんなで一緒に頑張ろう。」と掛け声をかけてきたけれど、起きない人が起きるのをいつまでも待っていることは時代が許しませんから、先に起きた人からどんどん動き出すしかないんですね。
私がいすみ鉄道に来て5年ですから、私自身もいすみ鉄道のビジネスを次のステップに進めなければなりません。
そんな時、私は自分から気づいて、気分から行動する人たちとだけチームを組んで動いて行こうと考えています。
いすみ鉄道についてこようとお考えの方は、とても「努力」が求められます。
でも、私をご覧いただければお分かりのように、「努力する」ということは、毎日楽しく過ごすということですから、つまり、やる気があるかないか、そして、やるかやらないかだけなんですね。
皆様方のお手並み拝見と行きましょうか。
(おわり)
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