東京電環の頃

「アキバ1枚。」

昭和の時代の上総興津駅。
子供の頃、私はよく駅へ行っては汽車を見ていました。

夏休みにはおばあちゃん家に行ってました。
でも、1週間もいると海も飽きてきます。
一緒に遊んでくれる友だちはいないし、本家にはハトコに当たるお姉さんが3人いて、かしましい。
「あきら、ち〇こに毛、生えたか?」
とか言われてわらかわれる。
「昔みたいにお姉ちゃんと一緒にお風呂入るか?」とか言うし、男の子がいないから良いように弄られるわけで、当時の田舎はそんなことを言われてゲラゲラ笑われる世界でしたから、とてもじゃないけど家にはいたくない。

ちょっと遠出しようと思って道路を守谷の方に歩いて行って、トンネルを越えて守谷の海岸を過ぎて、次のトンネルの手前までは行ったことがあって、でも、けっこう道路が狭くて怖い目に遭ったので、結局駅に入り浸ることになるわけで、汽車が居ない時間は待合室で切符売り場の様子を眺めているわけです。

「アキバ1枚」

どこかのおじさんがそう言って切符を買っています。
アキバとは秋葉原のこと。
アキバって言うけど秋葉原は「あきはばら」。
略してアキバだけど秋葉は「アキバ」ではなくて「アキハ」。
次の原が「はら」ではなくて「ばら」なのであります。

ひところアキバ系とか言われてましたが、アキバ系だから秋葉原をアキバハラだと思って信じていたのは田舎者で、「あきばはら」などと言おうものなら、「こいつ、田舎モンだ」と笑われるのであります。
結構いたのよ。
特に常磐線方面から来る人たちとか。

新潟の人はちゃんと「あきはばら」と言います。
なぜなら新潟には秋葉というところがあって、「あきは」と読みますからね。

ということで、房総東線(現外房線)の駅の出札口で「アキバ1枚」と言って出てきたきっぷはこれです。

東京電環ゆき

とうきょうでんかんと読みます。

この切符は安房天津発行ですが、

太海で買っても同じですね。

東京へ行くのに急行列車に乗って行くのが当たり前になると、こんな切符が発売されるようになりました。

乗車券と急行券が1枚になった切符です。
この切符を見た時、私の父は怒っていたことを記憶しています。

「なんだこの切符は。急行に乗るのがあたりまえだって言うのか。」

って。
駅員さんにそんなことを言ってもしょうがないと思いますが、当時の国民が国鉄に対する感情って、そんなものでした。

昭和47年7月に外房一周の電化が完成し、東京地下駅が開業。房総東線が外房線、房総西線が内房線に名称変更されると、切符が変わりました。

東京山手線内ゆき

そう、東京電環とは山手線のこと。
電車環状線ということです。

ちなみに山手線は当時は「やまてせん」と呼んでいまして、古い人たちは「やまのてせん」でしたが、いつの頃からか正式名称が「やまのてせん」に変わったのであります。

電化直後の上総興津駅。
特急、急行、快速、普通と列車種別が入り乱れておりました。

房総夏ダイヤ

わずか100kmちょっとの区間に、特急、急行、快速ですから、当時の国鉄の迷走ぶりが見て取れますね。

特筆すべきは急行列車で房総半島の末端区間の館山-勝浦間は普通列車として運転されていました。
これ、列車節約の常套手段で、普通列車は勝浦止まりで折り返しちゃうんですけど、勝浦から先は急行崩れが充当するのです。

両国から乗ってくると勝浦までが急行列車。
私はこれを見て「国鉄は賢いなあ」と思いました。
なぜなら、両国から勝浦は106kmなのです。
両国から大原が93km。
つまり、浪花-御宿間で100㎞を越えるので、急行料金が100円から200円に倍増するのです。

増収を目論んでいた国鉄ですから、抜け目ないですよね。

ということで、1972年7月の電化開業前は上総興津からの急行券でしたが、電化後、急行列車が勝浦からになると、上総興津発行の急行券ですが、急行区間が勝浦からになっています。
どっちにしたって100km超えていれば同じ料金だけど、律儀ですよね。

で、こちらはさらに増収を目論むために設定された特急列車「わかしお」の自由席特急券。

特急は「わかしお」しかないんだから手書きじゃなくて印刷しとけばよいのにね。
あと、なぜか東京とゴム印が押してある。

どうしてだろう。

上総興津から200kmまでで良いのにね。

以前にもお話ししましたが、急行列車は自由席にお乗りいただくのが前提ですから「急行券」であって「自由席急行券」ではありませんが、特急列車は基本は指定席というのが前提ですから、「特急券」は指定席であって、自由席に乗るときは「自由席特急券」なのであります。

このルール、50年以上が経過しても変わりませんけど、今の人たちは運賃と料金の違いも知らない人が多そうですから、少し実情を考慮した方が良いと私は思います。

でも、そんなことをしなくても、そのうち切符というもの、そのものが無くなるかもしれませんね。

切符を買うのはマニアか田舎モン。
そう言われそうな時代がすぐそこまで来ている。
そんな気がします。

ふと思い出した半世紀前の「アキバ」でした。