青春18きっぷは儲からないのか?

3連休、各地の鉄道は賑わったようですね。

東北方面は地震の影響で運休のところも多かったようですが、こちらでは大糸線などもかなりの乗車人員があったと聞いています。

そう、今は青春18きっぷの時期ですから、若い人を中心にのんびりと各駅停車で旅をする人が多くみられるのです。

ところで、JRの関係者の間では青春18きっぷは儲からないからやめたい、という話が出ていると言います。
まぁ、1日2000円ちょっとで朝から晩まで電車に乗られては、鉄道会社としてはおもしろくないと思いますよ。
特急料金も払ってもらえないし。

だから、儲からないからそろそろやめたい。
各社それぞれ自社管内だけのフリー切符を出せばよいじゃないか。

多分そういう考え方なんだと思います。

でも、私はそういう考えの連中を莫迦だと思います。

民間会社の人間が考えることではないですね。

青春18きっぷは登場からもうかれこれ40年以上になると思いますが、最初は確か「のびのび切符」とか言ったと思います。

登場のきっかけは若者たちにもっと旅をしてもらおうということだったと思いますが、それは赤字の国鉄が利用者離れを食い止めるためということと、少しでも収入を上げるという2つの側面がありました。

ではまず利用者離れですが、当時の国鉄は、例えばサーフボードを車内に持ち込むことを禁止しました。今では考えられませんが、ベビーカーも持ち込み禁止。持ち込むときは改札口の手前でベビーカーを折りたたんで、赤ちゃんを抱っこして改札口を入ってくださいと言ってました。

今の若い人が聞いたら「???」と思うでしょうが、そうだったんです。

夏のレジャーが昭和40年代までの海水浴から、昭和50年代に入るとサーフィンに変わってきました。
若者たちがサーフボードを持って海に行こうとすると、駅の改札口で「そんなものを持って入るとはまかりならん!」と駅員さんに止められたのです。

そういうことをすると、お客様はどうすると思いますか?
皆さんだったらどうします?

答えは一つですよね。

「電車がダメなら車で行くしかないな。」

そうして若者たちは中古の自動車を買ってサーフボードを積んで海に出かけたのです。
一旦車に移行してしまった人はなかなか鉄道には戻りませんね。

海水浴ブームが去って、海水浴臨時列車に空席が目立ち始めるようになって初めて、国鉄は「サーフボード持ち込み可」にしたんですが、時すでに遅しです。

その若者たちは夏はサーフィンですが冬はスキーでしたから、今度は車でスキーに行くようになる。
そうするとスキー列車にも空席が目立つようになる。

夏冬の臨時列車が不調に終わり始めて、彼らは若者を取り込むことの重要性に気が付いたわけで、そこに登場したのが青春18きっぷなのです。

では、その青春18きっぷの優れている点を申し上げましょう。
利用者側から見た点ではなく、商売をする側から見た優れている点です。

それは、売り上げを上げるために商品の仕入れや新しいサービスの提供が要らないという点です。
今、時刻表に載っている列車に乗ってもらえれば良いだけだからです。

どんな商売もそうですが、売り上げを上げるためには商品を仕入れて、あるいは新しいサービスを提供する等、コストが発生します。
そのコストがすなわち原価で、商売というものはできるだけ原価率を低く抑えれば利益が多くなる仕組みです。

でも、青春18きっぷは、売り上げを上げるために、特に臨時列車を運転する必要もなく、駅員や乗務員を準備する必要もなく、時刻表に載っている列車を時刻表通りに運転しているだけで、切符の印刷費だけで1万円(当時の価格)が転がり込んでくるんです。

デパートやスーパーマーケットでは、例えば歳末大売り出しなどとなると、たくさんの商品を仕入れて、店員さんも増員して対応しなければなりません。
鉄道会社も年末年始の帰省時期などは、需要に合わせて輸送サービスを提供するために、臨時列車などを走らせなければなりませんが、それには要員も要る。
つまりこれが商品の「仕入れ」ということですが、青春18きっぷの場合はそれが要りません。
かつての大垣夜行などはそれでも続行便を出すぐらい賑わいましたが、それは例外で、基本的には特別なことを何もしなくても、時刻表通りに列車を走らせていれば1万円札がポンポンと入ってくる仕組みが青春18きっぷなのです。

だからつまり原価は印刷代だけ。

こんなにぼろ儲けできる商品はないのです。

ところが、最近ではその青春18きっぷを「儲からないからやめたい」と言っているというのだから、「さすが、自分で自分の会社のことを『民間会社』と言うだけのことはあるな。」と思うのであります。

なぜなら、私たち民間会社は自分たちで自分たちのことを「私たちは民間会社です。」などとは言いませんから、つまり、常識が違うのです。

確かに会社間の精算などは面倒かもしれませんが、それは自分たちの仕事のやり方の問題であって、若者たちが発売を心待ちにしている商品を「儲からないからやめましょうか。」と合同会議で相談しているようでは、せっかく若者たちが鉄道に振り向いてくれているのに、その若者たちに対して「お前ら相手では儲からないから来るな。」と言っているようなものですから、私は莫迦だと思うのであります。

かつてのサーフボード締め出しで若者離れを招いたことなど、国鉄を知らない社員ばかりになった今となっては想像もできないのだとは思いますが、印刷代だけで1万円が転がり込んでくるこんなおいしい商品を「儲からないからやめたい。」などということは、商売の基本原則がわかっていれば、発想すらしないと私は思うのですが、彼らから言わせるると私の方が莫迦ということですから、こういうお話しは休み休み言うことにしておきましょう。

大糸線が混んで乗せきれなくなってJRが困ってるということのようですが、お客様が多くて困ってるってことは、私の日本語では「うれしい悲鳴」ということですから、どんどん困ればよいと思いますよ。

皆様、大糸線へのご乗車、お待ちいたしております。

ちなみに、大糸線のお客様が増えれば自動的にトキ鉄のお客様も増えることになるのですが、トキ鉄は青春18きっぷは使えませんので、別に切符を買っていただくことになりますから、うちも臨時列車を走らさなくても儲かるということなのであります。