人類の進歩と調和

人類の進歩と調和

1970年の大阪万博のテーマです。
当時私は小学校4年生で、東京のガキにとっては大阪というところははるかに遠いところで、想像もできないところでしたし、万博へ行ったのはクラスで1人か2人ぐらい。
マイカーがあるのもそのぐらいでしたから、万博へ行ったのは金持ちの家の子だったと思います。

あれからすでに50年以上が経過していることになりますが、日本人の生活も随分進歩したと思います。

60年生きてますが、最初の30年は世の中が目まぐるしく変わりました。
汽車が煙を吐いて走っていたのがピカピカの新型電車になったり、
プロペラの飛行機がジェット機になったり、
路面電車が地下鉄になったり、
そういう風に子供ながらに目の前のものが大きく変わっていくのを目の当たりにしてきました。

昭和30年代当時、日本人の家には家電など無く、冷蔵庫も洗濯機も電子レンジも、何もありませんでした。
電化製品と言えば部屋の電灯とラジオぐらいですかね。
そんな中でよく生活していたなあと今になってみると思いますが、ご飯はお櫃に入れて布巾をかけておきましたし、残った刺身は小皿に残った醤油を絡めて茶箪笥にしまっておきました。
そうすれば次の朝なら何とか食べられましたし、匂いを嗅いでちょっと怪しければさっと焼いて食べました。
漬けとか炙りとか、お寿司屋さんで最近よく聞きますが、残り物をどうするかという生活の知恵ですから、あまり喜んで食べようとは思いません、

前の日のごはんをお弁当に持っていくと、ちょっと気になるときはお湯をかけてサッと洗って(湯がいて)食べていました。だから、お弁当箱は金属製じゃないとダメだったのかもしれません。

それから急に冷蔵庫、テレビ、洗濯機に瞬間湯沸かし器がやって来て、その次に電話。そしてクーラー、最後にマイカーですかね。
10年ちょっとの間にいわゆるハードが大きく変わりました。
高校2年生の時に池袋にサンシャイン60ができて、東洋一とか言われましたが、焼け跡から30年でずいぶん日本も進歩したと思いました。

でも、その後は、世の中の変化というものは見かけは大きく変化していませんね。
中身がどんどん変わってきたのです。

交通の話をすれば、電車は30年前から冷房車ですが、今では省エネだったり軽量だったり、あるいは自動制御だったり、見た目は変わりませんが中身が大きく変化しています。
飛行機も、昔のジェット機と今のジェット機では見かけは同じでも中身はまったく違います。

ワープロやパソコンといったそれまでなかったものが出て来たのも30年ぐらい前からですかね。
携帯電話が出たときは私は真っ先に買いましたが、掛ける相手がいないと意味がありませんから職場の同僚に付き合わせて買わせたりしました。

子供の頃、日本全体がまだ貧しくて、「腕時計に話しかけるとロボットが動き出す。」漫画やテレビを見て育った世代としては、そのころの夢が実現したように思えて、こういう世の中の変化に注目したのを覚えています。

デジカメとかビデオなんて最高ですよね。
撮ったらすぐその場で見られるし、気に入らなければ消すこともできるんですから。

少ない小遣いでフィルムを買って、撮ったフィルムを現像に出して、数日後に写真屋さんにもらいに行って初めてどんな風に撮れていたかがわかった時代でしたから。
フィルムは36枚撮れましたが、動画なんて1回3分。フィルムを買って、撮影して、現像に出すと、3分間の映像で1か月の小遣いがなくなっていたのが8ミリ映画の時代。
それが何度も消して撮り直しができるんですから。それもビデオテープは1時間とか2時間とか撮れるわけで、「こりゃあ、面白いぞ。」と思ってビデオの撮影を始めて会社を作ったのが30年前です。

そうやって、技術の進歩とともに人々の生活は豊かになりましたが、最近私が感じるのは、技術は進歩して生活は豊かになったかもしれませんが、私たちの人生と言いますか、ライフスタイルと言いますか、本当に豊かになったのかなあと思うのです。

昭和39年に新幹線が東京と大阪の間に開業して、日帰りが十分に可能になりました。
それまで片道6時間とか8時間かかっていた大阪ですが、その時代は「よくいらっしゃいました。お疲れでしょう。どうぞごゆっくり。」ともてなされていたのが、新幹線ができて日帰りが当たり前になりました。

私は子供のころ不思議だったんです。
大阪へ出張すると、今まで2日間かかっていたんですが、日帰りできるようになりました。
でも、皆次の日も会社に行くのです。

2日間かかっていた仕事が1日でできるようになったら、次の日はどうして休みじゃないんだろう。
給料が同じなら、次の日休みで良いんじゃないか。
せっかく文明が発達して2日間でやっていた仕事を1日でできるようになったら、次の日は別の仕事をしなければならないとすれば、それって便利になったとは言わないよね。

そんなことを子供ながらに考えていたことを思い出します。

最近「DX」という言葉をよく聞きますが、デジタル化で便利になって仕事がはかどるということは、ただ単にハンコが要らなくなるとか、郵便がメールになるとか、そういうことだけではなくて、自分たちの仕事のやり方はもちろんですが、文明の進歩を生き方というか、ライフスタイルを充実させるためにどう活用できるかが問われているような気がしてなりません。

そう考えると、トキめき鉄道の413・455系電車は2つの東京オリンピックを見て来た電車で、私と同じ時代を過ごしてきた生き証人ですから、価値があるのではないかと思います。

大阪万博から半世紀が経過し、「人類の進歩と調和」はどこまで進んでいるのでしょうか。

と何となくそんなことを考えた満月の晩でした。