要らないものを売る商売

私は商売というのは大きく分けると「必要なものを売る商売」と「要らないものを売る商売」の2つに分かれると思います。
皆さんがこれから商売を始めるとしたら、どちらの商売をなさいますか?
こういう質問をすると、たいていの人は「必要なものを売る商売が良いでしょう。」と答えられると思いますが、私はそうは思いません。
本日のブログは、それはなぜか、ということのお話です。
いすみ鉄道は地域交通として長年頑張ってきました。
昭和63年に第3セクター鉄道として誕生してから、25年以上の間、地域の人たちの足として頑張ってきたのですが、例えば少子高齢化による人口減少や、自動車の普及などにより、地域交通としては、そのままの状態では立ちいかなくなってしまいました。
これは、何もいすみ鉄道だけに限ったことではなく、全国的に見て、地方鉄道が直面している現実であるわけです。
そこで、公募社長として、私は、いすみ鉄道の地域交通としての面はそのままにして(地域のお客様を増やす努力は一切せずに)、もっと即効性のある営業展開の一つの手段として、観光鉄道化を行い、地域の外からこの鉄道に乗りに来ていただくことで、鉄道の経営改善をするばかりでなく、地域そのものの経済に少しでも貢献できるのではないかと考えました。
こういう私のやり方に対して、地方鉄道、つまりローカル線に深い愛着を持つ鉄道ファンや、地域鉄道を研究している人たちからは、
「あいつのやり方は邪道だ。」とか、
「あいつがやっていることは本来のやり方ではない。」
といった言葉をたくさん頂戴いたしましたが、私から見ると、そういう人たちに共通しているのは、「ローカル線を何とか存続させなければならない。」という立場にない方々の机上論であるということと、「商売を知らない人たち」の講釈でありますから、私は何を言われても「はあ、そうですか。」と受け流してきているわけです。
本日のブログタイトルを見て、ここまでお読みいただいただけで、賢明なる読者の皆様、勘の鋭い方でしたらすでにお判りでしょう。
そうですね、ローカル線を地域の交通手段として考える商売は「必要なものを売る商売」であり、観光鉄道として地域外からお客様にいらしていただく商売は「要らないものを売る商売」となりますから、私はいすみ鉄道で「要らないものを売る商売」を最初から展開しているわけで、そうすることで需要を開拓し、売り上げや業績が伸びてきているのです。
商売をやってらっしゃる方も、そうでない方も、ではどうして「要らないものを売る商売」がよいのかということが不思議だと思いますので、私なりの考え方をごく簡単にお話しさせていただきましょう。
まず、必要なものとはなんでしょうか。
毎日の生活に必要な食料品や衣料品などがすぐに思い浮かぶと思いますが、そういう商品を扱う商売は、今、どういう環境に置かれているでしょうか。
基本的には、価格で勝負する商品がほとんどで、いくら良いものを作って提供したとしても、価格で負けてしまえば商品が売れませんから、商売ができないという環境にあると思います。
これを克服するためには、いわゆるスケールメリットを生かして大量仕入れ、大量販売をしていくことが求められるわけで、地域の昔からの商店街が、郊外型の大型量販店に駆逐されていく。そして、その大型量販店でさえ、さらに大型のチェーン店や無店舗販売のインターネットなどに駆逐されていくのが世の中の流れです。
毎日使う食料品や衣料品以外でも、家電製品や、最近ではパソコン類なども、十分に世の中に普及してきましたから、生活必需品になっていますので、買い替え需要が主で新規需要が取り込みづらくなっています。
例えば冷蔵庫やエアコンを買う場合でも、メーカーごとの性能の差よりも価格で決める場合が多いでしょうし、外国産や新興メーカー品で価格が安いのが心配な人の購買動機は、例えばアフターサービスが充実しているかといった、商品が持つ性能や機能以外の部分で購入の意思決定をしていることになります。
これが、「必要なものを売る商売」が直面する現実で、ハンバーガーショップも、牛丼店も、どこもみな厳しい商売をされているわけです。
これに対し、「要らないものを売る商売」はどうかというと、ブランド品などに見られるように、その商品に何らかの付加価値をつけることができれば、価格競争をしなくても十分に商品を売ることができるし、スケールメリットを生かす必要もありませんから、小資本でも立派に生きていくことができる商売ということになりますが、よく見ると、いろいろなところにそういう商売が隠れているのがわかります。
隠れているというのは、皆様方が気づかないということですから、私はそこに大きなビジネスチャンスがあると考えて、いすみ鉄道は観光路線として立派にやっていかれると確信していたのです。
2009年の就任当初、私が国吉駅のホームに立って、「ここにはお金がたくさん落ちていますね。」と言ったのは、そういうことなのです。
(つづく)