鳥さんの評価

この間、前の職場の同僚と飲む機会がありました。
彼は私より一回り近くも年下で、エアラインマンとしての心構えの初歩から私がみっちり仕込んだ男。
その彼が、こんなことを言うのです。
「今日は僕がおごりますから、どんどん飲みましょう。」
「いすみ鉄道じゃ、どうせ、大した給料もらってないんでしょう。」
「僕も少しぐらいは経費を使えるようになりましたから、心配しないでください。」
おいおい、お前さんにおごってもらわなくても、飲み代ぐらいは不自由してないよ。
こう言いかえしましたが、何だか立派になった彼の姿を見てうれしく思いました。
「そうか、じゃあ、ごちそうになるか。」
私がそういうと、彼が続けます。
「しっかし、3年でいすみ鉄道をここまでにするなんてすごいですよね。営業で旅行会社を回っていても、よくいすみ鉄道の話が出ますよ。僕にとって、本当に鳥さんは自慢なんです。」
おいおい、そんなに自慢するなよ。
「でも、鳥さんがここまでやってるのに、どう考えても評価が低すぎると思いませんか? どう考えたって本当なら年俸数千万に値する仕事でしょう。」
お前さん、ローカル線という商売を何だと思ってるのかい?
「今、航空業界もいろいろ改革が進んでいて、これからさらにいろんな会社が増えると思います。鳥さんのところに、LCCの社長のオファーなんか来てるでしょう。」
そんな話、来てるわけないじゃん。
「いや、絶対に来ますよ。LCCって運賃は安いけど、職員の給料は決して安くないですからね、そのうち良い話が来ますよ。」
おいおい、俺は3年前に空から足を洗った人間だよ。そんな話は来るわけないし、来たとしたらお前さんにあげるよ。
とまあ、こんな会話が交わされました。
私たちのように、外資系企業が長い人間にとって、その人間の実績を評価するということは、イコール「報酬UP」というのが常識ですから、彼は、当然のようにそう考えるのはよくわかります。
確かに、お金というものは誰でも欲しいものですし、我々が考えるレベル程度の金額(まあ、せいぜい上限10億円ぐらいでしょうか)であれば、いくらあっても困らないものだと思いますが、実は、仕事というものはそんなものではないのですよ。
と、いくら言ったところで、彼にはわかってもらえないと思います。
それが、アメリカ式経済の中に住んでいる人間の考えで、3年ほど前までは私もその中にいたわけですから、彼が言うことを否定することもできません。
でも、今、私がやっている仕事というのは、そりゃ、お金にはならないかもしれないけれど、みんなを笑顔にする仕事で、その笑顔の中心に自分がいるわけですから、これは、最高に幸せな仕事なのです。
まして、地域の皆様方が私を信頼してくれて、「あの社長についていこう。」と言ってくれているわけで、だから、キハ52や28もそうだけど、新型車両だって、こんなデザインに作っちゃうことができるわけです。
そして、この車両はこれから20年も30年も走り続けることになるわけですから、私の仕事は歴史を作って行く仕事なのです。
私の評価?
私がこの世からおさらばした後になって、「バカな社長がこんな車両を作ったもんだ。」と笑っていただければ、それが最高の評価なんじゃないですかねえ。
LCCなんかには行きませんからご安心ください。

[:up:] 新潟トランシスの工場で製造中のいすみ350形。
今年の年末にはいすみ鉄道に到着し、来春から活躍します。
昭和40年にキハ52を作った新潟鉄工所は、この会社の前身にあたります。その新潟トランシスで、40数年ぶりに組み立てられている「国鉄顔」。
「3セクの車両何てどれも同じでつまらない。」なんて言わせませんよ。
この車両はイベント対応のロングシート車。毎日の輸送に使用するとともに、いすみ300形と連結して懐石列車、伊勢海老特急、フォークソング列車などにも活躍する予定です。
昭和の旅を提供するいすみ鉄道ならではの「顔」です。
どうぞご期待ください。
さあて、この次はどんなのが出るかなあ・・・(ひとりごと)