なぜ乗客の体重を測るのか?

YAHOOニュースを見ていたら大韓航空が乗客の体重を測るということが話題になっていました。

そんなことが話題になるなんて、皆さん意外と知らないんだ、と思いました。

飛行機は最大離陸重量と、最大着陸重量というのが機種ごとに決められています。

最大離陸重量を超えると重すぎて離陸できませんし、最大着陸重量を超えると着陸時に車輪を破損したりする危険性があります。

飛行機が離陸した直後に何らかのトラブルが発生して引き返すことがありますが、例えば日本からアメリカに向かうような飛行機は、燃料をたくさん積んでいますから離陸はできてもそのままでは着陸はできません。なぜなら重すぎて着陸した時に車輪が破損して大事故になる可能性があるからです。
ニュースなどでは「上空で燃料を捨てる」と言われていますが、そうして軽くしないと降りられないからです。

例えばボーイング747ジャンボジェットの場合、機体そのものの重量はだいたい170トンほどです。最大離陸重量は390トン。ということは、220トン搭載できる計算になりますね。
機体重量は170トンですが、トイレ用の水だとか機内食(カートなど)、クルーなどを積むと20トンぐらいになりますから、残りは200トンです。
必要な燃料が120トンとすれば、残りは80トンです。
その80トンを旅客と手荷物と貨物や郵便などでシェアするわけですが、その時にお客様1人当たりの重量が必要になります。

私が若いころ、羽田空港でこんなアナウンスが流れていたことがあります。

「女満別行きのお客様は、お早目に体重検査をお済ませの上、搭乗待合室にお進みください。」

当時の羽田発女満別行の飛行機はプロペラ機のYS11でした。
あのYS11にとっては、羽田から女満別まで3時間の飛行はおそらくぎりぎりの距離だったのだと思います。
だから燃料を満タンに搭載することが必要で、そうなると、あとどれぐらい乗客と貨物を搭載できるかという数字を正確に測る必要があったのだと思います。

今は飛行機の性能が良くなりましたので、よほど条件が悪い便じゃなければ1人1人の体重を測定するなんてことはなくて、平均重量に乗客の人数をかけてトータルを計算しています。

私がいたころは、記憶があいまいですが、男性75㎏、女性63㎏だったかな。
手荷物は1つにつき16㎏という数字が用いられていました。

ところが、この数字というのは時代とともに変わっていくのです。
昔から見たら日本人の体格も大きくなっていますからね。
また、路線によっても変わります。
アメリカ路線のようにでっかい人たちばかりの路線と、日本路線のように小柄な人たちが多い路線とでは当然異なります。

そこで、航空会社ではある期間を定めて、乗客の体重測定をして、路線ごとや地域ごとに基準となる数値を割り出しているのです。

チェックインする荷物だって、長距離国際線と国内線では1個当たりの重量が全く異なりますからね。

そうして、出発便の搭乗手続きが締め切られると、トータルの数字が出ます。
男性200名、女性180名、子供10名、預入手荷物320個、といった具合です。
これに平均数値をかけて、乗客と手荷物の総合重量を割り出します。
そして、貨物や郵便と合わせて、合計何トンという離陸重量を計算し、それが最大離陸重要を超えてないことが確認されます。
と同時に、飛行機のどの部分に何名の乗客が乗っているかというバランス計算も必要になります。

全クラスにまんべんなく乗客が乗っていれば問題ありませんが、例えばファーストやビジネスクラスのお客様が少ない日があります。飛行機の前の方が軽くて、後ろの方が重い。そういう時は厄介ですから、あらかじめ予約状況を見て、後ろが重くなる時は貨物を前の方に搭載するなどの計画を立てて、全体のバランスを考えます。

昔は機体の後ろにエンジンが付いているような飛行機がありましたが、そういう飛行機は設計の段階から後ろが重くなっていますので、乗客が少ないときは皆さん前方の座席に集中して座っていただくこともありました。

飛行機に乗り込んでみるとガラガラなものですから、機内で後ろのすいている方に座ろうとするお客様もいましたが、クルーからは離陸までの間は前の席に座ってくださいと言われていましたし、中には後ろへ移動できないように、通路にロープが張ってあるようなときもありました。

ということで、飛行機というのはとにかく重さとバランスが重要ですから、出発まで気が抜けません。
搭乗手続き締め切り時刻というのは国内線の場合は出発の15分前、国際線の場合は40分前などと決められていますが、遅れてくるお客様もいますからその通りにはなかなかいかず、手続きを締め切ってから、電卓片手に一生懸命書類を作って、「できた!」となったらそれを持ってゲートまで走る。そして、機長に渡してOKのサインをもらって出発時刻の5分前にはドアを閉めるというのが、私の青春時代でした。(笑)

その後、時代はどんどん変わりまして、手計算の書類ではなく、コンピューターで計算するようになりましたし、書類を持って走らなくても、搭乗口でプリントアウトできるようになりました。
また、出発の1時間ほど前に、搭乗手続きの状況を見ながら、あらかじめ見込み数値で書類を作っておいて、それを機長に見せてOKのサインをもらうなんてことも可能になりました。

貨物や郵便、燃料などは変わりませんから最終的な重量を確定するための要素は乗客と手荷物の数ということになります。
だとしたら、今日は250名ですということで見込みで書類を作っておいて、最終的に5名来なければ245名ということで、その確定数値を無線で飛ばすと、飛行機の中のプリンターに、レシートのように数字が出てきて、コックピットではその最終数値を離陸データに打ち込むわけですが、そんなことはドアが閉まって、プッシュバックしてからでも十分ですから、時間的にはずいぶん楽になったものです。

中には担当者が次の便の作業に追われていて、最終確定数字を飛行機に送るのを忘れていたりすることもありましたが、そういう時は滑走路の手前に行った飛行機から、「お~い、ファイナル来てないぞ。」と無線が飛んできて、「何やってるんだ!」と担当者が上司に怒られるなんてこともよくありましたね。

というのが私の時代でしたが、今はどうしているのでしょうか。

機長が確認のサインをした書類を地上で保管するというのは、法律で定められている事項ですから、それは変わってはいないとは思いますが、よく、出発直前に飛行機に地上職員が乗り込んできて、書類をもって操縦室に入っていくシーンを見た方もいらっしゃると思いますが、若いころの私の仕事があれでした。

時代は変わりましたが、やっぱり乗客の体重の数値は必要なんだなと、このニュースを見て思った次第であります。

みんなどうしてるかな。

って、同僚はもう皆さん定年ですね。

▼本日出ていたYAHOOニュース(私が書いたものではありませんよ)
大韓航空はなぜ「乗客の体重を測る」のか

そろそろ飛行機に乗りたくなってきた。
機内食も食べたいしね。