がんばれ成田空港!

世が民主党政権に変わったとき、私は成田空港問題がこれでかなり前進すると思いました。
成田空港の反対派と呼ばれる人たちは、過去の経緯を楯に国益を損なうような議論を何十年もしてきたわけですが、自民党が引きずっていた過去の経緯やしがらみを、民主党なら一掃できる。そう思ったのです。
ところがいざふたを開けてみると、国土交通大臣の口から「羽田を国際線のハブ化する」ということば。
これには唖然としました。
当然、千葉県知事も激怒してすぐに当時の前原大臣にクレームに出かけました。
千葉県が国の政策に翻弄されて長年にわたってどれだけ苦労してきたかを考えると、知事の激怒は当然ですし、私も長年成田空港で苦労してきた一人として、「いまさら何を言うんだ!」という気持ちになりました。
でも、産業界では「いつまでも成田がぐちゃぐちゃやっているのなら、羽田で良いんじゃないか。」という意見も以前から出てきていたのです。
空港にとってお客様は誰でしょうか。
まずは飛行機を利用する乗客の方々がお客様です。
皆さんにとってみれば、距離を考えれば東京にある羽田空港が良いに決まっています。
もうひとつのお客様、それは世界中を飛び回っている航空会社ですが、航空会社にとってみても使いやすい空港が良いのです。
羽田は24時間になりましたが、成田空港は運用時間が制限されていますし、着陸料金を含め、各所に問題がありますから、決して使いやすい空港ではないのです。
普通の感覚では、お客様の利便性をどうやったら高められるか、お客様に質の良いサービスを提供するためにはどうしたらよいか、を最優先事項に考えると思うのですが、成田空港の場合、東京からの距離が遠いという不利があるにもかかわらず、お客様である利用者や航空会社に対してのサービスというか利便性が開港以来ないがしろにされてきたのです。
世界中の航空会社が成田への就航を希望し、成田が満杯の時代なら、「他にもお客様はたくさんいますから」と強気の顔もできるでしょうが、景気が悪く経済が下向きなときは一つ二つと航空会社が撤退していきます。
成田じゃなくて羽田ならば集客が見込まれるということで、羽田へのシフトを望む航空会社も多くなるのです。
日本人は世界の側に立って自国を見る訓練がされていませんから、外国人が日本をどう見ているかということに疎いですが、外国の航空会社から見れば、限られた数の航空機をどこへ飛ばせばお客様がたくさん乗ってくれるかという目で、日本を世界の中の目的地の1つとして見ています。
私のいた会社はロンドンを拠点に世界中に路線網を広げています。
15年ほど前までは成田ばかりでなく、福岡、大阪、名古屋にも就航していました。ところが、福岡、大阪、名古屋と徐々に撤退が始まり、現在は成田だけが日本路線です。
では、撤退したその飛行機はどこへ行ったかというと、香港、北京、上海、そしてインド方面へ、経済が元気なところへ路線網を広げているのです。
外国はそういう目で日本を見ているということを考えることもなく、「建設の経緯」にこだわり続け、お客様の利便性を無視した運営を続けてきたのが成田空港なのです。
つまり、国益と引き換えに地元の農民と交渉してきたのです。
牛がお乳を出さなくなるとか、鶏が卵を産まなくなる、だから空港に反対するという100年前の鉄道建設時代と同じような反対運動が今でも平然と行われていて、それによりどれだけの利益が失われていくかということについては、「言ってはいけないこと」になっていたのです。
外国人と交渉経験がある人ならお分かりいただけると思いますが、交渉事では内輪(うちわ)の事情は表に出さないというのが常識です。
自分たちの側の都合は交渉の前にまず自分たちで処理して、解決してから相手との交渉に臨まなければ、外国では相手にされないのですが、成田空港問題は相手に対して自分たちの側の事情を理解してもらうことから始まっています。
経済が上向きで、たくさんの航空会社が成田への就航を希望して順番待ちの状態の時ならいざ知らず、今のような右肩下がりの状況では、「そんな空港に無理して飛ばさなくても良いのでは」という考えになるのです。
成田空港の問題を解決することよりも羽田の国際化を進めることの方が、過去のしがらみもありませんから、国益優先の国の緊急課題としては即効性があり、手っ取り早い方法です。
でも、私は成田空港に20年以上勤務した人間ですし、今でもいすみ鉄道で働いている千葉県大好き人間ですから、千葉県の利益、つまり県益のためにいすみ鉄道同様、成田も活性化してもらい、何とか羽田に負けないように、成田空港に頑張ってもらいたいと心の底から思っています。
そしてそれが国益につながり、日本が世界の中で大きな役割を果たしていくことになると思っているのです。