飛行機のエンジンの数。

なんだか鉄道も飛行機も小さな事故が続いていますね。

 

これはいわゆるヒヤリハットですから、こういう小さな事故を教訓として大きな事故の芽を摘み取りなさいという教えだと私は考えるようにしていますが、飛行機の場合は、最近みんな双発機になってしまって、ボーイング747ジャンボジェットのようにエンジンの数が多い飛行機は嫌われる傾向にあるのが、個人的にはちょっとさみしく感じています。

でも、だからといって、「エンジンの数が多い方が安全性が高い。」というような話をするつもりはありません。

 

私は、自分ではエンジンが一つの飛行機しか運転したことがありませんが、当時のことを思い起こすと、教官の話が浮かんできます。

 

「エンジンが2つの飛行機の方が安全性が高いですよね。」

 

そう尋ねたときの教官の返答が思いもよらなかったからです。

 

「お前、なぜエンジンが2つあるか知ってるか? それはなあ、2つ必要だからなんだ。だから1個止まっても大丈夫だということはないんだ。逆に言えば、エンジンが2つあるということは、心配なことが2つに増えるということなんだ。」

 

まあ、確かにそうなわけで、でも、1個だったら止まれば終わりだけど、2個あれば何とか持ちこたえて、どこか近くの空港まで行かれるのも事実で、そういう時に、「では、1個のエンジンでどこまで到達できますか?」というのが、航空機の発展の歴史上で、常に問われてきているのです。

 

1960年代にアメリカではプロペラの時代からジェット機の時代へ移行しました。

当初は150人乗り程度の大きさで、4発の飛行機が主流でしたが、技術革新で2発の飛行機が登場しました。

今でも活躍しているボーイング737などがその代表例で、つまり、それまでは小さなエンジンしか開発できなかったために、その小さなエンジンを4つ取り付けて飛ばせる最大の飛行機が150人乗り程度だったのですが、大きなエンジンが開発できたために、同じ大きさの飛行機を2つのエンジンで飛ばすことができるようになったのです。

 

これはアメリカの技術開発の話ですが、アメリカから日本やヨーロッパなどの遠くへ飛ぶ飛行機は、その後も4発の時代が続きましたが、国内線にはエンジンが2つの飛行機が主流になって行きました。

ところが、アメリカという国は大きな国ですから、国内線といってもいろいろあるわけで、一番問題になったのがハワイ路線でした。西海岸からハワイまで5時間ほどかかるのですが、そのすべての区間が太平洋上を飛行します。もしエンジンが2つの飛行機で、1発にトラブルが発生した場合、近くに緊急着陸できるところがない。片道5時間ということは、単純計算しても最大2時間半は片肺で飛行しなければなりません。当時の法律では、片肺で飛行できる時間は60分以内と決められていましたから、つまり、双発機ではハワイへ行くことは規定上不可能ということです。

 

そこで開発されたのが3発のジェット機。

ボーイングでは双発機の737に対して、727という3発の飛行機が登場しました。

胴体も主翼も同じ設計で、乗客の数もほぼ同じような機体が、双発機と3発機で2種類用意してあるのはこのためで、ボーイング727はハワイまで飛ぶことができる飛行機として準備されたのです。

 

その後、ワイドボディーのエアバスの時代になって、DC10やトライスターというエンジンが3発の飛行機が登場しましたが、これらの飛行機も、ある程度お客様の需要が見込まれる洋上飛行を必要とする航空路線に就航し、重宝がられました。

 

ところが、1980年代以降、エンジンの技術革新が進んでどんどんエンジンが大型になり、パワーが増してくるようになると、3発の飛行機が双発で十分になり、4発のジャンボジェット級の飛行機でさえ、双発で十分になってきました。そして、エンジンはパワーだけでなく、安全性の点でも信頼性が飛躍的に向上しましたので、たいていの区間であれば洋上飛行も問題なくできるようになりました。今ではアメリカやヨーロッパへ12時間以上も飛行すす航空路でも、エンジンが2つの777や787がふつうに飛行できる時代になったのです。

その根拠となるのが、万一片肺になってもそのまま3時間は飛び続けることを認めますよという規定で、これならば、5時間の洋上飛行でも双発機で十分可能だということになりますからね。

 

さて、そうなると不運なのは3発機で、用途がどんどん狭くなりました。

また、当時の技術では双発機はパイロット2人で操縦できたものの、エンジンが3発になるとエンジン担当のエンジニアが乗務する3人クルー体制が必要でしたから、人件費も余計にかかります。そういう理由で3発の飛行機はその後開発されることなく、今ではほとんど絶滅危惧種になっているのです。

 

同じ胴体、同じ主翼など共通の設計で登場したにもかかわらず、B727がすでに過去のものになって久しいのに、B737の方はその後も改良を続けられ、登場から50年も経とうとする現在でさえも、国内線や短距離国際線の主役として全世界で活躍しているのは、このエンジンの数に由来するものだったのです。

 

▲ボーイング727

 

▲ロッキード・トライスター。(撮影:川田光浩さん)

 

どっちの飛行機も好きだったなあ。

 

つまり今ではエンジンの数は3つより2つの方が良いわけで、だったら、2つよりも1つの方が良いという考え方もある。

これが、教官が言おうとしていたことだったのです。

 

人間も飛行機も、必要以上のものは持たないこと。

そうすれば、おのずと覚悟が決まるということなのです。

 

今頃、教官は草葉の陰で笑っているんだろうなあ。

 

「なんだお前、今頃になってやっとわかったのか。」とか言って。

 

そうなんです。教官はいつも、人生と飛行機は同じだと教えてくれていたのでした。

 

 

 

いよいよジャンボジェットの時代も終わりのようですね。

ずいぶん乗ったけど、もう一度ぐらい乗りたかったなあ。

 

長い間お疲れ様でした。