新幹線か飛行機か。

お盆で帰省中の皆様や、夏休みを取ってどこかへお出かけされていらっしゃる方もたくさんいらっしゃると思います。
そういう皆さんは、今頃、こんどは都会へ戻るためのラッシュや大渋滞に遭遇していらっしゃることでしょうから、新幹線は大混雑で、飛行機は満席。そして車は高速道路の大渋滞と、あちらこちらで七難八苦に遭遇されていらっしゃるのではないかと思います。
私は、20代のころから成田空港に勤務していましたので、昔からこの時期にどこかへ出かけるということはなくて、だいたいいつも、旅行されるお客様のお手伝いをさせていただいておりました。だから、年がら年中いろいろなところへ出かけていながら、満員の新幹線に乗ったこともなければ、大渋滞の高速道路でイライラした経験もほとんでないんです。
新幹線で行くか、飛行機で行くか、はたまた高速道路を走るかは、皆さんそれぞれの嗜好傾向があると思いますし、それぞれに便利なところや不便なところがあると思いますが、飛行機大好き人間で東京から山形へ行くのでも当然のように飛行機に乗る私がお勧めするとすれば、国内旅行であっても、飛行機が飛んでいるところならば、やっぱり飛行機が良いんじゃないかと思います。
この間、秋田で若い新聞記者の方とお話をしていた時のことですが、その方は東京へ行くのは必ず新幹線で行くといいますので、「どうしてですか?」と尋ねたところ、答えを聞くに、もともと飛行機という選択肢が無いようなんですね。
秋田から新幹線で東京まで約4時間かかります。
この4時間という距離は、空港からの移動時間を考えても、統計的には飛行機に軍配が上がる距離です。
ということは、新幹線に乗るとしても「どちらにしようか。」と半分ぐらいの人は飛行機というオプションを考えると思うのですが、その若い新聞記者の方には飛行機という選択肢がなかったのです。
「社長はどうやって秋田に来られましたか?」と聞かれましたので、「飛行機ですよ。」と答えたところ、「やっぱり、航空会社出身だから、飛行機がお好きですね。」というお返事ですから、私は驚いたんです。
飛行機が好きとか嫌いとかじゃなくて、新幹線で4時間かかる秋田なら、当然飛行機でしょう。飛行機なら日帰りだって楽勝ですが、新幹線で4時間ということは往復で8時間乗るわけですから、日帰りできないわけはないけれど、現実的じゃありません。
そういう若い年代の方でも、まして新聞記者というインテリに属する方でも、飛行機という選択肢がないのは私は衝撃的だったんですが、逆に言えば、そのような地域では、鉄道会社は実においしい商売をしているんだろうなあとも思うわけです。もっとも新幹線を引くという設備投資やその維持管理を考えると、鉄道会社は「おいしい商売」とは決して言わないと思いますが。
人間というのは、損しているときは「大変だ、大変だ」と言いますが、儲かっている人は黙っていますから、あっさりと新型車両に置き換えた秋田は儲かっていると私は見ていますが、まあ、そういうことは今日の話題ではなくて、たとえ東京―大阪の距離であっても、飛行機の方が楽々移動できますから、何も考えずに決まりきったように新幹線を選んでいる皆様も、たまには飛行機を選択してみたらよいと思います。
その理由はいろいろありますが、まず、飛行機には自由席なんてありませんから切符が手に入るということは、必ず座れますし、大きな荷物を持っていたとしても、出発空港のカウンターで預けちゃえば良いし、何といっても移動時間が短いから、サッと到着します。
お盆のような時期は、かなり早くから予約をしなければ座席の確保が難しいですが、お盆時期に帰省や旅行をされる方は、ひと月以上も前からピンポイントで「この日」と決まっている皆さんでしょうから、出張などの業務と違って早くから予約に対応できると思いますので、飛行機が就航している場所へはやっぱり飛行機の方が良いんじゃないでしょうか。
荷物を持って空港まで行くのが大変だよ、という方もいらっしゃるかもしれませんが、それだったら新幹線の駅へ行くのも同じだと思います。
目的地の駅についても、改札口まで新幹線は遠いですね。
駅のホームに荷物を載せるカートはありませんから、旅行かばんやお土産袋など自分で抱えて改札口まで歩かなければなりませんが、飛行機ならばカウンターで手ぶらになれば、ゲートまでは身軽になって歩いていけばよいですし、目的地に到着したら、荷物を受け取るところからバスや車に乗るところまではカートをガラガラと押していけばよいわけです。
だいたい、新幹線の電車って300メートルぐらいの長さがあって、地方の駅だと出口へ向かう階段は中央部分だけですから、下手をすれば電車を降りてからホームの階段までの間にすでに100メートルもすべての荷物を持って歩かなければなりません。階段にたどり着いてもエスカレーターが付いているのは片側だけで、バリアフリー対策のために形ばかりの後付けエレベーターはあるものの、小さくて降車客には使い勝手が悪く、だいたい良い若いもんがエレベーターに乗ろうとしたら、白い目で見られる、そんな程度のエレベーターでしかありません。
改札口に到着しても、自動改札は荷物をいっぱい持った人には利用しづらいし、1か所の有人通路は一度にお客さんが殺到する列車の到着時には助けてもらいそうにありません。
そうやって列車のドアから数百メートルかかって改札口を出るとしても、たいていそこは地表ではなくて2階ぐらいですから、さらに階段があるわけで、タクシーやバスに乗るために、また数百メートルの区間を歩かなければなりません。
乗り物としては飛行機よりも「人にやさしい」ハズの鉄道が、実はホームにたどり着くまでの区間は人にやさしくない。つまり、列車にたどり着くまでのハードルが意外に高くなっていると私は感じているのです。
その点、空港はバスやタクシーはたいてい出発階、到着階に発着し、降りたところに荷物を載せるカートがあって、同じフロアーで搭乗手続きができて、地方空港でも、その後、出発フロアーへはエスカレーターですから、段差もなければ遠回りもありません。
出発前にはお土産物を買ったり、飛行機を見ながら食事をしたりと、新幹線よりもなんとなく優雅ですし、手荷物検査はありますが、最近ではいろいろと工夫がされていますから、それほど時間がかかるものでもありません。
そして、機内に入れば、きれいなお姉さんがニコニコ笑いながら飲み物をサービスしてくれますし、飛行機によっては有料のところもありますが、せいぜい100円か200円です。
これに対して、新幹線だと、サービス業としての基本的教育を受けたのだろうかしらと思うような強面(こわもて)のおじさんが、「乗車券、特急券を拝見」とやってくる。寝てようが、弁当を食べてようが、そんなことはお構いなしで、手分けして順番に検札しないと次の駅までに終わらないから、という自分たちの都合だけで片っ端から「切符を拝見」って感じです。
検札というのは、「お客がちゃんと切符を買っているかどうか。」と疑ってかかっている証拠で、新幹線の車内にたどり着くまでに、在来線から乗り継げばすでに2回も切符のチェックを受けているわけですから、車内検札をするぐらいなら、外国のようにホームへの入場時に改札口を設ける必要はないと私は思うのですが、自分の敷地に立ち入らせるのだからと、昔ながらのお上の縄張り意識そのものが、サービスだと思っているから不思議ですね。
ということで、私は飛行機派なんですが、では、この間のように悪天候のときはどうかというと、新幹線派の人は、「鉄道の方が悪天候に強い」と思っていらっしゃる。
でも、本当にそうなのかなあ。
昔は鉄道は悪天候時でも最後まで動いていましたが、今は、特に在来線は、沿線の高速道路が閉鎖になる前に止まることが多いように思います。
東京から秋田へ行くときに、新幹線だと、例えば田沢湖から大曲のあたりが大雪で列車の中に缶詰にされることもあるかもしれません。
1つの列車がそこで立ち往生してしまうと、対向列車や後続の列車も次々と影響を受けることになります。
でも、飛行機ならば、羽田空港周辺と秋田空港周辺が飛行可能であれば、途中でどんなに天気が悪くても問題ないんですね。
そして、私が一番嫌うのが、途中で足止めを食らって、狭い車内に缶詰にされることですが、飛行機の場合は、いつまでも飛んでいることはできませんから、目的地に降りられなければ、さっさと引き返してきます。
航空会社は過去の教訓から、代替空港に着陸して機内で長時間缶詰めになることは極力回避するようにしていますので、電源が落ちた車内に一晩缶詰めになる鉄道とは、悪天候時も対応が違うわけです。
秋田県ばかりじゃなくて、青森県の友達の話を聞いていても、たぶん、青森も飛行機という選択肢がないと思います。
「東京へ行くときは何で行きますか?」と質問してみると、「???」という顔をします。
話を聞いてみると、新幹線で行くのが当たり前で、飛行機で行くという選択肢がない。
青森―東京間は3時間20分ですから、秋田よりも新幹線を選ぶ人が多いとは思いますが、選択肢に入っていないというのが興味深いんですね。
不思議なことに、どちらもそれぞれの県に2つ空港があって、ほとんど無料に近い料金で車を停められる駐車場が用意されているにもかかわらず、「飛行機で行く」という発想がないんですね。
岩手県、宮城県は東京への交通機関として飛行機の便が廃止されて久しいですから、新幹線となるのは当然ですが、秋田、青森の距離感から言えば、飛行機という選択肢の発想がないのがとても不思議なんですが、「ああ、上野駅」の歌を思い出せば、この地域の人たちは、「おら、東京さ行くだ。」となれば、当然、鉄道というのが昔からの常識なのかもしれません。
そういう地域は鉄道会社にとって見たら本当にありがたい地域で、反面、航空会社にとって見たら実に厳しいという地域です。
だから、例えば秋田空港への航空便は昔はジャンボジェットが飛んでいたものが、今では中型機になっていますが、反面、新幹線はどんどん本数が増えています。
航空会社は、そういう空港に対しては「では、小さな飛行機にしましょう。」とか、「本数を減らしましょう。」あるいは最悪の場合、「撤退しましょう。」と言って、簡単に飛行機を他の儲かる路線に向けて飛ばすことができますが、新幹線の場合は、設備投資した線路はそこから動かしようがありませんから、他へ持っていくことはできません。
そう考えると、鉄道会社はよほど真剣にその地域に貢献する姿勢を見せないと、地域にそっぽを向かれたら終わりなわけですが、「走らせていること」すなわち地域貢献だと思っている節もちらちら垣間見えますから、サービス業の基本ができていないと私は思うわけです。
今でも地域を挙げて新幹線待望論を主張しているところもあるようですが、新幹線と引き換えに並行在来線を背負わせられるなど、負担やリスクはあまりにも多いということが、新幹線を持った瞬間にわが身に降りかかります。
だったら、私としては空港をもっと整備して、LCCを呼ぶ方がリスクも少ないし、手っ取り早いと思うのですが、田舎へ行けばいくほど「飛行機は特別の乗り物」という感覚が残っていて、そういう特別な乗り物に補助を出すということが受け入れられないのかもしれません。
LCCがたくさん就航して、せっかく便利になってきているのですから、そういうLCCも含めて、航空需要を開拓し、育てていった方が、私は地方の活性化になるんじゃないかなあといつも思うのですが、皆様はいかがお考えでしょうか。