田舎でグリーン車は乗るな

私は30代のころから特急列車に乗るときは基本的にはグリーン車でした。

当時は寝台列車というのが走ってましたが、基本的にはA寝台。
個室がついていれば個室に乗るようにしていました。

理由は、交通機関に勤めているのですから、サービスというものがどういうものなのか。
良きにつけ悪しきにつけ、いわゆる一等というものを身近に感じる必要があると考えたからです。
航空会社に勤務しているといろいろタダ乗りができる。
まぁ、鉄道会社もそうでしょうけど、職員は優待される。
航空会社の場合は、ビジネスクラスでふんぞり返れるのですが、若いうちからそんなことをやっていると人間ダメになる。
私はそう思ったので、会社から支給される切符は「乗ったことにしといて」、自分で切符を買ってビジネスやファーストに乗るようにしていました。

他の職員と一緒に行くときはできませんが、一人の時は、いろいろ調べて安いファーストやビジネスの切符を買います。
仕事柄定期的に同じ場所に出張へ行くことがありまして、年に3~4回同じところへ行く。
そういうところへ行く場合は、会社から支給される航空券は往路だけ使って、向こうで東京往復の切符を買ってくるのです。
ファーストやビジネスの切符なら1年間有効でしょう。
割引されている切符でも半年有効というのがあるのですから、日本に帰ってきても半年以内にもう一度行くのであればその残りを使って、向こうでまた東京往復の切符を買う。
そうやって、乗ってみたい会社の切符を買って、いろいろな便にトライしていました。

なぜなら、会社から支給される切符はビジネスクラスの切符ではありますが、自社か系列の航空会社しか乗れませんから、ライバルのアライアンスの航空会社がどんなサービスをしているのか知るためには、切符を買って乗るしかないのです。
そして、自分でお金を出してみると、本当にお金を払う価値があるか、つまり「Value for Money」かどうかがわかるからです。

このような考え方で私は新幹線も基本的にはグリーン車だったのですが、ちょうど今から5年前の2019年9月に上越に住むようになってからも、「いつものように」グリーン車で千葉と上越を往復していました。

で、ある時、声をかけられたのです。
東京駅のホームで。

上越の会社の社長さんでした。

「今お帰りですか?」
「はい」

てな感じです。

田舎にいるとわかるのですが、東京へ出張へ行くとだいたい帰って来る電車が同じなんです。(だから、「おかえり上越」などと言う列車を走らせているのですが。)
上越の場合は、東京を18時、19時、20時に出る「はくたか」がいわゆるいつもの電車。

で、声をかけられた時に私はグリーン車の切符。
その社長さんは普通車の切符でした。

これは何となくバツが悪い。

なぜなら、赤字を税金で補助してもらっている会社の社長がグリーン車ですからね。

もちろん、会社に交通費の請求なんかできませんよ。
完全にプライベートですから。
だからすべて自腹です。
自腹で乗ってるんだから、どこに乗ろうが勝手じゃないか。
そう思うのですが、人さまから見たらそうは見えません。

「トキ鉄の社長、グリーン車に乗ってやがる。」

そう思うのが人情でしょう。

でもって、その経験以降、私は普通車に乗るようにしました。

そうしたら少ししてまた声をかけられたのです。

「あら、今お帰りですか?」

声をかけてくれたのは地元の重鎮の女性。

その方はグリーン車の切符を持っていて、

「鳥塚さん、何号車ですか?」

「私はこちらですよ。」

そう言って普通車に乗りました。

「あ~あ、良かった。」

というようなことがありまして、その後はコロナが始まって普通車もガラガラな状態になったのはご存じの通り。
私は何も考えずに普通車に乗る人生が5年間続いたのであります。

でもって今は静岡県。
天下の東海道を行ったり来たりする生活になりました。
しかも最寄り駅は「こだま」しか止まりません。
ご存じのように「こだま」は指定席車両が少ないので指定席が混むのです。
かと言って、自由席だと発車の前から暑いホームで30分も並ばなければなりません。

30分というのは、「こだま」は30分おきに出ていますから、前の電車で座れなければ30分並んで待つのです。

で、まだ周囲に知っている人はいませんし、だいたい知っている人は皆さん静岡で降りるでしょうから、そういう方は「ひかり」を利用するはずです。

ということで、私は今日もグリーン車に乗ってしまったのであります。

どうせ空いてるだろうし、ホームで並んで待つ必要もないから、こんなもの買って乗ってしまいました。

もちろん今日はプライベートですから、会社へ交通費の精算をお願いする旅ではありません。
会社の出張ならば当然普通車ですけど、プライベートはグリーン車。
という生活が、どうやら5年ぶりに復活してしまったのであります。

一度乗ったら癖になりますからね。

もっとも、私も経営者の端くれですから、常に考えるのはValue for Moneyかどうか。

会社の出張は急に決まることが多いですが、プライベートな用事であればかなり前から計画したりしますから、あらかじめ調べて普通車とほぼ同額のグリーン車の切符を買うのであります。

ほらね。
7680円。
指定席を緑の窓口で買うと7800円ですから、Value for Moneyでしょう。

いくら安いからと言って、田舎だと誰が見てるかわかりませんからなかなか乗れませんが、天下の東海道であれば、今のところ大丈夫なのであります。

そうそう、この間上越に帰った時は堂々とグリーンで帰りましたよ。
お盆だったので混みあう普通車には乗りたくないし、もう、人から何かを言われる筋合いもないですからね。

さぁて、今度はいつ上越へ帰ろうかなあ。