最近、どうしてもバタークリームのケーキが食べたい。
ずっとそう思っているんですが、なかなかバタークリームのケーキに出会わないんです。
ところが、今日、ふと立ち寄った木下(きおろし)の不二家で売っていたんです。
バタークリームのケーキが。
しかも半額で。

クリスマスも過ぎた26日、3000円の定価が1500円。
やった~!
ということで、出会いに感謝です。
ところで、皆さん、ご存じですか?
バタークリームケーキって。
イチゴのショートケーキなどの生クリームじゃなくて、今の時期なら常温でも数日間大丈夫な昭和の時代の、まだ冷蔵設備や輸送が確立していなかった頃に食べたケーキです。
実は私にはトラウマになるような出来事がありまして・・・
あれは昭和39年頃のことです。
当時の私は木更津の一つ手前の巌根というところに住んでいました。
隣りの駅がまだ楢葉と言っていた時代。
もちろん、汽車が煙を吐いて走っていた時代です。
あるとき親戚のおじさんが訪ねてきてくれました。
木更津に立ち寄って買ってきてくれた大きな箱に入ったケーキを持って。
おじさんが帰った後、当時はそんなに大きなケーキ(いわゆるデコレーションケーキ)は珍しかったので、近所の子供たちも呼んで食べようということになりまして、目の前で箱からケーキを取り出しました。
なんというのでしょうか。
クリームでバラの花を作ってあって、銀色の仁丹みたいな粒がまぶしてある、そんなバタークリームケーキです。
子供たちがうれしそうな顔で見守る中、お袋がケーキに包丁を入れました。
すると、どうでしょう。
ゴリッ!という音がして、ケーキに歯が立ちません。
「どうしたの?」と子供たち。
実はそのケーキ、ボール紙でできた丸い箱にクリームを塗っただけのもの。
つまり見本品だったのです。
「え~っ!!」
57年も前の4歳だった時のことを今でも覚えているぐらいですから、私の落胆は相当なものでした。
仕方がないので、お袋はそのボール紙のケーキの上に塗ってあるチョコレートやバラの花をかたどったクリームを子供たちのお皿にとって、食べさせたのでした。
食べさせると言うよりも、なめさせると言った方が適してるかもしれませんね。
今ならすぐにケーキ屋さんに連絡をして代わりのものを持ってきてもらうのでしょうけど、電話もない時代ですからどうしようもないですね。
翌日、お袋はバスに乗って木更津にあるそのケーキ屋さんにボール紙のケーキを持っていきました。
ケーキ屋さんは店員が間違えて見本品を渡してしまったことを平謝りしていたそうですが、帰って来た時には、お袋の手にはおせんべいとロシアケーキがあったのです。
「ケーキは? ケーキはどうしたの?」
そう尋ねる私に、
「ケーキは売切れでなかったのよ。だからおせんべいとロシアケーキを代わりにもらってきた。」
とお袋。
ロシアケーキって知ってます?
硬いビスケットにジャムがのってるヤツ。
甘い甘いクリームに比べたら、そんなものはありがたくもなんともない。
あぁ・・・・
私は深い落胆に落ちて行ったのです。
まるで奈落の底に転がり落ちるように。
あれから57年。
人間というのは着実に死に近づいていますから、そうなるといろいろなことを思い出すのでしょう。
この頃の私は、「あぁ、バタークリームケーキ」とずっと頭から離れなかったところに、今日、木下の不二家で巡り合ったのであります。
でもね、そんな私が企画している観光急行列車のスイーツコースは、実はバタークリームケーキがちゃんと入っているのです。

これですよ、これ。
ピンクのバラの花に緑の葉っぱ。
これがバタークリームケーキです。
あの、ボール紙の上に塗られたバラの花と同じですから、もう、涙が出るほどうれしくておいしいのです。
ということで、1月もスイーツ列車が走ります。
昭和の観光急行列車で昭和のバタークリームケーキ。
こういう時代考証をきっちりやって初めてストーリーが出来上がるのです。
あぁ、悲しみのバタークリームケーキ。
若い皆様もぜひぜひ、体験してみてください。
https://www.series455413express.jp/cont10/31.html
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