高校生からの質問

某企画で高校生にお話をさせていただく機会がありました。

「ローカル鉄道はこうして使えば地域も一緒によくなりますよ。」
という内容のお話しで、私がかれこれ13年間やって来たことを高校生の皆様方にわかりやすくお話をさせていただくという企画です。

最近は便利なツールができまして、実際に私が出かけて行かなくても遠隔でお話しをさせていただけるので面白いというか助かるというか。

1時間ほどの授業をオンラインでさせていただきまして、その後、皆さんで討論をして、いくつか質問をいただきました。

今日はその中で、いくつか「ピクン!」と来たものを取り上げてみましょう。

高校生と言ってもオンラインですから数校同時で、ローカル鉄道沿線の学校もあればそうでない都会的な学校もある。
でも、皆さん、昨今のJR問題などで社会事情をよく勉強されたうえで私の話を聞いていただき、そして討論をしていただいたのであります。

【質問1】
・鉄道は、通勤通学などで定期的に鉄道を利用する方と観光で鉄道を利用する方の2種類の利用者がいると思います。
ローカル鉄道は、前者の数は減少していき、後者はまだ増加するポテンシャルがあると思います。
観光客をメインターゲットとすると、安定して観光客数を確保するのが難しいと思いましたが、どういった取り組みをしているか知りたいです。
また、観光客を呼び寄せるために、どのように情報発信をしているのか知りたいです

【回答1】
価値観を決めつけないことです。
例えば紅葉が美しいとか、新緑が美しいとか。
あるいはローカル鉄道の旅だとか、歴史の街並みだとか。
地域鉄道にはいろいろな価値観があると思いますが、それを最初に決めつけるのではなく、お客様がどこに反応するのかを見て行きながら、自分たちが提供できるものを探していくのが良いと思います。

いつも思うのですが、全国各地の田舎の町には名所や名物があって、「私たちは○○の町だ。」と皆さんおっしゃいます。
でも、そういう価値観を最初から決めつけないということです。
もしかしてお客様は違うものを求めてきているのかもしれませんから。

私の前職時代ですが、本社のある町は戦国武将の城下町でした。
町役場や観光協会は当時(今は知りませんが)、「ここは城下町だ。」ということで観光戦略を立てていました。そういう時に私が「ここはムーミン谷です。」なんて言ったもんだから、観光関係の人たちからは猛反発を食らいました。

でも、良く考えればわかると思いますが、城下町は昔からの町で、昨日今日始まったわけではありませんから、歴史の町や戦国武将をお目当てに来ている観光客はすでに来ているお客様(顕在顧客)です。つまり今いるお客様。そして顕在顧客は常に右肩下がりですから、それを補うために新しいお客様(潜在顧客)を見つけなければなりません。それがムーミンファンであり、鉄道ファンだということです。

人口減少の時代ですから地元民の通勤通学客は右肩下がりです。ということは今すでにご利用いただいている顕在顧客は伸びしろがない。それを補うのが土日の観光客(これから来るであろう潜在顧客)というのとまったく同じことです。

情報発信はインターネットですが、写真をたくさん。そして毎日きちんとやることです。自分の都合で情報発信していては届きませんから。

【質問2】
・電車にムーミンなどのキャラクターを貼る場合、その町や電車に関係があるキャラクターを選ぶべきだと思いますか?

【回答2】
キャラクター選びにはストーリー性が大事です。
ただ、地元のキャラクターなどでは効果がありません。
全国各地にご当地キャラクターというのがあって、地元の人には当たり前の存在になっていますが、地元を一歩出ると誰も知りませんから集客ツールにはなりません。

例えば千葉県にはチーバ君というキャラクターがあって、千葉県民であれば大人から子供までみんな知っています。でも、神奈川県に住んでいる私の甥っ子がチーバ君を見て、「おじさん、あの赤いの何?」って聞いてきました。
御当地キャラなど所詮その程度なんです。

ストーリー性としては、都会から来るお客様に何を伝えるかということで、私がムーミンを選んだのは豊かな自然や素朴な人々の暮らしをムーミン谷に見立てたからです。
ムーミンは全国区で、大人から子供まで幅広い人たちが知っています。そういうキャラクターであれば多少お金をかけても効果は大きいです。
お金がもったいないからと言って、集客ツールとして地元のゆるキャラを使おうとすると、他県から、あるいは海外からのお客様の誘客にはほぼ百パーセント失敗しますし、成功させるためにはよほどの戦略が必要になりますから素人ではできません。だったら最初からすでに全国区になっている誰でも知っているキャラクターを使ってしまう方が手っ取り早いのです。

【質問3】
・地元の方々と関わる時、どのようなことを大切にしているのでしょうか。地域活性化の面で苦になったことはありますか。地域活性化をしてメリットはたくさんあると知りましたが、デメリットはありますか。

【回答3】
まず、地域にはどういう人がいて、どういう活動をしていて、結果が出ているのか、そうでないのか。結果が出ていないとすれば何が原因かなどをじっくりと探ります。

結果が出ていない場合、その原因として例えば、田舎の人は都会人の気持ちを理解していないことが多いですね。

観光を考えた場合、お客様というのは東京や大阪からいらっしゃる都会人です。お客様の気持ち、お客様が何を求めているかがわからなければ、お客様をおもてなしすることはできませんし、お客様にご満足いただくこともできません。

千葉県の房総半島の場合、都会から来るお客様は何を求めて来るかと言えば新鮮な海の幸です。
そういう時に、自分たちは山里だからといって捕獲した野生のイノシシの肉を名物にするとしたらどうですか。誰も立ち止まりませんよね。

どうしてもイノシシの肉を売りたいのであれば、ジビエとしてきちんとした商品戦略や供給方法を考える必要がありますが、そんなことをするぐらいだったら同じ千葉県ですから海の幸を出した方がお客様は立ち止まってくれます。
だから私は山の中でしたけど伊勢海老レストラン列車をやったのです。
こういうことがわからないと、またはわかっていても戦略を立てる能力がないと、必ず行き詰ります。

地域活性化のデメリットとしては、知らない人たちが自分たちの町に入ってくることでしょうか。最近ではオーバーツーリズムという言葉もあるようですが、そこまで行かなくても観光客が自分たちの町に入ってくることを嫌がる人たちはどこにでもいます。

「静かな生活を乱される。」とか、「日曜日は休みたい。」とか言われます。
それはそれで大事なことだと思いますが、では、その場合、この町を20年後、30年後の次の世代にどうやってつないで行きますか? 
そのためには観光以外の方法でどうして稼いで行きますか? 
ということを同時進行で考えないといけません。

誰でも現状を変更するのは嫌いますから。でも、文句を言うだけで前向きな発言が無ければ、何も進みません。今住んでいる人たちは、次の時代をどうあるべきかと考えなければならないと思いますが、日本の地方都市ではそういう人は少ないです。

【質問4】
・雪月花のキャンペーンでは2万円のところ地元民の場合1500円で乗れるようなことをおっしゃっておりましたが、いくら外国からのお客さんが来ないとしても経営的にとてもマイナスだと思います。なぜこのようなことをしようと思ったのですか?
(※注:これはコロナで観光客がゼロになった時に、地元の人たち向けに雪月花を「じもパス(1500円)」で乗れますと宣伝したところ、35名の定員に対して1200人近くの応募があったという話に対しての質問です。)

【回答4】
お料理を出さなければ、車庫で寝ている車両を走らせるだけですから1500円でも経営的にマイナスにはなりません。

コロナが始まった時は雪月花が走り始めて4年でしたが、それまでは地域の皆様方にとっての雪月花は「手を振ってお見送りするだけ」の存在でした。4年も手を振っていれば乗りたくなるのが人情でしょう。だから、地域外からの観光客がいなくなった時に、地域の人に乗ってもらって、雪月花に実際に乗るという体験をしてもらうことは大切だと考えました。
実際に乗ることで、手を振るだけの雪月花が、自分たちの地域を走る自分たちの鉄道の、自慢の雪月花になったと思います。

【質問5】
・「今、ローカル鉄道には何が求められているのか(地域活性化面で)」を知りたいです。

【回答5】
日本は人口減少の局面にあります。
ということは、すべての田舎の町が残れるわけではなくて、将来的には消えてなくなるところが出てくるということです。
そういう時代ですが、地元にローカル鉄道が走っていれば看板になります。
テレビも雑誌もやって来て地域が有名になります。
そういう地域の看板を上手に活かせるかどうかが、田舎の町の将来につながっているのではないかと思います。
つまり、今あるものを上手に活かせない地域には将来はないと私は考えています。

【質問6】
・だんだんお金がまわるようになってからさらにお金がまわるようにするために心掛けていることはありますか?

【回答6】
これは商売の原則に関係することですね。
経済活動というのは基本的には拡大再生産です。
少しずつ大きくしていくものですから、どんな仕事でも原則を忘れてはいけないと思います。
私がいつも心掛けているのは「利他」と「三方良し」という原則です。
興味があったら調べてみてください。

とまあ、こんな感じです。

最後の6番目の質問には痺れましたね。

60分の授業を受けて、これだけの質問が出るのです。
高校生だって、きちんと考えているんです。

ていうか、思い返してみれば私だって45年前の高校生時代にはこのぐらいのことは考えていましたよ。でも、当時の高校生は素直じゃなかったからね。
だから結構人生回り道したような気がしますが、素直な皆さんは遠回りせずに進めたらよいなあとは思います。

でも、道草や遠回りって、あとになってみると意外と面白いものですけどね。

皆さん元気かな。
もう社会人として立派に活躍していることでしょう。
お父さん、お母さんになっている人もいるかもしれませんね。

タイムスリップでもして私がもし45年前の高校生の自分に会うことができたらこう言います。

「今は苦しいだろうけど、人生はおもしろいものだから、信じる道を思いきり進みなさい。」 とね。

皆さん、人生を楽しんでください。