コロナでホッとしている人たち。

私には社長室があります。

私には不釣り合いな広くて立派な社長室。
就任した時に「私は社長室など要らないから、そこの、部長の隣のスペースに机置いて!」なんて言ったのですが、「いや、社長室じゃなければ困ります。」

ははあ、つまりは俺を封印しようということか。
そうは烏賊の〇〇!
というわけではないかもしれませんが、せめてもの抵抗として封印されないように私は社長室の扉は常に開けっ放し。
日本政府が将軍様に対して「常に門は開いている。」というのと同じ状態にしています。(笑)

だから、私の部屋には入れ替わり立ち代わり次々とスタッフが入ってきます。
部長だけじゃなくて、課長も、係長も、主任も、平社員も。
みんな気軽に入ってくる。
「俺を通さずに社長に話を持って行くな」なんで課長さんも部長さんもいませんから。

社長室というところはそんな雰囲気を作るようにしています。

前に勤務していた航空会社は本社の建物の真ん中に社長室があって、ガラス張り。
四方八方から社長が働いているのが見えるのが印象的でしたが、欧米の会社では社長室なんてそんなものですから、偉そうにふんぞり返っていたのでは笑いものになるだけですからね。

つまり、リーダーの条件として必ず求められるのが、

Approachable

Open and Honest

ということでありますが、日本の社長さんはどうもそうじゃないようです。

でも、今の世の中、偉そうに社長室でふんぞり返っている人を含めて日本中の社長さんが人類が経験したことのない未曽有の危機に翻弄されて真っ青になっているのではないでしょうか。

もちろん私もそうですよ。
「どうしよう????」
というのが正直なところですが、昨日のブログでも書いたように「こういう時にはチャンスがある。」と考えることにしていますから、次々にやってくる幹部の方々に、「最悪の場合を考えておくように。」「そして、そこから這い上がることを考えておくように。」「臨界点(ここまでは大丈夫だという数字)を出しておくように。」というようなことを指示しています。

でも、実は、これって飛行機の操縦と同じなんです。
飛行中にいつ何時どんな事態が起きるとも限りませんから、パイロットは常に準備をしているのは当たり前のこと。
「目的地が悪天候だったら?」
「飛行機に不具合が起きたら?」
「洋上飛行中だったら?」
というようなことを平常時から考えておく。

例えば東京からホノルルに向かって飛んでいくとしますね。
飛行中もし機内で何かが発生したらホノルルまで行ったほうが良いのか、それとも東京へ引き返したほうが良いのか。
東京からホノルルまで飛行時間6時間としましょう。
今、離陸してから2時間50分が経過しました。
緊急事態発生です。
あなたが機長ならどうしますか?
今まで2時間50分飛んできて、これから3時間10分かかりますから、引き返した方が早い。
そう思いますか?

実はそうじゃないんですね。
ハワイへ行ったことがある人なら経験されていると思いますが、帰りの方が飛行時間が長い。
同じ距離を飛ぶのにどうしてかというと、実は西から東に風が吹いているから、行きは追い風になるし帰りは向かい風になるから。
だから飛行時間6時間のちょうど半分の3時間が折り返し点ではないのです。

その時の風の強さにもよりますが、例えば今日のフライトの場合は折り返し点が2時間40分の地点だとあらかじめ計算しておいて、心に留めてあれば飛行中に緊急事態が発生しても焦ることなどありません。

この折り返し点を Point of no return と言うのですが、2時間40分経過した時に「今、point of no returnを過ぎた。」と確認しておけば良いだけのことです。

これは飛行機の話ですが、経営に例えると、会社の資金力であったり人材であったり、あるいは在庫であったりといろいろあるわけですが、そういうことを把握しておいて、コロナ騒動がこのまま続けば自分の会社はどれだけ耐えられるか、などということを把握しておくことは経営陣でしたら当たり前のことだと思います。
そして、その上で、その時々の状況を見ながら、いつ、何を、どのようにしていくかということを考えなければならないのです。

ところが、会社の中には実はそうじゃない人もいるわけで、つまり、簡単な話、今回のコロナ騒動でホッとしている人もいる。
「仕方ないよね。こんなんじゃ数字伸びないし。」
「売り上げ悪いけど、俺のせいじゃないし。」
と言う人たちです。
つまり、自分の責任を棚に上げて、あわよくばコロナのせいにしてしまおうという魂胆の人。

結構いるんじゃないでしょうか。
本当なら何の結果も出していないのにコロナのおかげで俺の地位も安泰だとか思っている人。

先日、営業の課長さんが私の部屋に入ってきました。
手に何だか資料を持ってます。
「社長、ちょっといいですか。」

う~ん、何の話だろうか。
確かに観光列車はキャンセルが出ているし乗車券の販売額も乗車人員も落ちています。
そういう話かなあと思いました。

「どうしました?」
私が切り出すと営業の課長さんの口から飛び出した言葉は・・・

「7月の観光列車ですけど、こんな感じで行きたいんですよ。ちょっと挽回しないといけないし。」と実に前向きなお話し。

「よ~し!」
私は心の中で叫びました。

既にコロナが終息した後の観光イベント列車の企画に入っているのです。
(時期的に見れば当たり前なんですけど、私にはうれしかった。)

話を聞くとその営業企画は実によくできていて、考えていることは私も同じ。
まだまだ手つかずの地域の観光資源を発掘する素晴らしいプランでした。
でも、一つ気がかりなことがあります。

「ちょっと、数字大きすぎませんか?」
私はそう切り出しました。
「ふだんの時なら行けると思いますが、コロナが終息する前提のプランですから、出だしは良くないと思いますよ。無理しなくても良いから、このぐらい(の数字)でいかがでしょうか。」

営業課長は私のその言葉を聞いてにっこり。
「社長にそう言っていただいてちょっと安心しました。」
そりゃそうですよ。
営業課長が強気に攻めに来ているのを感じましたから。
その気持ちがわかったから、「あまり無理しなくても良いですよ。」という言葉が出るのです。

最初から逃げに入って来ていたら、「もっとできるだろう!」と言っていたところですが、ありがたいことにトキ鉄にはコロナを理由に逃げ道を作ろうという人はいないんです。

あとはコロナの終息の兆しが見えたら、その時点で事業計画を修正して取締役会に諮って承認を得ること。
これは別途私が指示する私の仕事です。

こういう時期ですから営業的には下がってしまうのは当然として、次の手を打つために人材育成などにはお金を掛けなければなりません。
もしかしたら製造業の業績悪化で即戦力になる良い人材が採れるかもしれない。そう考えるとチャンスです。
会社から出ていくお金には2種類あって費用なのか投資なのか。人を採用して育てることは投資に当たりますから、こういう時期こそ怠ってはならないと考えています。

目標を高く設定することは大切なことです。
でも、高い目標を達成するためにはそれなりの準備が必要です。
今は身をかがめて嵐が通り過ぎるのを待つしかありませんが、高いところをつかむためには高くまで飛びあがらなければなりません。
そして、そのためには一旦しゃがんでジャンプ力をつけることが必要です。
今は嵐を避けるために身をかがめているように見えるかもしれませんが、実は嵐が過ぎ去った時により高くジャンプするために少ししゃがみこんでいるのです。
これがピンチをチャンスに変えるということです。

そう考えてチームをリードしていくのがリーダーの仕事であって、営業課長は営業チームを自分なりにしっかりとまとめている。

私はスタッフに恵まれて本当にラッキーだと思います。

コロナを理由にホッとしている人間などトキ鉄には居ないのですから。

経営者はできない理由を並べるようになったらおしまいですからね。