千葉県の県紙「千葉日報」の本日の論説欄にいすみ鉄道が載っていました。
先日、北海道の根室本線沿線の6市町村の市長さんや議長さんの皆様方がいすみ鉄道に視察にいらしていただいた件です。
論点は地域住民がどうやって鉄道を盛り上げて守っていくか。
当然ですが、我らがカケス団長が登場しております。
(記事をネットに載せると怒られてしまいますので、一部写真のみ掲載しましたが、詳細は千葉日報さんのサイトからぜひお読みください。有料会員限定となります。)
さて、私もそろそろ就任してから9年目にはいりますが、このところ、ローカル線を取り巻く環境が大きく変わってきていることを感じます。
最初の頃は、「赤字ローカル線」というあまり良くないイメージで、「地域のお荷物」と言われていて、私のことも「航空会社辞めちゃって大丈夫なの? せいぜい頑張ってね。」的な感じでしたが、「観光鉄道」というものに徐々に理解が進んで、「ローカル線は人を呼ぶツールになる。」とか、「ローカル線があれば地域が有名になれる。」ということをご理解いただくようになりました。
その後、いらしていただいたお客様をどうおもてなしをするかということが話題になり、駅弁や地域の食材を使ったレストラン列車などが注目を集め、いすみ鉄道は一躍全国区になりましたが、この1年は、「実は、そういう活動を率先してやっているのは地域の皆様であり、ローカル線と地域というのは、実は切っても切れないものがあって、結局地域の人たちが、覚悟を決めて、何とかローカル線を維持していくことで、地域の衰退に歯止めがかかり、地方創生の糸口になるのではないか。」と、そういう形で報道されるようになってきました。
儲かるとか儲からないとか、赤字だとか黒字だとか、そういう論説はあまりされなくなってきているように思います。
いすみ鉄道は、平成25年に発生した脱線事故からの復旧費用や、線路の改良工事など、事故によって判明した安全に不安な部分に対して予定外の追加費用が掛かったことが経営に重くのしかかり、今期の決算も赤字で、正直申し上げて私の経営者としての評価は決して褒められるものではありません。でも、そういう経営的な危機になればなるほど、地域の人たちも必死になって盛り立ててくれるのも事実で、居酒屋「あきら」などという列車を企画して盛り上げてくれるのも応援団を始めとする地域の皆様方なのです。
実は、鉄道会社を黒字にするということは、鉄道単体では無理な話で、私が尊敬し、就任当初からいろいろ参考にさせていただいているあの唐池会長さん率いるJR九州だって、鉄道事業本体は赤字なんです。でも、そういう赤字の鉄道が上場できるということも事実であり、ではなぜ赤字の鉄道会社が上場できるのかといえば、それは鉄道会社というのはいろいろな関連事業という大変おいしい部分を持っているからで、そういうおいしい部門を含めてトータルに考えれば、上場できるほど儲かるというカラクリがあるのです。
いすみ鉄道は第3セクター鉄道ですから、長年にわたって地域の支援で成り立ってきた経緯があります。本来なら国鉄の末期に、国鉄と共に消えていたはずの線路を、地域の人たちが国の方針に反して残したわけで、つまりは国の方針は昔も今もバス転換ですから、その方針に反して鉄道として残した地域には赤字の補てんなど国はしてくれるはずありません。そんな状況の中で、毎年の赤字補填まで地域行政がお金を出して、痛みを伴いながらも何とか鉄道を維持してきたわけです。
私は国鉄の末期から、全国の廃止対象路線を引き継いだ第3セクター鉄道が、大変な苦労をして現在まで生き残っているというのを知っていますから、いすみ鉄道が走ることによって、鉄道事業以外に発生する「おいしい部分」を地域の皆様方が享受して「おいしい思い」ができれば、鉄道を残してきた意義を地域の皆様方が感じることができる。そう思って、観光客がいらした時に地域の特産品をお召し上がりいただき、お土産を買っていただき、特産品が有名になれば、地域にとって必ずプラスになるはずだからと思って、「いすみ鉄道が全国区になることで、沿線地域も全国区になることができる。」というポリシーで、一貫して地域を利する存在になることに努力してきています。
地域の皆様方も、それに気づき始めていて、例えば伊勢海老を食べさせるお店が行列ができたり、大原漁港の港の朝市は、今では、あの有名で伝統がある勝浦の朝市をしのぐ勢いになっていますし、伊勢海老そのものも、何度も何度もいすみ鉄道の伊勢海老特急がテレビで紹介されることで、贔屓目に言えば、「千葉県といえば伊勢海老ですね。」と言ってもらえるようになったと考えています。
大多喜駅前の観光案内所である「観光本陣」も運営システムが変わったことで、今では以前と比べると見違えるように活気が出てきましたし、大多喜の城下町の旧街道にもここ数年で飲食店やお休み処が数店できました。大多喜城は千葉県の博物館になっているのですが、入館者数が右肩上がりと聞いています。全国的に県営博物館というのはなかなか厳しい状況にあるようですが、それが大多喜だけは右肩上がりということも、いすみ鉄道効果であると私は考えています。
観光本陣の事務局長さんが、観光案内所をリニューアルするときに「売店業務を拡張したいけど、いすみ鉄道さんの売店の営業妨害にならないかな。」と気を使ってくれたのですが、その時私は「どうぞ、どうぞ。お店は1件よりも2件の方が、お客様にしてみたら利便性が高まりますから。」と二つ返事で了承しました。当然、うちの売店の売り上げには響きますよ。でも、今までいすみ鉄道を一生懸命守って来てくれた地域の皆様方が、いすみ鉄道にいらっしゃるお客様のおもてなしをすることで利益を得られるということは、私の基本方針であって、観光案内所が賑わって経営が向上すればこんなにうれしいことはありません。そうすることでローカル線をきっかけに、地域が浮上することができれば、「鉄道を守ってきてよかったな。」と地域の皆さんに思っていただけると考えているわけです。
黒字にするというのであれば、それなりのやり方があって、車両を増やして運転間隔を短くしたり、そのためには線路設備を改良して列車交換ができる駅を増やしたりといった設備投資や人的投資をして経営規模を拡大することだったり、地域外に進出することだったり、あるいは事業そのものに民間資本を入れて、大企業の経営ノウハウを投入するなどする必要があるわけで、しかしながら私に課せられた公募社長の使命というのは、「今あるものでどうやって鉄道を存続させるか。」ということでありますから、就任以来、営業的投資につかえるようなお金は一切ありません。だったら地元に利益が落ちるシステムを作りましょう。鉄道単体では赤字でも、地域全体としてトータルに見たら地域そのものが活性化すれば、鉄道を守って来た地域にとってプラスになるでしょう。ということを実践しているのであります。
そんな中で、ここへきて今更ながらに思うことは、ローカル線というのはやっぱり地域なんです。
地域の人たちが、駅に集まり、鉄道にかかわって、いらしていただいたお客様のおもてなしをすることで、自分たちのお財布の中のお金が増えるということはまぎれもない事実であって、ローカル線がそういう集客のツールになるということもまぎれもない事実でありますから、これからの時代は、ローカル線をどうやってうまく使って行くかということが、地域に課せられた課題でもあると私は考えています。
鳥取県の若桜鉄道の山田社長が先日任期の途中で退任されました。
山田社長は私がいすみ鉄道でやっていることを、ずっと見てこられた方ですから、いすみ鉄道のやり方を自分の地域でも展開しようと考えられて努力してこられたと思います。でも、やっぱり、地域に受け入れられなかったのでしょうね。
とても残念なことです。
それに対して、いすみ鉄道沿線の皆様方は、こんな好き勝手にブログでいろいろ書き綴っている「馬鹿者」の私のことを、きちんと受け入れてくださっているわけで、株式会社としては赤字なわけですから、私は社長としては失格なのですが、それでも温かく見つめてくれているというのも、まぎれもない事実なのです。
おかげさまで、この春運転開始した花金列車も、なかなか好調です。
好調と言っても、一日6人とか8人なんですが、それでも外房線の特急から乗り継いでこられるお客様もいらして、夜の10時近くの臨時列車も、しっかり地域の足になりつつあると私は考えています。
でも、6人とか8人のために、つまり運賃収入3000円とか4000円のために乗務員を超過勤務させて、列車を運転するのであれば、赤字か黒字かの話で言えば、「そんなことはやめた方が良い。」のでありますが、それは費用的便益性の話であって、たとえ株式会社であっても地域に公的なサービスを提供する会社は、社会的便益性ということも考えるべきであるというのが私のポリシーでありますから、儲からなくたって走らせるべきだと考えているのです。
夜9時過ぎの臨時列車に8名ものお客様がご乗車されるということは、田舎のローカル線にとって見たら、実はこれはすごいことなのです。
奇跡なのです。
そして、観光需要ばかりでなく、本来の意味である地域輸送ということでも、いすみ鉄道では奇跡が起き始めている。
そういうことを考えると、やっぱりローカル線は地域あってなんですよね。
本日の千葉日報の記事を読んで、そんなことを考える晩でございます。
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