今夜は大人のお話し。
良い子のみんなは読まないように・・・
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「ねえ、一緒に滑らない?」
ボクはスキー場でリフトに乗っていた。
隣に座っている美少女が声をかけてきた。
同じクラスのちょっと気になるかわいい子。
頂上へ着くと、彼女がまた声をかけてきた。
「先に行くわね。」
慣れた手つきでゴーグルをかけなおすと美女は瞬く間にシュプールを描きながら小さくなった。
「おいおい、そりゃ、反則だぜ。」
ボクはひとり呟いた
何しろこちらはスキー初心者で、ボーゲンからパラレルがやっとできる程度だった。
右に左にストックを突きながらやっとの思いで下まで滑り降りるとさっきの美女が待っていた。
「ずるいな。うまいじゃないか。」
あとで聞いてわかったことだけど、彼女は雪国育ち。学校の授業でもスキーがあるし、大雪の日にはスキーを履いて学校へ行くという地域だったらしい。
学校のスキー教室。
当時のボクはアルバイトに専念しすぎていて、単位が危なかった。
友だちから「スキー教室に参加すれば単位が取れるぞ。」という話を聞いて参加したけど、スキーなんて2~3回しかやったことが無い。
「どのコースにしますか?」
そう聞かれた時、ボクはちょっと見栄を張って「中級コース」に申し込んだ。
そもそもそれが間違いの発端だった。
「ずるいな、うまいじゃないか。中級じゃなくて上級だろう。」
ボクがそう言うと彼女は笑って答えた。
「あたし、イヤだったの。上級コースが。」
「どうして?」
「だって、男子がイヤな感じなのよ。カッコつけててさ。」
確かに、今思えば当時はスキーブームの真っただ中で、スキーを上手に滑れれば女にもてた時代だったから、遊び好きな男子は夏はサーフィン、冬はスキーってのが多かった。
「だから、上級コースじゃなくて中級にしたんだ。」
「そうね。」
「じゃあ、ボクと反対だ。」
「反対?」
「あぁ。初級なんて恥ずかしいじゃないか。だから中級に申し込んだんだ。」
「うふふ。正直ね。」
「キミこそ反則だよ。」
「ねえ、もう1本行かない?」
そう言って、彼女とボクはまた同じリフトに乗った。
スキー教室はどういうわけか中級者は放ったらかしだった。
初級には先生が付いて指導していたし、上級はインストラクターがしっかり見ていた。
カッコつけてもしょうがない。
どうせなら彼女に教わって少しでも上手に滑れるようになって帰ろう。
そして何度かリフトに乗っているうちに自分でも不思議なことに、少しはうまく滑れるようになっていた。
「結構やるわね。」
「キミのおかげだね。」
こうして2泊3日のスキー教室はあっという間に終了し、ボクは無事に進級することができた。
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「ねえ、ちょっと怖いわ」
岬の灯台が見えるビーチで美女がつぶやいた。
半年後の夏休み、ボクはスキーの美女と海に来ていた。
「海は苦手?」
「ちょっとだけ」
「スキーはあんなに上手なのに?」
「山育ちだから。海はちょっと」
今度はボクの番だった。
スキー教室の後、学校で顔を合わせるとたいていは彼女の方から声をかけてきた。
ボクたちは次第に仲良くなって、夏休みに海へ来たのだった。
そう、ボクはスキーはダメだけど泳ぎは得意な方で、ちょっとだけ彼女の前でカッコつけてみたいと思って誘ってみたのだった。
そしてボクはその美女の水着姿にくぎ付けになったのだった。
「すげえな」
更衣室から出てきた彼女を見てボクは思わずつぶやいた。
「えっ、何か言った?」
「いや、何でもないよ。」
おいおい、こいつはまた反則だぜ。
ボクはうれしくなって、砂浜を走っていって水に飛び込んだ。
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「あなたって、紳士だったわ。」
あれからずいぶん年月が経ったような気がする。
ボクたちは夏も冬も、いつも一緒に過ごすようになっていた。
今、ボクは見慣れた美女と夜のテラスに出た。
満天の星空の下、目の前のビーチに打ち寄せる波だけが白く光っている。
「あなたって、紳士だったわ。」
「何が?」
「いいの」
「言ってみろよ。」
「だって、あの時さ、海へ連れてってくれるって言うから、友達に聞いたの。」
「何を?」
「海へ行こうって誘われた話。」
「そしたら?」
「そうしたら、絶対危険だ。下心あるから気を付けろってみんなそう言うの。」
「・・・・・・」
「あの頃、男の子たちはみんな海へ行って彼女を作ろうとか、そんな話ばかりだったじゃない?」
「そうだね。」
「だから、あなたに誘われた時にも、『あぁ、この人も同じかな』って思ったわ。」
「で、ボクはどうだった?」
「だって、私、あの時一人で笑っちゃったのよ。」
「何が?」
「だって、海へ着いてホテルに入ったら、あなた、シングルルーム2つ予約してあるんだもの。」
「そりゃそうだよ。」
「私、笑っちゃった。」
「ということは、期待していたんだ。」
「いいえ、そうじゃないわ。でもね。」
「でも、何?」
「やっぱり、いいわ」
「言いかけてやめるのはずるいよ。」
「そうね。別々のお部屋を予約してくれていたあなたを見て、私、『この人は信用できるかも』って思ったの。」
「そうなんだ。ありがとう。で、信用できた?」
「バカねえ。」
「何が?」
「信用できなかったら、今、こうして一緒にいるわけないじゃない。」
「でも、本当に紳士だった?」
「ちょっと違ってた」
そう言って彼女はけらけら笑い始めた。
彼女が笑うのも無理はない。
ボクは紳士ではなくて、時としてケダモノになるのだから。
そのことをボクが口にすると、彼女は、
「ずいぶん礼儀正しいケダモノね。」
そう言って、またけらけらと笑った。
白く輝く波間に、月が映って揺れている。
こんなロマンチックな夜はない。
なのにこの子はけらけらと笑う。
その笑顔を見ていると、ボクの心の中のケダモノは何だかおとなしくなっていった。
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結局、あの晩、ケダモノの本性を見せたのは美女の方だった。
今夜のところはそういうことにしておこう。
ということで、今夜は2曲お届けします。
▼シーハイル
高木麻早 シーハイル
▼ムーンライトサーファー 石川セリ
Moonlight Surfer
※一応念のためにお断りしておきますが、このお話はフィクションです。(信じる人がいるからね~)
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