瑕疵担保責任

最近良く聞く言葉に瑕疵(かし)担保責任という言葉があります。

 

不動産取引などでよく使われていますが、瑕疵というのはマイナスになる部分ということで、そういう事実があればその物件を買わなかったのに、知らなかったので買ってしまった。ということがないように、後になってわかったとしても、売り主の側が、買い主に対して責任を負いますよということです。

 

例えば豊洲に市場を移転させようとして、東京都が土地を買いましたが、実はこの土地は昔ガス会社の工場があったところで、土中に様々な有害物質が浸み込んでいる可能性がある。買った側は、そういうことを知ったうえでその土地を買ったわけで、購入価格もそれなりだったと思いますから、これは売主の側に瑕疵担保責任は発生しませんね。

大阪の飛行場の近くの国有地を学校法人が購入した際に、実はその土地の地下には大量のごみが埋まっているらしいということで、通常の周辺土地の相場よりもはるかに安い金額で学校法人が購入したことが国会でも話題になっています。これも、そういう瑕疵があるということを知ったうえで、それでも良いから購入しますという話であれば、売り主である国の側には瑕疵担保責任は発生しません。でも、その分安く売却しているわけで、まあ国会の先生方は、その安さが常識では考えられられないから、何かあるんじゃないかということでもめているわけですが、こういう大きな土地だけじゃなくて、私たちが気になるのは、マイホームを手に入れようとするときに、もしその一戸建てやマンションの部屋などが、何か目に見えないような欠陥があるのではないかと、疑ってしまうということです。

 

例えば、買った時は気が付かなかったけど、大雨が降ると雨漏りがしたり、下水が詰まってあふれたりと、そういう欠陥が後になってわかった場合でも、不動産取引の場合は、瑕疵担保責任が契約事項にうたわれていますから、買主さんは売主さんに対して契約の解除を申し出ることができるという、そういう法律的なお話です。

 

ところが、この瑕疵という考え方には、実際に土壌汚染があるとかゴミが埋まっているとか、あるいは雨漏りがする、下水が詰まるといったその物件の欠陥ばかりでなく、実は「心理的瑕疵」というのがあるのです。

見た目や生活するために支障がある欠陥ではないけれど、心理的な瑕疵がある。どういうことかというと、その場所で事故や事件があって人が死んでるとか、自殺現場になっているとかいう場所です。

 

以前にも書いたことがありますが、東京生まれの東京育ちの私にとってみたら、かつて大きな事件や事故があった場所というのはだいたい把握しています。親や親せきから聞いた話だと、あの辺り米軍機が爆弾を落としてたくさん人が死んだけど、埋めるところがなかったんであそこの公園に埋めた。などという話も含めると、東京の地域にはいたるところにそういう土地があって、今、住宅地になっていたりマンションになっている。ということも事実であって、まあ、知らないで高いお金を出した買ったんだろうから、余計なことを言ってもしょうがないよね。と思って黙っているわけです。

でも、そんな70年前の戦争の時の話や、40年も50年も前の私の子供の時の話じゃなくて、平成になってからの、最近の事件や事故だったら、やっぱりお知らせしないと、この心理的瑕疵に当たるのではないかと考えているわけで、売り主さんというのは売りたい一心で、できるだけ高く売ろうと考えているわけですから、こういう心理的瑕疵というのはなかなか公にしたがらないのではと思うのです。

 

そんなことを考えていたら、ネット上ではそういう事故物件の情報を専門に集めて公開している不動産屋さんがあるようで、実はそのサイトは見ているとなかなか興味深くて、実際に私の実家の近所であった事件や事故もきちんと表記されていますから、なかなか信憑性があると感心していました。

日本全国の情報を集めて、おそらく何十万件という事故物件の情報が地図上に事細かく書かれていますから、不動産を買おうとする人にとってみたら、貴重な情報源ですね。

 

そうしたら、それだけじゃないんですね。アパートなどの賃貸物件というのは、瑕疵担保責任がどこまで問われるかという話になった時に、例えば入居者が自殺した部屋の場合などは、次の入居者に対してはきちんと告知したうえで契約しなければなりませんが、次の次の入居者に対しては瑕疵責任は発生しない。つまり、その部屋で自殺があったということは言わなくても良いというのも法律にあるようなんです。

まあ、これは、一人別の人が入居すればお浄めが済んだというようなことなのでしょうけど、おそらく、その一人目の人が「自殺のあった部屋」と知ったうえで契約して住みたいかというと、なかなかハードルが高いということなのでしょうね。

 

でもって、もう少し調べてみたら、そういう事故物件を専門に狙って住みたがっている人たちというのがいることがわかりました。

都内の一等地を相場よりはるかに安い値段で借りて住むことができるわけですから、つまり心理的に自分は気にしないという人であれば、かえってお得な物件ということになるわけです。お笑い芸人さんにもそういう人がいるようですが、まあ芸人さんはなんでもネタにしたいでしょうから、安く住めてネタになるという点では最高の物件かもしれませんね。

 

そうしたら、そういう物件を次から次に渡り歩いている人もいるようで、中には大家さんからお金をもらって住んでいる人もいるみたいなことが書いてあって、そうやって数か月住んで、その人が出て行けば、その物件は浄められたようなもので、その次に入居する人に対しては瑕疵担保責任がありませんから、契約時に「事故物件」であることを言う必要はありませんし、借主が後で誰かに聞いてクレームをつけて来たとしても、大家さんとしては賠償する責任もないということなのです。

 

中にはそういう物件を複数契約して、各部屋から月々数万円の手数料をもらいながら、順番に泊まり歩いて生活している人もいるみたいで、心理的にタフなのか、それともそういう趣味なのかはわかりませんが、世の中にはいろいろな人がいるなあと私は感心しているのです。一人で何部屋も契約してはいけないということはありませんからね。

 

私も不動産が好きで、マンションを4つも5つも所有したことがありますが、すべて中古物件ですが、基本的にはワンオーナー物件を買うようにしましたし、幸か不幸か過去にはそういう事故物件に巡り合ったことはありません。でも、今は多様性の時代ですから、民泊をやるにしても、そういう物件に泊まりたいという人も出てくるわけで、だとしたら良いビジネスになるかもしれないなあ。

などと考えてしまうのでありますが、私は個人的にはそういうところには住みたくはありませんので、あくまでもビジネスとして考えるのであります。

 

独居老人の孤独死なども状況によっては事故物件に入るようですから、これからは多いかもしれませんね。お年寄りの一人暮らしに部屋を貸したくないという大家さんの気持ちも理解できますが、不幸にして事故物件を抱えてしまった大家さんは、発想の転換で新しいビジネスになるかもしれないというのも、時代の潮流ではないでしょうか。