新幹線が止まると・・・

昨日の地震は驚きました。
東北地方の一部地域では大きな被害が出たようですが、被害にあわれた皆様方にお見舞いを申し上げます。

10年経って、「お前さんたち、のど元過ぎればで忘れるんじゃないぞ」と地球から言われているようにも感じましたが、各地で今後、大きな地震が予想されていることをあらためて実感しました。

この地震で大きな被害を受けて、東北新幹線がしばらく走れないようです。
東北新幹線が走れないということは、山形新幹線も秋田新幹線も走れませんから、つまりは国の大動脈が機能停止したということになるでしょう。

昔なら、在来線を上手に活用してバックアップの列車を走らせることができたと思いますが、今ではもう無理です。
車両がない。
あっても首都圏の直流電車だから黒磯以北には行かれない。
どこかの特急車両を持ってくるにしても長距離は無理。
などなど、マニアの世界ではネットで盛り上がっているようですが、実際問題として動いたのは飛行機と高速バスですね。

飛行機が定期便を大型機材に変えて、さらに臨時便を出す。
これが、山形、秋田、青森、三沢あたりでしょうか。
高速バスは各方面に増便を出す。

でも、鉄道会社はできませんね。
そういうシステムになっていないからです。
鉄道会社は、新幹線を長距離輸送。在来線を近距離の地域輸送というシステムに切り替えてしまいましたから、在来線で長距離を走る列車がない。
今思えば、国鉄民営化で民間会社に経営を成り立たせるためという名目で、新幹線を持たせたのがその原因でしょう。
新幹線は経営的にはおいしいですから、いうなれば誰がやっても利益が出る。
そういうものを持たせておけば、とりあえず経営は成り立つだろうという判断だったと思いますが、今回のようなことが起きると、輸送システムとしての弱点になっていることがはっきりとわかります。

例えば、お隣の国、台湾では新幹線と在来線が共存共栄しています。
新幹線は1時間に何本も走っている。その横を並行在来線がやはり1時間に何本も特急列車や急行列車を走らせています。
そして、両方とも、乗客で混みあっています。
どういうことかというと、台湾では新幹線ができるときに、国鉄にはやらせずに別の民間会社を作って新幹線を走らせました。国鉄は在来線を一生懸命やりなさいということで、新幹線が開業した後も在来線の特急列車や急行列車、あるいは長距離の快速列車をしっかりと走らせています。

新幹線は日本と同じように料金が高い。
でも、在来線は比較的安い値段で乗れる。
そういう仕組みにして、結果的にお客様に選択肢を与えて、両方ともが混雑している状況です。
そして、さらに高速バスが縦横に走っている。
その全部がきちんと成り立っているのです。

ところが日本はそれができていない。
少なくとも鉄道の部分で新幹線と在来線が完全に分離してしまったので、今回のようなことがあると、バイパスルートとしての在来線が機能しないのです。

私は、これはシステムとして一つの欠陥だと思います。
交通としてバイパスルートがないのですから。
そして、地方はさらに新幹線を求めている。
ということは、今後さらに新幹線網が伸びると、その先に欠陥が広がっていくわけですから、国としては大きな危機があるのではないか。
そんなことを考えるのです。

いつだったか、岡山でタクシーに乗った時のこと。
その時私は岡山駅から岡山空港に向かっていました。
「空港まで」と言ってタクシーに乗ったんですが、運転士さんに「岡山の人は飛行機使いますか? 東京まで新幹線で3時間半ですから皆さん飛行機はいらないでしょう。」とたずねたところ、運転士さんから帰ってきた答えは驚きでした。

「お客さん、私たちは震災を経験してるんです。あの時、何か月も新幹線が動かなかったんです。飛行機があってどれだけ助かったか。だから、飛行機は無くてはならないんですよ。」

その言葉通りに岡山空港は駐車場が拡張されていて、以前よりも便数が増えていました。

なるほどね。
偉い学者の先生が「4時間の壁」などと言っていますが、そういう机上のお話はいざという時には役に立たないのです。
実際に各地を回ってみるとそういうことに気がつくのですが、つまり、バイパスルートの確保というのは交通にとって重要なことなのでありますから、新幹線ができたから飛行機はもう要らないなどということを素人は言ってはいけないのです。

例えば、東北新幹線の沿線で言うと、宮城県と岩手県は東京からの航空路線を新幹線の開業と同じ時期に廃止してしまいましたので営業路線としてすぐに運航開始することは難しいでしょう。宮城県と岩手県は新幹線が動かなくなれば高速バスということになりますね。
でも、山形はかろうじて路線を維持しているからすぐに増便ができるし、秋田も青森も三沢も同じです。

まぁ、仙台や花巻は大阪や名古屋、あるいは札幌経由というルートもありますから、飛行機のルートとしてはバイパスルートが確保されているとも言えますが、何日間か新幹線が動かないとなると、仙台も盛岡も結局は首根っこを押さえられたのと同じですから苦しいでしょうね。
「せめてブルートレインでも走っていれば」と思うのは私だけではないと思いますが、鉄道会社に言わせるともうそういう時代ではない。
万が一の時のためにそういうものを維持しておくことなどできないのであります。

じゃあ、どうするか。

一番簡単な解決方法があります。
それは貨物列車に客車をくっつけて運ぶことです。
客車なら動力も運転装置もいりませんから安く作れます。
そういう客車を揃えておいて、貨物列車に連結して県庁所在地だけを停車するような特急列車にして走らせればよいのです。
そうすればとりあえずバイパスは確保できますからね。
その客車はふだんは観光用に使っておいて、災害が発生したらそこに振り向ければよいのです。

貨物会社は地味な存在ですが、実は縁の下の力持ちで私たちの生活を支えている重要な会社です。そして、今、輸送というものを全国区の視野に立って把握できるのは貨物会社だけなのですから、もっともっと有効活用するべきだと考えているのです。

そんなことを考えていると、日本は台湾から学ぶものがたくさんあることに気がつきます。

あぁ、台湾に行きたいなあ。
そう思っているのは私だけではないと思いますが、1日も早く行かれる日が来ることを祈っております。

まぁ、新幹線が被害を受けるぐらいなら在来線も動けないでしょうから、鉄道以外のバイパスが現実的ではあるとは思いますが、東京-仙台間の常磐線経由の明日の特急列車がこれだけ空席があるところを見ると、コロナ禍で人の移動、輸送の需要が少ない時期でよかったのが不幸中の幸いと言えなくもないのがなんだか皮肉ですね。

※このブログを書いた後にANAが羽田―仙台間に3往復の臨時便を出すということがわかりました。
素早い対応ですね。
ちなみにJALの羽田―青森・三沢便は機材を大型化しても朝の便は満席になっています。
今の時期、出かけなければならないような人は、やっぱ飛行機なんでしょうね。