日本航空羽田事故から感じる違和感

昨日、羽田で大きな事故がありました。

離陸のために滑走路に入った海上保安庁の飛行機と、札幌から着陸した日本航空の516便が滑走路上でぶつかって爆発炎上した事故。
奇跡的に全員脱出したことが海外からも絶賛されています。

確かにあの混乱の中で大型のA350が爆発炎上し、その状況下で満席近い乗客が全員脱出できたことは称賛に値しますし、それよりも滑走路上で高速でぶつかった飛行機が、前輪は折れたものの、そのまままっすぐに滑走を続けたことは奇跡かもしれません。
通常であれば強い衝撃を受けると、高速のまま左右どちらかに傾き、滑走路を飛び出したり、機体が横転したり、あるいは機体そのものが折れ曲がったりすることは十分に考えられます。そうなるとその衝撃で多数の死傷者が出るのですが、きれいにそのまままっすぐに進んでいきましたので、機内の衝撃は小さくて済んだものと推測されます。

さて、事故原因は国の運輸安全委員会が入って調査されますから、いずれはっきりするとは思いますが、今日の時点で、管制塔から日本航空機に対して着陸進入の許可は下りていた。海保機に対しては滑走路手前で待機するように指示が出ていたと発表がありましたから、海保機が何か勘違いをして滑走路に進入したことが直接的な原因と思われます。

だだ、それはそうとして、1人の人間が勘違いをしただけで、これだけの大事故が起きるということは、仕組みとして大きな問題があると考えます。

例えば、
・海保機の機長が離陸の許可が出ていると勘違いしたとしても、隣に副操縦士が乗っていますから、復唱の段階で「機長、まだです。」となるはずです。
・滑走路に入るときには当然左右を目視確認します。
皆さん車の運転の時の左右の目視確認は顔を右左に向けるだけでしょうけど、飛行機は死角が大きいので、機長も副操縦士も前に身を大きく乗り出して左右を確認するのが常です。
機長:「chekck right side.」
副操縦士:「Right side clear.」
このように大声で確認復唱します。
その時に、ファイナル(最終進入経路)に着陸直前の日本航空機が見えれば、当然副操縦士は「Hold!」と叫ぶはずです。

管制塔の場合はどうでしょうか。
管制塔から滑走路の現場はよく見える位置にあります。
管制塔には当然飛行場の地上を監視するレーダーも備わっていますので、目視だけではありません。
許可を出していない航空機が滑走路に入ろうとしている。しかも、ファイナルには着陸目前の日本航空機がいるわけですから、当然何らかのアクションを取るはずです。
通常であれば日本航空機に着陸のやり直しを指示します。
「Japan Air 516, go around !」
という具合にです。

まして、状況を見ると、海保機はすでに滑走路に進入し、滑走路中心線に正対して今まさに離陸滑走を始めようとしています。
ということは、海保機が滑走路に入るために誘導路を動き始めて少なくても10~20秒経過していることを意味します。
この間に管制官が異常に気付いていれば、日本航空機に着陸復航を指示し、日本航空機は十分にやり直しのための上昇ができた可能性があると思います。

日本航空機の方はどうでしょうか。
この時進入していた羽田のC滑走路は34R。
札幌からの航空機は千葉市内上空、あるいは木更津上空から大きく右旋回して10㎞以上の長いファイナルの直線に入ります。
時間帯によっては自分の前に複数の先行機が見えます。
管制塔からの周波数もアプローチコントロールからタワーに切り替えますから、同じ周波数ですから先行機(自分の前に着陸態勢に入っている飛行機)や滑走路で離陸を待っている飛行機と、管制塔とのやり取りも聞こえてきます。

南側からまっすぐに滑走路34Rのファイナルを進入してきた日本航空516便はだんだんと高度を下げてきて、いよいよ自分の番になります。
「Japan air 516, clear to land runway34R」
管制塔から着陸の許可をもらって滑走路からズレないように進路、高度を合わせていきます。
機長も副操縦士も、目は滑走路を注視している時間です。
ときどき副操縦士が目を計器に移して高度を読み上げます。

副操縦士:「Approaching minimum.」(最終意思決定高度に近づきました。)
機長:「check.」
つづいて
副操縦士:「Minimum !」(最終決定高度です。どうしますか?)
とコールします。
機長はこの時点で「着陸するぞ」と意思表示をします。
時間的には着陸の1分ほど前でしょうか。

機長、副操縦士ともに滑走路を注視しています。

そこへ海保機が滑走路に進入してきたとしたら当然気が付くはずです。
視界は良好です。
霧が出ているとかではありません。

確かに飛行中の操縦席からは自分よりも低い位置にいる先行機は見えづらいものです。東京の夜景が前方に広がる中で、先行機のフラッシュライトがちかちか光っているのは見つけにくいものです。
でも飛行場の滑走路面は真っ暗で、滑走路灯が2列に光っているだけですから、そこにちかちか輝く飛行機が進入すれば当然気が付くでしょう。
そして、自分が着陸許可をもらっているにもかかわらず、他の航空機が滑走路に進入するのを見れば、迷うことなく「Go Around !」と叫んで上昇する手配を取ります。

しかし日本航空機はそのまま着陸進入を続け、接地後着陸滑走中に高速でぶつかっているのです。
上にも書きましたが、海保機は滑走路の中心線上に正対していたようです。
横向きに滑走路に入って90度左に曲がって中心線に正対するまでに10秒~20秒かかりますから、接地と同時に横から入ってきてぶつかったのではないようです。
機長、副操縦士が最終進入中に目視して接地前に回避行動ができなかったのか。

もしかしたら、着陸復航のためにエンジンをふかして上昇しようとしたら、もっと大きな事故になっていたかもしれませんが、そのあたりを機長に聞いてみたいですね。
なまじ避けるよりも、このままぶつかった方がダメージが少ないと瞬間的に判断したとしたら流石ですが。
滑走路上を直進したところを見ると、そうなのかなあ。
もう間に合わないと思ったとしたら、勇気ある行動ですね。

以上の点で、海保機、管制塔、日本航空機のそれぞれに大きな違和感が残るのです。

さらに、最大の違和感は、管制塔と海上保安庁と事故を調べる運輸安全委員会の関係です。
どれも皆、大元は国交省なんです。
運輸安全委員会(JTSB)は独立行政法人となっています。

もともと、事故当時者が事故調査に係わることを避けるために独立させているのですが、航空機や鉄道など専門知識を持つ人材が日本では限られることから、結局、調査官は国交省出身者であったり関係者であるのでしょう。
国交省の管轄下にあるということが、そのホームページからうかがい知ることができます。

https://www.mlit.go.jp/jtsb/

つまり、当事者が当事者を調査する仕組みがどうも存在していることを感じます。
いじめや自殺など学校内で問題があったら、学校が調査する。
警察官が不祥事を起こしたら警察が捜査する。
Authorityというのは、身内の調査を身内が行うわけですから、私は違和感を持つのです。

まぁ、鉄道行政というのは国鉄民営化後は当事者意識がなく、Authorityは自分たちは言うだけの側ですが、航空行政というのは飛行場や航空路管制など、Authority側も自分たちは当事者ですから緊張感があると私は考えていますが、国交大臣が「事故原因の究明のための調査には全面的に協力します。」と会見している姿に違和感を持つのは私だけでしょうか。

国内線では30年以上大型の航空事故は発生していませんが、警察が業務上過失を前提に早速捜査に乗り出しているバカさ加減も昭和の時代から相変わらずで、笑ってしまいます。

日本人は海外から見るとロジカルという点で本当に遅れていますね。

それにしても飛行機ってよく燃えるものですね。
アッという間に胴体が燃え尽きてしまいました。

こんな違和感を持ちつつ、それには触れずに今日はYAHOOニュースを書きました。

どうぞご一読ください。

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