「面倒くさいから」 が見え見えの 「あけぼの」 の廃止

伝統のフルートレイン「あけぼの」が来春廃止されることが決まったようで、JRが正式発表していないのに地元の新聞や一部の鉄道ファンが、このところあちらこちらで話題にしています。
「あけぼの」は乗車率が低迷しているとして、ここ数年、ダイヤ改正の度に廃止のうわさがささやかれていたのですが、ついに本決まりのようです。
私が不思議でならないのは、ふつう、商売というものは、商品の売り上げが低迷していれば、売る側としてその商品に何らかのテコ入れをするはずなのに、鉄道会社は旧態依然とした列車をそのまま走らせているということ。
だから、寝台特急は、時間では飛行機にかなわず、料金では高速バスにかなわず、サービスではビジネスホテルにかなわず、商品としてどの角度から見ても魅力が無くなっているのですが、だからといって利用者が本当にいないかというと、実はそうでもないんです。
事実、10月の初めに「あけぼの」の寝台券を取ろうとしたら、平日にもかかわらず、数日間連続して「満席です。」と言われ、乗車をあきらめた経緯があります。
その時は廃止される発表の前でしたから、鉄道マニアが物見遊山で乗車するブームは到来していませんでしたが、私が取ろうと思ったのは「個室寝台」で、ふつうのB寝台ならいくらでも空いているといわれました。
このことは、A寝台や、B寝台の個室なら充分に利用者がいるということを意味していて、個室である程度のプライバシーが確保できるのならば、やっぱり鉄道でゆっくり横になっていきたいという需要が、一晩に50人や100人程度ならいるということだと思います。
その50人か100人の需要をどう考えるかだけの問題なんですね。
だから、人気のない、個室でもないふつうのB寝台を連結しておいて、乗る人がいないのはお客様の需要がないからだ的な言い方をしているようにしか聞こえないのが理解に苦しみますし、第一、個室でもない普通のB寝台って、今の時代どうなんでしょうねえ。と思うのです。
40~50年前であれば「走るホテル」ともてはやされた時代もありましたが、いまどき乗車券と特急券の他に6300円も出してふつうのB寝台に乗る需要があるとは思えない。
昨日も話題にしましたが、地方都市の駅前にある新しいビジネスホテルのシングルルームがそれ以下の値段で朝食までついている時代に、2000~3000円ぐらいならともかく、B寝台料金を国鉄時代から同額の6300円(税込)で放置している現状を見ると、鉄道会社は、この寝台特急という商品に対して何もする気はないことがわかるわけです。
同じ列車でも、個室寝台は多少高くても、A寝台個室を含めて連日満席の状況にあるわけですから、航空会社出身の私としては、飛行機がファースト、ビジネス、エコノミーの座席配分を路線需要によって変えているように、需要のある「個室寝台」や高速バスに対抗できる「ごろんとシート」をもっと連結して、昔ながらのB寝台の数を減らすか、B寝台料金の改定をするなど、まだまだやることはあると考えるわけです。
(だいたい、「あけぼの」のゴロンとシートってB寝台はそのままで枕と浴衣と掛布がないだけのもの。これが指定席料金で乗れてしまうのですから、B寝台の6300円は何なのでしょうかね。商品としての価格付けに整合性が見られないから、だったらB寝台は全部ゴロンとシートで良いんじゃないですか、と思うのは私だけ?)
コンビニなどでも売れ筋商品をどんどん揃えて、売れない商品は棚から下げるなんてことはあたりまえに行われているんですけど、鉄道会社の場合はこういったお客様側の需要に合わせることなく、車両改造ができないからなど、自分たちの都合で昔ながらのB寝台車を長々と連結した列車をただ走らせておいて、「乗車率は3割以下ですから」と廃止するデータを集めて、「仕方ないでしょう、乗らないんだから。」と言っているのがやり方で、それはなぜかというと、一言でいえば「新幹線があるから」なんですね。
つまり、深夜に延々と長距離列車を走らせて、途中の、営業的には全く関係ない駅で機関車を交換しなければならなかったり、営業路線と全くかけ離れた地域にある車両工場で車両の整備をしなければならなかったり、夜行列車には「面倒くさい」ことがたくさんあるから、「だったらやめましょう」。そのためには数年間このままで走らせて、「ねっ、だから言ってるでしょう。あなたたちは乗らないんだから。」と沿線地域を納得させる必要があるわけで、これが国鉄時代に赤字ローカル線を次々に廃止してきた鉄道会社の業務スキルなのです。
でもね、私は思うんですよ。
新幹線があるからブルートレインはもういらないと、同じ会社の中でそう考えるってことは、利用者にしてみたら、「飛行機があるから新幹線はいらない。」ってことと同じことだし、「高速バスがあるから新幹線はいらない。」ということにもなるわけで、鉄道会社の人たちが自分たちのプロダクツの中で取捨選択する以上に、利用者はもっとシビアな目で交通機関そのものを取捨選択しているわけです。
それともっと大事なことは、この「あけぼの」の廃止で鉄道会社が秋田地域に対してどういう輸送計画を持っているかは別として、これからの時代、日本は人口減少が始まっていますから、秋田だって今の状態がいつまで続くかわからないわけで、秋田の友人と話をしていると、「人口減少の時代に入り、あと数年で秋田県の人口に匹敵する人間が日本からいなくなる。下手をすると秋田県そのものがなくなってしまいかねない。」と、彼が言うには秋田県民が一番危機感を持っているというのです。
だから、新幹線だって今の形でいつまで必要かわからないわけですから、その新幹線しか武器を持たない鉄道会社は極めて危うい状態だということにできるだけ早い段階で気が付かなければならないのです。
そして、もっともっと地元に密着したいろいろな商品の品ぞろえを行わなければいけない。
そんなことは、どんな商売も、基本中の基本なわけですからね。
高速バスも、飛行機も、あっという間に撤退することができますが、新幹線は延々と続く高規格の線路設備を完璧な状態で維持していかなければなりません。
その地域から逃げることはできないのです。
でも、線路設備が地域に密着しているというのに、営業の考え方が地域に密着しているように思えないのは、私の気のせいなのでしょうか。
とりあえず、「あけぼの」は週末か多客期ぐらい走らせましょうよ。
そういう需要なら十分あると思うのですが。
えっ? 一晩かけて列車を走らせていると、満席になったとしても黒字にはなりませんか?
ということは、やっぱり「面倒くさいから」ということになりますね。