いすみ鉄道の可能性 その3

子どもの頃、勝浦のおばあちゃんちによくいきました。
夏休みになると、両国駅の低いホームから急行列車に乗って、大網でスイッチバックして。
勝浦のおばあちゃんちでは、同じ年頃の子どももいなく、取り立ててすることもないので、バケツを持って磯に行きます。
磯へ行って、小さな貝をいっぱい取ってきて、おばあちゃんにその貝をお醤油で甘辛く煮てもらう。
そして、爪楊枝でつついて食べるのです。
実家は民宿をやっていて、おじいさんは海老網を掛けに、おじさんはポンポン船で漁に出て、おばさんは海に潜ってアワビやサザエを採ります。
そんな環境にいるから、小学校も高学年になると、ごく当たり前に水中眼鏡とイソガネと呼ばれるへらを持って、藁でできた足中という小さな草履をはいて、海に行って潜って遊ぶのです。
そうしている間に、アワビやサザエを採れるようになる。
家が漁師だから、その家のガキが少しぐらい採っても漁協の人も何も言わないわけです。
「今日は大漁だ!」と言いながら家に帰ると、そういう時に限って東京から親父の知り合いが遊びに来ている。
「何を採ってきたんだ?」とかごの中を見せるとアワビにサザエなわけですから、東京から来たおじさんたちにみんな食べられてしまうのです。
子どもとしては、採るのが楽しいだけだから、食べられてしまっても悔しい思いなどないのですが、不思議に思ったのは、「大人たちはどうしてこんな海のもので喜ぶのだろうか?」ということ。
駅前の魚屋に手伝いに行くと、いけすに入った伊勢海老やアワビなんかを高いお金を出して買って、小躍りしながら汽車に乗って帰っていく大人たちを見るにつけ、不思議な気持ちになりました。
あれから40年! (キミマロ風に)
ところが、いざ自分が大人になってみると、肉もいいけれどやっぱり魚。それも伊勢海老やアワビ、サザエ、お刺身にとっても惹かれるようになりました。
そんな私が、今、いすみ鉄道にいらっしゃる人たちにも、房総半島のおいしい魚介類をぜひ召し上がっていただきたい。
そう思って販売を始めたのが大原駅の「伊勢海老弁当」です。
千葉に来るからには、外房に来るからには、どうしても本物を味わっていただきたい。
少し値段は高めだけど、せっかく来たのだから、まやかしではなく本物を楽しんでいただきたい。
「伊勢海老弁当」はそういう気持ちで販売を始めたのですが、やっぱり、というか思った通りご好評をいただけるようになりました。
そして、次のステップとして、いすみ鉄道で昭和の旅をお楽しみいただいた後は、是非、外房の海産物を味わっていただきたい。
できれば1泊して、海岸沿いの宿で、波の音で、朝、目が覚める感覚を味わっていただきたいと思うのです。
昔は、田舎では冷蔵庫も満足にありませんでした。
そんな時代、おばあちゃんは夕ご飯に残ったお刺身を醤油につけて取っておいて、朝、サッと焼いて出してくれます。
伊勢海老の殻を取っておいて、朝、それで味噌汁を作ってくれます。
そういう朝ごはんを皆様にも食べていただきたい。
残り物でもこんなにおいしくいただける。
そういうお金をかけない贅沢を味わえるのが外房の旅だと思います。
だから、いすみ鉄道沿線には都会の人が楽しめる素材がいっぱい転がっている。
いすみ鉄道には大きな可能性があるというのは、そういうことなのです。
東京育ちでも、半分房総の血が流れている私だから、こういうことが商売になると考えているのです。
(おわり)