鉄道の仕事をしていると、毎日同じことの繰り返しが基本です。
運転の仕事も駅の仕事も線路の仕事も、毎日同じ仕事の繰り返し。
そういう業界に居ると、明日も同じ日がやってくると信じて、何の疑問も持たない人がたくさんいるのに気が付きます。
でも、本当にそうでしょうか?
今の日本ではローカル鉄道ばかりじゃなくても、大手の会社だって、昨日と同じ明日がやってくるなんて、経営幹部は誰も考えていません。
大手の会社だって、ヤバいと思って必死になって会社の組織を変更したり、やり方を変えたりしている。多分、社内の人たちの多くは「昨日と同じ明日がやってくる」と思っているでしょうから、そういう人たちに気づかせるためには組織を変更するのが一番わかりやすいのかもしれません。
鉄道屋さんはたいていいつもと違ったことをやりたがりません。
「余計なことをして、何かあったら誰が責任を取るんだ。」と言いたいのが顔に出ている。
このあいだ、「日本人は何かあったらどうするんだ症候群にかかっている。」と言った人がいるようですが、鉄道屋さんだけじゃなくて、日本人全体がそうなのかもしれません。
だから、国が停滞しているんですよ。
つまり思考停止に陥っている。
決められたことを決められたとおりにやっていれば、それで良し。
確かに電車の運転や駅の窓口、線路の維持管理など、鉄道会社の多くの仕事はそうですよね。
でも、私はそれは仕事だとは思いません。
単なる作業です。
そして、そういう思考停止状態が毎日続いてきた結果として、過去40年間、鉄道はなくなって行ってるんです。
毎日会社へ行って、規則通りに毎日決められた作業をして、安全正確に列車を走らせて会社がなくなっている。
これが日本のローカル鉄道の現状です。
では、何が欠けているかと言うと、考えることです。
毎日毎日列車を安全正確に走らせている。
その基本をベースに、会社を未来に続けるために、「で、あなたならどうしますか?」ということを考えるのがリーダーの仕事です。
「それはわかりませんが、私はちゃんと仕事をしています。」と言うのは、せいぜい30代ぐらいの職員でしょう。
いや、30代ならもっと考えてる。
少なくとも私が30代の頃は毎日考えてた。
「で、どうします?」
「それで、どうなります?」
「だったら、どうします?」
「それでよいんですか?」
「よくないですよね?」
「だったら、やり方変えないといけませんね?」
「なら、どうします?」
こういうことを毎日毎日考えないと。
なぜなら、昨日と同じ明日は来ないんですから。
お爺さんの仲間入りをしている人たちは、自分は第4コーナーを回ってるから逃げ切れると思っているかもしれませんが、後輩たちのことを考えたら、昨日と同じ明日は来ないということをもっと真剣に考えて、「じゃあ、どうしますか?」ということを毎日実践しないといけないと思います。
私は前職時代から、いや、航空会社に居たころから、常に仮説を立てて実行し、それを検証するということを繰り返してきました。
つまり、「こうやったら、どうなるだろうか?」ということをやってみるんです。
ローカル線に女性を呼び込むためには、どうするか?
ムーミン列車を走らせたら、女性が来るだろうか?
ローカル鉄道は車両を新しくするということを繰り返しやって来て、お客様が居なくなってるのだから、だったら逆に古い車両を走らせてみたらお客様が来るのではないか?
旧国鉄を引き継いだ会社は地域と口を利かなくなって、地域を受け入れなくなって利用者離れが起きているのだから、だったら逆に地域と思いっきり密着してみたらどうだろうか?
列車の中で駅弁を食べるとあの冷たくて硬い弁当でもおいしく感じるのだから、本当に美味しいものを車内で食べたらさらにおいしくなるのではないだろうか?
撮り鉄だって自社のファンなんだから、大切にしてみたらきっと喜んで宣伝をしてくれるのではないだろうか?
列車の中で一晩過ごしてみたら、どんな朝を迎えられるのか、好きな人がいるだろうから、やってみる価値はあるのではないか?
子供のころから電車の運転士になりたかったおじさんたちが、今でも悶々としているかもしれないから、そういう人たちを仲間に入れてみようか?
中には突拍子もないこともあったかもしれませんが、ローカル鉄道は今まで安全正確に列車を走らせてきて会社がなくなってきているのですから、安全正確の土台の上に新しい明日が来るような何かを、「こうやったらどうなるだろうか」という仮説を立てて実行して、それを検証していくことをやらないと、昨日と同じ明日など来ないのです。
新しいことをやりたくないのはわかりますが、「じゃあ、どうしますか?」ということ。「あなたの給料はどこから出ていますか?」ということを考えていただかないと、社会人とは言えませんね。
20代の頃に航空会社に入った時に言われました。
「あなたの給料はどこから出ているかを考えなさい。お客様が払った航空券から出ているのです。お客様が居なくなれば、給料はもらえません。だから、お客様に乗っていただけるような、選んでいただけるような仕事をするのです。」
今日は3月31日。
別れの季節でもあります。
明日から新年度が始まりますね。
でも、昨日と同じ明日は来ない。
いや、今日と同じ明日は来ないのです。
今日で北海道の留萌本線が廃止ですね。
この駅には朝日が昇っても、もう列車は来ないのです。
昨日と同じ明日はない。
鉄道会社だけじゃなくて、日本全体が昨日と同じ明日は来ないのです。
意外と若い人たちはそう思っているようですが、おじさんたちは昨日と同じ明日が来ると思っているかもしれません。
でも、昨日と同じ明日は、この国には来ないのです。
で、あなたならどうしますか?
それを考えるのがリーダーの役目です。
(写真は廃止になる留萌本線。北海道在住の宮川明久さんの撮影です。)
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